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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第25話:ミュグラ教団の怪人

「―レッドジャック―

 火よ/焼け」

 とっさにレッドジャックを抜いたモリヒトが、魔術を詠唱する。

 放たれた火は、飛び込んできた怪しい仮面に殺到するが、

「効かねえなあ!!」

 ぶん、と大振りに振るわれた腕が、それらの火をかき消した。

「あぶねえよ」

「ち、この程度じゃ効かんか」

「おいおい。俺は敵じゃねえぞ!」

「黙れ怪しいやつめ。そんあ見た目で敵じゃねえとかありえねえから」

 怪しい仮面の人物。

 まあ、仮面の後ろから白髪が見えているわけだし、筋肉質な肉体とか、雰囲気も見覚えがありすぎて、誰なのか分からない、ということはさすがにない。

 ただ、真面目に相手したくなくなる程度に、ひどいデザインの仮面を付けているのである。

 モリヒトの隣で杖を構えるクリシャとしては、警戒はしているものの、どうするべきか迷っていた。

「・・・・・・何しに来た?」

「今回は、ベリガルのおっさんの手伝いだ。そういうことで、てめえを助けてやるよ」

「そうか」

「いや、そうかって・・・・・・」

 あっさりと頷いたモリヒトに、クリシャが何か言いたげな目を向けるが、

「信用できるか」

「ははは! 信じろとか言わねえよ。俺は、お前らを邪魔しない。そんだけよ、っと!」

 言っている間に、突っ込んできたガーゴイルへ向かって、仮面は拳を打ち付ける。

 カウンター気味に入ったその一撃に、欠片を散らしながらガーゴイルは吹き飛んだ。

「・・・・・・」

「おうおう。警戒心ばりばりだな」

「お前にとって、俺は天敵だろう? 今、こうやってるだけでも、がんがん弱体化してるんじゃないか?」

「ははは。まあ、そうだな!」

 だがよお、と仮面は両手を広げる。

「この仕事をやったら、ベリガルがその対策をしてくれるっていうんでな。てめえを殺すのは、その後だ」

 明かしすぎだろ、と思わないでもないが、仮面をかぶったミケイルの言うことは、厄介極まりない。

「・・・・・・今ここで、お前らまとめてぶっ飛ばした方が、俺は面倒ないんだがな」

 モリヒトは、ミケイルとガーゴイルの両方にきょろきょろと目線を飛ばしつつ、言う。

 だが、それに対して、ミケイルは、は、と肩をすくめただけで終わった。

「やめとけよ。喧嘩慣れしてるんだろうから、度胸座ってんのは認めるが、てめえは素人だ。俺とあの石と、両方同時に相手にするような、器用なマネはできねえよ」

「・・・・・・ち」

 その通りではある。

 強がりにすらなっていない分、いっそ滑稽ですらある。

 だから、舌打ちだけ一つして、モリヒトはナツアキへと目をやった。

「・・・・・・・・・・・・」

 クリシャとも目線を合わせれば、厳しい顔をしつつも、クリシャは頷いた。

「行くぞ」

「いいんですか?」

 ナツアキに聞かれるが、腹立たしいことに、モリヒトに今選択権はない。

「大丈夫。後ろはボクが見とくよ」

「頼んだ」

 クリシャに頷いて見せて、モリヒトはミケイルへと叫ぶ。

「おい。そいつどけろ! 邪魔だ!」

「おお。いきなり偉そうだな。おい」

 ミケイルがどこか楽しそうな調子で返すのに、モリヒトへ、け、と吐き捨てながら返す。

「やかましいわ。てめえの雇い主の尻ぬぐい押し付けられてんのはこっちも同じなんだ。大体お前らが悪い。その分働け」

「言うねえ・・・・・・」

 かはは、と笑ったミケイルの前へ、ガーゴイルが立ちふさがる。

「じゃ、道開けろよ、と」

 鋭い爪を備えられた腕の一撃を、手甲で弾いたミケイルは、

「あらよっと」

 そのまま、その腕を取ってへし折ると、蹴りを加えて吹き飛ばした。

「おら行け!」

 道が開いた。

 モリヒトは、ナツアキの背を押すように駆け出す。

 最後尾にクリシャがついてくる。

「・・・・・・またあとでな!」

 けらけら、と軽い調子でこちらに手を振ってくるミケイルに、どこか苦々しい思いを抱きつつも、モリヒトは先へと急ぐのだった。


** ++ **


「さて、と・・・・・・」

 がんがん、と手甲を打ち合わせる。

「・・・・・・丈夫だよなあ、おい」

「あなたみたいね」

 ミケイルがぽつりともらした独り言に、暗がりの中からサラの声が返ってきた。

「おう。どうだった?」

「ベリガル先生が欲しがってた資料は、まあ、大体集め終わったわ」

 何も、本当にベリガルの頼みでモリヒト達の助けをしに来たわけではない。

 ミケイルとサラがこのアジトへと踏み込んだ理由は、別にある。

 それこそ、今サラがカバンへと仕舞った研究資料だ。

 異王国の部隊に押さえられる前に、回収できる分は回収する。

 ミュグラ教団は一枚岩ではないし、研究成果を秘匿することはしない、ということにはなっているとはいえ、研究中のことまで包み隠さず公開しているものではない。

 ついでに言えば、離れた地点にいても共有できるインターネットのような仕組みがあるでもなし、互いに研究成果を秘匿して保持しているなど日常茶飯事だし、時には教団員の中でそういった研究成果の奪い合いも発生することもある。

