表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
155/436

第37話:破壊と決着

 閃光が突き抜ける。

 モリヒトの手から離れたブレイスの短剣は、雷光をまとい、一直線に天井の中心点を向かう。

 それは、空中に一直線に線を引き、そして、天井にまで回っている陣を受けて、一時止まり、

「!」

 突き抜けた。


** ++ **


「そんな?!」

 見上げたアリーエは、驚きの声を上げる。

 天井にまで陣は張り巡らされている。

 その陣には、石堂の構造を保持する効果がある。

 魔術を撃ちこんだところで、砕けるものではない。

 陣の威力より圧倒的に高い威力を持っているなら、あるいは破壊もあり得るかもしれない。

 だが、陣には、地脈から魔力が供給されている。

 攫ってきた混ざり髪はすでに連れ出されたようだが、混ざり髪の魔力は、地脈から魔力を引き出す呼び水としてのものだ。

 それ以降も吸い上げて使えるものではあるが、なくなったからと言って、困るものではない。

 それはともかく、地脈から供給される魔力は、人間が持てる魔力量なんて圧倒的に越えている。

 魔術が得意とか、才能があるとか、あるいは魔術が強力だとか、そういうレベルで語れるものではない。

 単純に、魔力量の圧倒的な差によって、陣が破られることなど、ないはずなのだ。

 疑問はある。

 だが、それより先に、アリーエにはすることがある。

 足元だ。

 自分が立っている、高い舞台。

 その死角となる位置から、今の一撃は放たれた。

 見下ろせば、男が一人。

「・・・・・・どのようにしたのですか?」


** ++ **


 モリヒトからしてみると、なんでできたのかいまいち言葉にできないものである。

 とはいえ、それを馬鹿正直に明かすこともない。

 上から見下ろされながらの質問に、モリヒトはふん、と鼻で笑った。

「わからないか? だっせ」

「ふふ。いい気なものです」

 言いながら、アリーエは杖を振り上げる。

「ですが、まだ致命的ではありません」

「だろうな」

 天井はぶち抜いた。

 陣の一部の破壊には成功したし、いずれこの陣によって行われた儀式は、効果を失い中断されるだろう。

 だが、いずれ、だ。

 まだ儀式効果は残っている。

 少なくとも、陣が今までに吸い上げた地脈からの魔力。

 これをどうにかしないと、儀式の影響は残る。

 最悪の場合、瘤が発生してしまうであろうし、陣によってゆがめられた魔力から生まれる瘤は、それこそ『竜殺しの大祭』で現れる『竜』と大差ないものになるだろう。

 それは防がなければならない。

 そのために必要なことは、この石堂の上にある。

 この石堂で行われている儀式によって、地脈から吸い上げられた魔力は、陣によって誘導され、天井の中心、ちょうどモリヒトの魔術が撃ち抜いた辺りから、おそらくは地上へと噴出している。

