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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第26話:儀式の間

短め

 儀式が行われている石堂。

 ここまでのアジトの薄暗さとは違い、その石堂は明るかった。

 地面に描かれた巨大な魔術陣が、強い光を発している。

 それによって、足元から照らされるように、石堂全体が明るくなっているのだ。

 もっとも、その足元の魔術陣から立ち上る光は、どこか薄暗くも見えた。


** ++ **


 ぼんやりと、天井を見上げる。

 体が動かない。

 夜、いつものように、寝台に入って眠りについたと思った。

 目が覚めたら、見覚えのない、土牢の中にいた。

 周りには数人、自分と同じように眠っている人がいた。

 牢の外に置かれた小さな明りでは、土牢の中を全て見通すには足りなかったけれど、幸い自分には『目』がある。

 『目』を開くと光ってしまって、暗闇の中では目立つだろうけれど、そこは少し気を使えば大丈夫だろう。

 というか、この状況で出し惜しみはできない。

 だから、薄目を開いた状態で、『目』を開いた。

「・・・・・・!」

 息が詰まる。

 誰も彼も、囚われていた。

 薄目なんて、気を使うことも必要なかった。

 そもそも、自分は『目』を開く必要などなかった。


 最初から、『目』は開いていたのだから。


 土牢にいる者たちは、皆縛られて転がされ、麻袋をかぶせられていた。

 そのために、光が漏れる心配はない。

 袋は、自分にもかぶせられている。

 だが、『目』が開いていたから、袋越しに外が見えただけだ。

「・・・・・・あ」

 そして、『目』が見る。

 袋をかぶせられて囚われた人々。

 それは皆、自分と同じ『混ざり髪』であること。

 そして、その身に欠けられた、魔術、いや、呪いの痕跡。

 同じ土牢に入れられている誰かを見て、想像する。

 自分にも、同じ呪いが欠けられていると。

「・・・・・・ひ・・・・・・!」

 何が起こっているのか、恐怖に喉が引き攣った。

 ひきつったままに漏れそうになる悲鳴を、必死に押し殺す。

 逃げ出したい。

 だが、身体が動かない。

 縛られているから。

 だけどそれだけでなく、体に力が入らない。

 毒か、魔術か。

 分からない。

 だけど、体は意思に反してぴくりとも動かず、暗闇の中で何もできず。

 その状態が、心に負荷をかけ、ストレスとなる。

 吐き気がして、吐くことすらできない。

 ただただ、心の底から湧いてくるかのような恐怖で、体の奥底が震えている。

 なまじ、『目』で見えてしまうからこそ、その恐怖はより強かった。

「!」

 誰かが来た。

 だから、慌てて『目』を閉じた。

「・・・・・・数は?」

 かすれた、不気味で低い声だ。

 袋越しで聞こえにくいが、そこにいるのは分かる。

「揃っています。十五人」

「一つ当たり五人ですか。十分でしょう」

 は、と短い応答。

「運びなさい。魔力の高い個体です。眠りの呪いも解けかけているものがいるかもしれません。運ぶ前に、再度かけなおしなさい」

「はい」

 そう言って、足音は一つ、この場を離れていく。

 土牢の鍵が開けられ、扉が開けられる。


** ++ **


 気が付けば、別の場所に移されていた。

 今度は、『目』は閉じていた。

 それでも、麻袋の荒い目を通して、昏い光が目に映る。

「・・・・・・」

 周りで、不気味に反響する声がある。

 魔術の詠唱だとなんとなくわかるけれど、意味が聞き取れない。

 幾人もの声が混ざり合い、反響しあい、何を言っているのか個別には聞き取れなくなっている。

 そんな不気味な状態で、ぴくりとも動かない体で、ただ、時間が過ぎるのを待つことしかできない。

「・・・・・・だれか、たすけて」

 声は、出なかったと思う。


** ++ **


 儀式の間は、この日のために用意された空間ではあったが、決してそれだけの空間ではなかった。