「さて?」

「後ろから撃たないの?」

 サラが見送ったのは、こちらに背を向けて走っていく一団だ。

「つまんねえ真似すんな。あとだあと」

「・・・・・・手伝う?」

「いらねえ」

 がんがん、と手甲を打ち合わせ、にい、と口の端を吊り上げるミケイルだが、

「おっと?」

 横合いから飛んできた石礫を後ろへ下がってかわす。

 さらに、四方八方から礫が飛んでくるのを、あるものは避け、あるものは弾く。

 そうしているうちに、さらに追加で二体のガーゴイルが現れ、

「お?」

 先ほどミケイルによって腕を折られたガーゴイルに至っては、どこからか岩が飛んできて、腕が修復している。

「自己修復持ち。・・・・・・意外と高性能ね?」

 サラの言う通り、かなりランクの高い防衛装置だ。

 こういった動く無機物を魔術で創造することができないではないが、それにしたって高性能だ。

「地脈から魔力を吸いあげてんのか」

「・・・・・・手伝い、要る?」

 サラがもう一度聞いてきたが、

「いいや」

 首を振って、ミケイルは前へ出た。

「ちょっと、歯ごたえが出る程度だ」

 そう言って、ミケイルは前へと踏み込んだ。


** ++ **


「後ろに回らねえようにだけ見とけ!」

「はいはい」

 踏み込みながら、ミケイルは拳を固める。

「おおらあっ!!」

 どん、と一歩の踏み込みとともに放たれた拳だが、ひょい、と上昇して避けられた。

「・・・・・・ち、飛ばれると面倒だな」

 ミケイルの戦闘スタイルは、殴って蹴るだ。

 身体強化に保有魔力を持っていかれるため、他の魔術を使うこともできない。

 あとは、投げ物くらいだが、

「ま、そこまで速いもんでもないしな」

 ふん、と笑うと、ミケイルは駆け出した。

 四方八方石礫が飛んでくるが、避けつつ、時に弾く。

 そのまま壁へと到達すると、その勢いのままに駆け上がった。

「あらよっと!」

 駆け上がった勢いのままに、壁を蹴って跳ぶ。

 狙う先は、空中に浮かぶガーゴイルだ。

 回避しようとしていたが、いくら天井が高くそれなりの広さがあるとはいえ、室内である。

 わずかな回避に対して、長身を生かした長い手を伸ばして、ミケイルはガーゴイルを捕まえる。

「おらよ!」

 背中に乗りあがり、手甲をはめた腕を打ち下ろす。

 背の中央から拳が石の体に突き刺さり、ひびを入れて砕いていく。

 力を失ったガーゴイルが落下していき、その上に乗っていたミケイルも一緒に落ちる。

 床にたたきつけられたガーゴイルは、そのままただの石へと砕け散った。

 同じように床に落ちたミケイルも、巻き込まれていくらかの傷を負っているが、

「ふん」

 血が流れるまでもなく、みるみるうちに傷はふさがり、治ってしまった。

「・・・・・・乱暴ね」

 自分が傷つくこともいとわない戦い方こそ、ミケイルの戦闘法ではある。

 痛みがないわけではないため、普段からこの戦い方をしているわけではないが、面倒そうな相手には、こういうダメージ覚悟で突っ込んでいくやり方こそ、ミケイルの一番強い戦い方だと、自覚しているのだ。

 どれだけダメージを与えようが、気にせず突っ込んできて、攻撃してくる。

 しかも、肉体が頑丈であるが故に、そうそう大きいダメージは入らず、多少入ったダメージもすぐさま再生してしまう。

 戦う相手として、ここまで面倒な相手も少ない。

 そして、この戦い方が逆に仇になるからこそ、ミケイルにとってモリヒトは天敵なのだ。

「よいしょっと・・・・・・」

 ガーゴイルの胴体から抜き取った、核となっていたであろう魔術具を握りつぶす。

 それで、かたかたと揺れていた足元の石も動きを止めた。

「おし、あと二つ!」

 がん、ともう一度手甲を打ち合わせ、ミケイルは獰猛に笑った。


** ++ **


 おー、おー、と奇妙な共鳴が石堂の中に響いていた。

 魔力を吸って光る魔術陣。

 その周囲で詠唱を行う魔術師たち。

 それらを見ながら、ジュマガラはふむ、と唸る。

「総帥」

 駆け寄ってきた部下が、ジュマガラに耳打ちをする。

「・・・・・・そうか。儀式に関係ないものは、妨害に当たりなさい。足止めで結構。儀式が終わるまでの時間を稼ぐように」

「は」

 頷き、部下が退出していく。

 騎士達の侵入の報告を受け、ジュマガラはふむ、と唸った。

「儀式の進捗は順調ですね」

 侵入者のことなど、もう忘れた、という口調だ。

 ジュマガラは、傍らに置いていた杖を引き寄せる。

 黒と赤で構成された、身の丈ほどの長さの杖。

 奇妙にねじくれ、先端は歪みのある膨らみを持ち、糸を巻いた玉のようになっている。

 どことなく、生理的な嫌悪感をもたらすその杖を、むしろ愛おしそうに抱き寄せると、ジュマガラは立ち上がった。

「では、はじめましょうか」

 その目は、どこまでも理知的で、だからこそ人間味のない輝きを持っていた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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