 この魔力を地脈に戻す必要がある。

「・・・・・・・・・・・・」

 こちらへと杖を振るおうとしているアリーエを無視して、モリヒトは目を閉じ、深く息を吸う。

 魔術を撃ち出すため、上へと突き出していた腕を、横へ。

 大の字になるように、広げて横たわる。

「あら、諦めましたの?」

 アリーエはそう言うが、モリヒトも伊達や酔狂で横になっていたわけではない。

「諦めるように見えるか?」

「ですが、もう、武器はないようですが? 発動体も持たないのでは、魔術すら唱えられないでしょう?」

 確かに、レールガンもどきの弾として打ち出したブレイスは、落ちては来ない。

 今、モリヒトの手に、まともな発動体は残っていない。

 だが、モリヒトは笑う。

「そうでもないんだ」

 投げ出した手が、陣に触れる。

「・・・・・・相性が悪かったな」

「は?」

 モリヒトは、告げる。

 アリーエの、ジュマガラの、ミュグラ教団の敗因を。

 この石堂内を、魔力に満たしすぎた。

 陣を使って吸い上げる。

 その場所に、モリヒトが来てしまった。

 魔力を吸収することで、場の情報を感覚的にとらえてしまうモリヒトにとって、この場はすべてを掌握するのも簡単な場所になった。

 なんでこんなことがわかるんだ、と自分でも疑問に思うことが、できる、という確信がある。

「お前らの負けだよ」

 そして、モリヒトは口を開いた。

「―アリーエ・クティアス―

 力よ/ゆがみを/収束せよ/使い尽くせ/悉くを使い尽くせ/果てるほどに/果たすほどに/」

「え・・・・・・」

 『教え導かれし人』アリーエ・クティアス

 それは、今アリーエが自身の腕に抱く本の発動体の名であるはずだ。

 それを、陣に触れただけのモリヒトが呼ぶ。

 そして、その干渉は、果たされた。

 発動体は、触れていること。

 そして、発動キーを唱えること。

 この二つを果たせば、誰にでも使用できる。

 だが、今モリヒトが触れているのは、石堂内に遍く描かれた、儀式用の陣だ。

 『教え導かれし人』本体ではない。

 だが、

「続け/あるべき流れに/合流せ」

 詠唱は、確かに効果を発揮した。

 石堂の天井部分が、爆発した。

 そこから、赤黒い水にも似た何かが降ってくる。

 先ほど、アリーエが呼び出したものとは違う、外に溢れた水が、そこから開いた穴に流れ落ちているのだ。

 過剰な量の魔力を含み、半ば粘液に近い水だが、それは滴ることなく、天井付近に逆さまの湖のように溜まっていく。

 そして、天井付近に残っていた陣に触れ、魔力へと転換されていった。

「なぜ・・・・・・」

 モリヒトの見上げる先、アリーエは動かない。

 いや、動けない。

 当たり前だ。

 アリーエは、人間の姿で現れているとはいえ、その本体は、腕に抱かれた『教え導かれし人』である。

 それを発動体として他に使われている状況では、アリーエは別の動きを取ることができない。

 かろうじて、動いた口で、アリーエは問うた。

「なぜ、貴方が使えるのですか・・・・・・?」

 もし、『教え導かれし人』が、本当のウェキアスであり、アリーエ・クティアスが、本当のアートリアであったなら、あるいはこれは不可能だった。

 だが、『教え導かれし人』は、ウェキアスではない。

 そして、『教え導かれし人』には、『教え導かれし人』を通じて発動した魔術の結果は、次に発動する魔術の影響下に置かれ、発動の基点とすることも、新しい魔術に利用することもできる。

 裏を返せば、『教え導かれし人』の魔術で発動した結果には、『教え導かれし人』との繋がりが残っている。

 そして、この石堂全体に敷かれた陣は、『教え導かれし人』を使った魔術で描かれたものだ。

 モリヒトが、この陣から魔力を吸収し、陣自体に繋がることができるなら、そこから通じて、『教え導かれし人』すなわち、アリーエ・クティアスそのものへの干渉が可能になる。

「・・・・・・・・・・・・」

 とはいえ、できると思ってやったら、本当にできた、というレベルの、モリヒト自身何がどうなってこうなっているのか、いまいち理解しきれていないことだが。

「ぶっとばす」

 モリヒトにとって、覚悟が必要なのは、ここからだ。

 陣に吸収された魔力は、そのままモリヒトのもとに流れてくる。

「すー、はー」

 深呼吸をもう一度。

 そして、唱えた。


「―■■■■■■―

 ■■■/■■■■■■/■■■■/■■■■■■■」


 今、自分は何に触れて、何を唱えているのか。

 もはやモリヒトは分からない。

 分かるのは、動けないアリーエの顔が、驚愕に歪むこと。

 その顔すら見えないほどに、煌々とした光が周囲を満たしていくこと。

 そして、このまま行ったら、自分の存在を保つのも難しくなるであろうこと。

 光が強くなり、何かが直上へと放たれていくのに従い、何かがごっそりと抜け落ちていく感覚がある。


 だから、重ねる。


「―リング―」

 それは、指にはめた、最後の発動体だ。

 一回だけしか使えない、使い捨ての発動体に、詠唱を込める。

「竜よ/同胞を守る/加護をここに」


** ++ **


 王都の城壁からも、それは見えた。

 最初の一撃は、青白い閃光が一直線に空へと昇るもの。

 その後に、王都城壁へと迫っていた赤黒い水は、急速に引き始め、魔獣の群れはそれに引きずられるように息絶えていった。

 赤黒い水とともに周囲の魔力が急速に引けた結果、高濃度魔力によって生存していた魔獣たちは、生存に必要な魔力濃度を得ることができず、死んでいったのだ。

 次に、今度は赤い光だった。

 細い直線を引くような最初の青白い閃光に対し、こちらは根元から放射状に広がった、赤い閃光であった。

 地面に対して垂直に、轟音とともに放たれたそれは、やがて空へと溶けていった。

 そして、静寂が訪れる。

 唐突な終わりに、しばし呆然となっていた王都を守っていた兵隊たちは、どうやら終わったらしいと悟って、大きく歓声を上げるのであった。


** ++ **


「モリヒト様! 大丈夫ですか?! はい」

 ルイホウに揺り動かされ、モリヒトは目を覚ます。

「・・・・・・はあ、生きてたか」

「大丈夫ですか? はい」

「ああ、大丈夫。意識もはっきりしてる」

 倦怠感がひどくて、とても立ち上がれそうにはないが。

 見れば、ルイホウの方も、衣装が少々赤くそまっている。

「そっちは、怪我していないか?」

「問題ありません。迎撃した結果、多少被ることになりましたが」

「そうか。・・・・・・クリシャは?」

「大丈夫だよ」

 声のした方に視線を向ければ、クリシャがそこにいた。

 こっちもこっちで、なにやら赤く染まっている。

「最後に、上からやられたのはまいったね。おかげて、降ってきたのを回避できなかった」

「・・・・・・大丈夫か? あれ、毒だったりとかは?」

「大丈夫。ルイホウ君に水ぶっかけてもらったから」

 ああ、それでなんか濡れてるのか、とモリヒトは納得する。

 上を見れば、光が差し込んでいる。

「ま、俺らの勝ちで決着だな」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