第1章:プロローグ
序章を終えて、ここから第1章です。
オルクト魔帝国。
テュール異王国の存在する半島の、根元に当たる部分に広がる大国だ。
実質、テュール異王国と隣接する、唯一の国家である。
その力の源は、この地が発祥とも言われる、魔術。
その最先端の魔術技術を有するのが、オルクト魔帝国だ。
それだけに、各国からその技術を学ぼうと、多くの研究者や術者が訪れ、彼らの研鑽によってさらに技術は発展する。
そうして、他国との間に絶大な国力差を持っている国だ。
国のトップは皇帝。他国からは魔皇と呼ばれる存在だ。
その身を狙う者は多く、たとえ皇帝といえど、戦闘能力がないでは話にならない。
もっとも、今代の皇帝は、歴代の皇帝達の中でも、屈指の戦闘力を持っているが。
「・・・・・・まったく面倒な」
その皇帝は、言葉を吐き捨てる。
オルクト魔帝国の首都の中央にある城の外郭に近い建築の屋根の上である。
暗闇だからわかりづらいが、周囲には切り捨てられ、焼け焦げた死体が複数転がっている。
「あえて言います・・・・・・。自業自得ですよ」
「・・・・・・あのなあ・・・・・・」
炎のごとき、赤色の髪と真紅の眼の少女が、感情を浮かべない目でこちらを見ていた。
「いくら皇帝だからと言って、いつも城で守られている、というのも芸がないだろう?」
「あえて言います・・・・・・。だからと言って、わざわざ自分から暗殺者の迎撃に出るのは、いささか度を越えているかと。端的に言って、馬鹿ですかあなた」
平坦な口調の少女の声に、皇帝は振り返る。
「・・・・・・誰だ? そんな言葉を教えたのは・・・・・・」
「あえて言います・・・・・・。リズの主な会話相手は陛下ですので、学ぶ相手といえば陛下ですね」
「俺様はそんなに口が悪いか・・・・・・?」
口の中で小さく呟き、切り捨てた暗殺者を見下ろす。
「これで全てか?」
「あえて言います・・・・・・。肯定です。今回の暗殺者は八人でした。その全てを陛下は切り捨てました」
やれやれ、と紅の少女は首を振って、
「あえて言います・・・・・・。自白させることができません」
「暗殺者に事情聴取などしたところで、意味がないだろうが。どうせ何も知らん下っ端だ。こんなものは」
吐き捨てるように皇帝は言うが、紅の少女は
「あえて言います・・・・・・。例えそうでも、捕まえることも必要です」
「はいはい。まあ、それも正しいけどな・・・・・・」
見下ろす。
転がる死体のほぼすべてが、一刀で切り捨てられている。
それだけでも、この魔皇帝の剣腕のすさまじさが分かる。
切り口は、肉が焦げている。
「・・・・・・さて? しかし、どうするかな?」
「あえて言います・・・・・・。何がですか?」
「あえて聞くが、お前の口癖、やっぱり妙じゃないか?」
皇帝は苦笑交じりに問いかける。
「あえて言います・・・・・・。個性が大事だと仰ったのは陛下ですが?」
「・・・・・・そうだったな」
昔の気まぐれを指摘され、皇帝は頬をかいた。
「・・・・・・ふむ。久しぶりに旅行に出るか」
唐突にそう漏らした。
「あえて言います・・・・・・。皇帝としての仕事はどうするのですか?」
「この国なら、俺様が一月いない程度、どうとでもなるだろう」
「あえて言います・・・・・・。怒られますよ?」
無表情のまま、首を傾げ尋ねる少女に、皇帝は苦笑する。
「なあに。いろいろ大丈夫だろう」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうした? 何も言わないのか?」
皇帝が問えば、少女は膝を折って首を垂れる。
「あえて言います・・・・・・。我が刃は陛下のものですので」
「おう。じゃあ、ついてこい」