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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第41話:終わった後で(4)

 腕を前へと真っすぐに伸ばす。

 その手には短剣が握られ、その剣先は、遠くに置かれた的へと向けられている。

「―ブレイス―

 光よ/収束せよ/狙い/撃て」

 詠唱を一つ。

 短剣型の発動体、ブレイスの剣先に一瞬小さく光の球が現れたと思った直後、それは消えた。

「ふう・・・・・・」

 腕を下ろし、のんびりと歩いて的を見る。

 白地に、赤の円がいくつも重ねられたそれを見れば、的の中心に黒く縁が焦げた指先ほどの穴が開いている。

「・・・・・・・・・・・・うーむ」

「何か、ブレイスの不調でもありますか? はい」

 同じように的を見ていたルイホウにそう言われて、モリヒトは首を横に振る。

「いや、ブレイスの方は問題ない」

 また一本使いつぶした、と文句を言われはしたものの、もともとが量産系である。

 リングと合わせて、新しくもらった。

 とはいえ、

「うーん・・・・・・」

 また、唸る。

 モリヒトのその様子を見て、的の真ん中を魔術が撃ち抜いているのを見て、ルイホウはやはり首を傾げた。

 モリヒトが、この結果に唸っている理由が分からないからだ。

「何か、問題でもあるのですか? はい」

「あるっちゃあるし、ないっちゃない」

 モリヒトの言葉に、やはりルイホウは首を傾げた。

「なんで当たったんだろうか?」

「は? 狙って撃てば、当たるものでは? はい」

「ふーん?」

 ルイホウはそう言うが、モリヒトは、魔術を撃った時の地点を見る。

「あそこから・・・・・・」

 そして、的に手を触れて、

「ここまで」

 距離にして、五十メートルほど。

 狙えば、確かに当てられる距離ではあるが、

「ルイホウは、真ん中狙って、百発百中、できるか?」

 そう聞かれたルイホウだったが、ルイホウは、平然と頷いた。

「可能です。はい」

「今の、俺の魔術と同じ魔術でも?」

「・・・・・・・・・・・・」

 モリヒトの問いかけに対しては、ルイホウは難しい顔をして考え込む。

 ルイホウが使い慣れているのは、発動体の杖『サロウヘイヴ・メイデン』を用いての水魔術だ。

 そして、ルイホウが魔術で戦闘を行う場合、水を通じて知覚範囲を広げ、魔術のターゲットを定める。

 地下の石堂でも、水を伸ばして、モリヒト達を探したし、水の形を変えることで、簡単な意思疎通を取って、作戦を打ち合わせた。

 その辺りは、もともとがウェキアスという破格の性能を持つ発動体を使うことと、ルイホウ自身の水属性魔術への適性の高さによってなせる技だ。

 ともあれ、ルイホウが魔術を使う場合、探知魔術などを併用することで、かなりの遠距離、広範囲、精密な魔術行使が可能になる。

 それこそ、的当てくらいなら、条件によっては、一キロメートル先でも狙撃できる。

 だが、そこで水を使わない魔術で、探知系の魔術も使わない、となると、話は別だ。

 まして、魔術というのは、発生点から距離が離れれば離れるほど、減衰する。

 物理法則による減衰なので、物理法則を利用できるなら、同じ魔力量でも射程は伸ばせる。

 例えば、上から下へ撃ち下ろす魔術と、下から上へと撃ち上げる魔術を、同じ魔力量で撃った場合、同じ威力を保ったまま、前者の方が射程が長くなる傾向にある。

 それを無視して射程を伸ばそうと思えば、魔力の消費量が多くなる。

 さらに言うと、遠くになればなるほど、当然ながら命中率は落ちる。

 まして、五十メートルも離れた場所にある、直径三十センチもない的の中心など、何もせずに目を凝らして見えるものではない。

 そこに、一発で命中させる、というのは、

「正直、俺の腕でできることじゃねーんだよな」

 だが、当たってしまった。

「むう・・・・・・」

「地下の石堂で、なにやらいろいろと知識を得た、とおっしゃっていましたが? はい」

「あれ、ほとんど忘れた」

 実際、最後の一撃を放つのに魔力をこめまくった結果として、かなりの量の魔力を消費したわけだが、その時に感じた、ごっそりと何かが抜け落ちる感触。

 あれがあったためか、あの石堂で感じていた、なんとなくなんでも直感的にわかる感じは、いつの間にか消えてしまっていた。

 とはいえ、

「自覚のないところで、なんか魔術の技量が上がってる・・・・・・」

 置き土産、というか、残滓、というか。

 そういうものはあったようだ。

 今回は特に怪我もしなかったし、一晩寝たら魔力も回復した、ということで、新しいブレイスももらって、魔術の訓練に出てきた。

 で、一発魔術を放ってみれば、なんと正確性が上がっている。

 変な話だが、当たる、という確信があった。

「腕が上がった分には、悪いことではないと思いますが。はい」

 モリヒトの懸念を、ルイホウは正確に察したようだった。

「なんか、代償がありそうで、怖いわあ・・・・・・」

 モリヒトがちょっとひきつった顔で言うのに、ルイホウは苦笑した。


** ++ **


「何はともあれ、今回は怪我してないし、祭りは近いぞ。おー、と」

「そうですか。はい」

 あの後、数発の魔術を試し、どれも威力と正確さ、というか、精密さが上がっていた。

 狙った通りの場所に、狙った通りの威力を叩き込める。

