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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第32話:魔術士対策

 反射だった。

「―レッドジャック―

 風よ/弾けろ!!」

 クリシャと並んでいたモリヒトは、その間で弾けた待機に押されて、遠くへと吹き飛んだ。

 石畳の上を跳ねるように滑り、モリヒトは止まる。

「くそが・・・・・・」

 痛い、とうめいている暇もない。

 ジュマガラから隠れるように、這いずってでも身を隠す。

 石堂の中に、陣から立ち上る魔力が渦巻いている。

 だけではなく、状況が悪い。

 最悪なのは、この石堂内に地脈から溢れた魔力が満ち始めている、ということだ。

 おかげで、吸収できない魔力にあてられて、体調が悪くなり始めている。

 吹き飛ばしたクリシャは、と見れば、あちらもあちらでうずくまっている。

 モリヒトが吹き飛ばしたせい、というだけではない。

 この石堂内に敷かれた陣が活性化するに従い、クリシャも影響を受けていたからだ。

 おそらくは、陣自体に、混ざり髪に対して影響する何かがある。

「・・・・・・まったく、ひっくり返してくれる」

 割と、押せていたと思ったところで、これだ。

 さらには、上で起こっていることも気になる。

 王都が崩壊するとかなんとか、ジュマガラは言っていた。

 となると、その対策のために手を取られて、この場への援軍は期待できないだろう。

「・・・・・・さて、どうすっかなあ?」

 困った。

 本当に困った話だ。

 魔術はイメージの産物。

 イメージできないことは、できない。

 この状況をひっくり返す手札がない。

「・・・・・・」

 石堂内を観察する。

 最初にここに入って来たときには気づかなかったが、床だけでなく、壁や天井に至るまで陣の光がある。

「・・・・・・・・・・・・あれ、ぶっ飛ばしたらどうにかならんかね」

 やったら生き埋めになる、という恐れもあるが、そもそもできるか、と考えて、陣のない床を剣先で引っかく。

「・・・・・・傷、つかないってことはなさそうだな」

 だったら、とモリヒトは体に力を籠める。

「やるか」

 あとのことは、後で考える。


** ++ **


 ナツアキは、必死だった。

 石堂の入り口付近だ。

 さらわれた人達は、みんなここにいる。

 クリシャと一緒にここまで運んだあと、クリシャは中に戻っていった。

 だが、ナツアキはここにいる。

 今中に行っても、おそらく役には立たないからだ。

 だから、ナツアキは、かぶせられた袋を取って、縛っている縄を切っていた。

 だが、不意に状況は変わった。

 石堂内の陣が光ったと思ったら、助けたはずの人達が、また光り始めた。

「くそ、何がどうなってんだ!?」

 ナツアキは叫んだ。

 ついさっき、ミーナを見つけたばかりだというのに、ミーナもまた光っている。

 どうすればいいのか、と石堂へと視線をやれば、そちらでは水の球がいくつも浮かび、それが一か所に向かって集中した。

 そして、何かが弾けるような音。

「モリヒト。クリシャさんも・・・・・・!」

 おそらく、あの二人が戦っている。

 だが、自分にできることはないだろうか。

 自分が持っているものは、ただの鉄の剣が一振り。

 あとは、腰につけたポーチの中に、いくらかの医薬品や、ソーイングセットなどがあるが、今の状況でどう役に立つか、ということだ。

「・・・・・・くっそ」

 剣一本で、魔術飛び交う戦闘に飛び込んだところで、どうにもできない。

 それができるほど、ナツアキに腕はない。

 だが、

「・・・・・・くそ」

 顔にかぶっていた袋をはがしてみたものの、ミーナは眠ったままであり、光り出してからは苦しんでいるようにも見える。

 石堂内を窺うと、いつの間に移動したか、他より一段高いところへ、ジュマガラが移動していた。

 その目は、こちらは向いていない。

 多分、その視線の向く先に、モリヒトかクリシャがいるんだろう。

 そう考えたところで、いきなり炎の弾が上がった。

 それが上の方の壁にぶつかって、爆発した。

 だが、そこにあった陣はまるで変化がない。

 多少の焦げ目ができたようだが、それだけだ。

「・・・・・・・・・・・・」

 陣を壊そうとしているのか、と考える。

 ふと、アヤカの言葉が思い出された。


** ++ **


 アヤカは、時折魔術の訓練をしている。

 ナツアキ自身はまったく魔術は使えないが、武器を扱う訓練をしたり、魔力を持たなくても使える魔術具お使用訓練ぐらいは多少している。

 ここら辺、まだお客様扱いというべきか、どれだけできるかいろいろ試させてもらっている、という感じだ。

 そんな中で、アヤカが魔術について教えてくれたことがある。

「魔術は、イメージです」

 アヤカは、普段はあまり多くはしゃべらない。

 ただ、一回説明に興が乗ると、立て続けにしゃべることがある。

 大体は、新しい知識が身についた時だ。