 もともと、この場所にはこれだけ広大な空間があった。

 だれも、気づいていなかっただけだ。

 知っていたのは、ごく一部。

 それこそ、三百年前。

 クリシャが潰した研究所の崩落に巻き込まれた、一部の研究員たちだけだ。

 その研究員たちが残した資料をもとに、ジュマガラはこの空間を探り当て、ここに自分の研究施設を築いた。

 おおよそ、二十年をかけて構築されたこの場所が、王国内へ口を開いたのは、ほんの数日前だった。

 それまでは、王都の外の森の中にある入り口からしか、ここへ訪れることはできなかったのだ。

 それどころか、地下で育つ植物を育て、畑まで作って自給自足していたのだから、ジュマガラがこの施設にかけた労力は並大抵のものではない。

 そして、それらの苦労が、今結実しようとしている。

 ジュマガラが座す中央の祭壇。

 その周りで、魔術陣が光り輝き、教団員たちが詠唱を続けている。

 この儀式が終われば、その結果は、はたしてジュマガラの望むものとなるであろうか。

 時間のかかる儀式の完了まで、ただ静かに、ジュマガラは思索にふけるのであった。


** ++ **


「・・・・・・さて?」

 石堂の入り口に到達した三人は、中を覗き込む。

 ここに来るまでにすれ違いかけた敵は、クリシャが魔術で対処した。

 中では、外の騒ぎなど無視して、儀式が続行されている。

「クリシャ。どう見る?」

「あれ。中央で気持ち悪い杖を持ってるの。あれがジュマガラ」

「ふむ」

 見た目から明らかに気持ち悪い杖を持っている。

 遠目だと、ただの赤黒い棒にしか見えないというのに、この距離ですでに気持ち悪さを感じる杖だ。

「ちょっと待ってね」

 クリシャが石堂の中を観察している。

 石堂は広い。

 二百メートル四方はありそうな空間だ。

 巨大な魔術陣が床に敷かれている。

 特徴的なのは、四か所。

 高く作られた台のようになっている箇所が四か所ある。

 正三角形の頂点となる三か所と、その中央の一か所だ。

「あの高い場所の上だね」

 五メートル四方ほどの大きさのその台の上に、何かが置かれている。

「あそこに、多分さらわれた人達がいる」

 それぞれの台を数人の教団員が囲み、何かの魔術を詠唱している。

「終わるまでの時間は?」

「そんなに余裕はないね。とりあえず、詠唱は邪魔しないと」

「む」

 台座の周囲を囲む教団員の数は数えられるほどではあるが、少なくはない。

 下手に突っ込みと袋叩きになりそうだ。

 かといって、

「大規模に吹っ飛ばすと、陣の上の人質が危ないな」

「いや、ここでモリヒト君が下手に魔法を使うのは危ないよ」

 どうするべきか、とレッドジャックを握りしめながら言うモリヒトに対し、クリシャは首を振った。

 クリシャの視線は、陣を見据えていて、

「あの陣、多分上に載ってる人達から魔力を吸いあげてる。ここで下手にモリヒト君が魔術を使うと、モリヒト君の体質的に周囲の魔力を吸い上げてしまうよ」

「そうなると?」

「陣の方で、足りない魔力を補うために、陣の上に乗っている人達の魔力を吸い上げるだろうね」

 それは、端的に命にかかわってしまうだろう。

 助けに来たのに、モリヒトが命にとどめを刺すようなことになっては、本末転倒だ。

「しかし、だとするとどうする?」

「・・・・・・・・・・・・ボクが行くしかないか」

 はあ、とクリシャが諦めたように息を吐いた。

 モリヒトやナツアキは、そうそう力にはなれない。

 魔術が使えないモリヒトでは、敵を仕留めるのは困難だし、ナツアキは魔術が使えない。

「・・・・・・幸い、相手は儀式に集中してる。・・・・・・最初に、ボクが周りの教団員を吹っ飛ばすよ。それで、ジュマガラの気を引く」

「その間に、俺とナツアキで陣の上から人質をどかす」

「わかりました」

 三人は頷き合い、行動を開始した。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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