 そういう風に、魔術の技量が上がっていたのだ。

 そこについて、特に異常は感じなかったこともあって、モリヒトは、訓練を切り上げた。

 今は、自分の部屋でのんきに休憩中だ。

 ルイホウもついている。

「ルイホウは、あの時、何で来たの?」

「いまさらですね。はい」

 石堂での戦闘時、最後に援軍として来たのはルイホウだ。

 持ち込まれた資料の解析に当たっている、と聞いていたのだが、

「さすがに、予想外の状況でしたから、緊急ということで出ました。モリヒト様が飛び込んでいるということでしたし、手が足りないかと。はい」

「外の迎撃に行くかと思ってたんだよ。あっちの方が、魔術師は必要だったろう?」

「そちらには、巫女衆の方から人が出ましたから。はい」

 城壁上から、巫女衆が総出で魔術を撃ちまくったらしい。

 おかげで、城壁の外は、多少地形が変わったという。

「巫女衆では、地脈状態の観測もしていましたから。そうしたら、城壁の外で異変が起こったのと同時に、地下アジトの方で何かが起こっていることが分かりましたから。二手に別れることになりました。はい」

 制圧力が必要ということで、人数が多く必要な城壁上に大多数が向かった。

 アジト側へは、対応力とモリヒトやクリシャと知り合いである、ということでルイホウが向かうことになったのだ。

「まあ、ルイホウ来てくれて、実際助かったけど」

「お役に立てたならば、よかったです。はい」

 ルイホウは、微笑を浮かべて頷いた。

「・・・・・・ふむ」

 気になっているところは別にある。

「あの時、俺の最後に放った魔術の効果って何だったんだろうな」

「自分ではわからないんですか? はい」

「分からん。・・・・・・いや、分かってたと思うんだけど、忘れた」

「・・・・・・」

 ルイホウが、何か心配そうな顔でモリヒトを見た。

 だが実際、あの時の魔術効果は、モリヒトが得た知識からのものだ。

 それが抜け落ちたモリヒトには、それはもうわからない。

「現状、確認できていることは、あの時放たれた魔術は、魔力へと転化して、地脈へと流れ込んだようです。はい」

「それは、大丈夫なのか?」

「現在の観測では、地脈の状況は、事件前と変化がないらしいことがわかっています。はい」

「じゃあ、うまくやったのか・・・・・・」

 うーむ、と唸る。

「『竜殺しの大祭』に、影響ないならいいんだが・・・・・・」

「今のところ、問題は見つかっていません。はい」

「そうか・・・・・・」

 どこか、不安を感じているモリヒトは、頭を振って、頷くのだった。


** ++ **


「・・・・・・また、あちらでも事件があったようだな」

 飛空艇の発進準備は進んでいる。

 今回は、急ぎではないため、オルクト魔帝国から、テュール異王国への土産となる物品を選別し、積んでいる。

 その多くは、新王即位の祝いの品だ。

 それらの目録に問題がないかを確認しながら、セイヴは問うた。

「こちらにも報告が来ておりますな。なんでも、偶然にも王都内に敵のアジトを見つけることができたため、制圧したところ、死に際の儀式で魔獣の暴走を率い起こされたとか」

 宰相たるビルバンは、セイヴの質問に、そう答えた。

「ま、解決できたようならよかったが」

「・・・・・・そうですな。陛下があちらにおられない時でよかった」

 うむ、と頷く宰相を見て、セイヴはにや、と笑う。

「俺様がテュールについても、何も起こらないと思うか?」

「さて? できれば、何事も起こらないでほしいところですが」

 小生には分かりかねますな、とビルバンはうそぶいた。

「ふん。・・・・・・ま、今回ばかりは、平穏に過ぎることを願うよ」

「おや」

 意外そうな目を向けてくるビルバンに、セイヴは、は、と笑った。

「今回の『竜殺しの大祭』は、規模がでかい。いつものなら、失敗したとしても、一年程度地脈が不安定化する程度。いくらか忙しくはなるが、それで揺らぐほど、俺様の国に余力がないわけじゃあない」

「ふむ・・・・・・」

「だが、今回の規模は、仮に失敗した場合、どの程度の被害が出るか、予想がつかん・・・・・・」

 そこまでの予測をすると、ビルバンの視線も険しくなる。

「『竜殺しの大祭』の失敗は、なんとしても避けねばならん。・・・・・・最悪、俺様が、リズを使って力尽くで吹っ飛ばす」

 セイヴならば、それは可能だ。

 正式な『竜殺し』ほどではないにしても、洗われた『竜』を力尽くで吹っ飛ばし、『竜殺し』自体は可能だ。

 ただし、それをやった場合、地脈への反動が確実に発生する。

 少なくとも、オルクト魔帝国内で、何かしらの災害は発生することになるだろうし、一番近いテュール異王国内では、確実に地脈が荒れ果てる。

 不作になる程度なら優しい方で、魔獣が大発生し、相当治安が悪化するだろう。

 だが、それでも、失敗よりはましだ。

「・・・・・・すでに、ミュグラ教団の妨害が予測される。俺様も、気を抜いてはいられんよ。今回ばかりはな」

「・・・・・・それで、エリシア様はお連れにならぬ、と」

「ああ」

 セイヴは、頷いた。

「かしこまりました。どうか、お気をつけて」

 ビルバンは、深く、一礼をするのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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