「魔術は、極論としては、結果だけでもイメージできれば、効果は発揮されます」

 この結果だけイメージできれば、というのが、ふんわりイメージ理論とモリヒトが言う理屈だ。

「ただ、それだけでは弱い。過程も含めて順番にイメージしていった方が、イメージの強度が上がり、また、少ない魔力量で魔術を発動できます」

 これは、決まり切っていること。

 イメージが強固でなくとも、魔力を多く注ぐことで威力を強化できる。

 だが、始まりから順にイメージして、そのイメージ通りに詠唱を組み立てていけば、魔力消費の効率をよくして、魔術の威力を上げていける。

 だから、

「だから、魔術士と戦う時のコツというものがあります」

 これは、アヤカに魔術の訓練をしてくれた、シャラ・メリフォウという魔術騎士の言葉だ。

「魔術士と戦う際は、頭を狙います。殴って揺らす、というだけでも十分ですし、顔の前に何かを投げつけるのでもいい。注意を引いたり、落ち着いて考えることをできなくさせたり、意識を飛ばしたり。とにかく、魔術師はイメージができなくなると、それが致命的になりますね」

 詠唱の言葉だけしっかりしていたところで、魔術は決して発動しない。

「あとは、視界をふさぐのも効果的です」

 煙玉で広がった煙幕によって、遮られた視界。

 これでも、魔術の発動は困難になるという。

 魔術は、基本的に近くできる範囲に発動するものであり、人間の場合、見えない場所に発動することは極めて困難だ、ということだ。

 視覚に限らず、大きな音で気を取らしたり、悪臭をぶつけることで牽制したり、怪我をして痛みを持つだけでもイメージをするための集中が乱されれば、魔術士の力は大きく落ちる。

「とにかく、魔術はイメージが重要であり、イメージさえしっかりしていれば、どんな魔術でも発動可能。その分、魔術士自身を狙われると、極めて弱い、ということです」


** ++ **


 そこまでを思い出して、ナツアキは、この状況を打破できうるものへと手を伸ばした。


** ++ **


 ジュマガラは、油断なく見回している。

 高いところに登って、下を見下ろす。

 男の方は隠れているが、クリシャの方は陣に魔力を吸われて動けなくなっている。

「―スレイベレメンタル―

 精霊よ/眠れ」

 杖をクリシャに向ければ、そのままクリシャの意識が失われた。

 これで、敵は一人だ。

 儀式場となっている石堂は、台となっていた場所が儀式の中央含めて四か所ある。

 さらには、儀式の陣の降下を高めるため、いくらかの構造物が設置されているのだ。

 隠れる場所には事欠かない。

 面倒な、と思ったところで、障害物の一つから、いきなり火の玉が打ち上げられた。

 それは、天井付近の壁へとぶつかり、爆発する。

「・・・・・・ふむ」

 驚きはした。

 だが、それだけだ。

「無駄ですよ。陣には、この石堂の構造を維持する効果もあります。小さな傷をつける程度ならばともかく、陣を崩壊させるほどの破壊は不可能です」

 聞こえているかどうかはともかく、言っておくことに意味はある。

 とりあえず、水を再度集めて、火の玉が打ち上がった根本にぶつける。

 だが、手応えはない。

 当たっていないのだろう。

 あとは、どう攻撃を仕掛けてくるか。

 こちらを倒さない限り、向こうに勝機はない。

 さて、と考え、いつでも攻撃できるように、と水を集めてまた球を作っておく。

 次に見つけたら、絶対に当ててやる、と、意気込んだところで、異変に気づいた。

「・・・・・・暑い?」

 地下の石堂内は、ひんやりとしていたはずだ。

 先ほど、敵が放った火の魔術と蒸気の拡散で一時蒸し暑くなったとしても、今はもう冷えている。

 それが、また暑くなり始めている。

 いや、それはもはや熱だ。

 温度が上がり、水が蒸発をはじめ、集めた水の球が小さくなり始めている。

「む・・・・・・」

 唇が渇き、喉が渇く。

 指先にかさつきを感じ、汗も乾く。

「ここから水気を抜く気ですか」

 確かに、こちらに魔術の影響を受けている水だ。

 この場にある限り、いくらでもこちらが利用できる以上、なくすというのは正しい選択なんだろう。

 だが、それだけか。

 ジュマガラは、本職は研究者であり、戦闘者ではない。

 だから、こういう状況で、敵の考えを読むのは向いていない。

「・・・・・・どうするつもりですか?」

 熱に紛れて、何をしてくるのか。

 そう、敵を探そうとしたところで、不意に視界が暗闇に包まれた。


** ++ **


 ジュマガラは自覚なく、興奮していた。

 敵が何をしてくるのか、楽しむ気持ちが出てきている。

 だから、後ろを油断した。

 加えて言えば、モリヒトが突入前に行った隠蔽の魔術は、まだ効果を残していた。

 そのために、後ろから近づくナツアキに気づかなかった。

 そして、ナツアキは、極めて効果的な攻撃をしたのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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