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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第20話:突入前に

 朝日が昇り、空が白む。

 白い光が差し込む中、城門を抜けて、モリヒトは外へと出ていた。

「さて、今後の動きの確認をしますぞ、と」

 一緒にいるのは、クリシャ、ナツアキ、アトリである。

「とはいっても、俺らが勝手に動くのはまずいこともあります。なにせ、さらわれた連中がどういう扱いになっているのか分からん」

 人質にでも取られると厄介極まりない。

 ついでに言うと、あまり大捕り物にはできない事情もある。

「・・・・・・今の情勢で、ミュグラ教団が暗躍しているので気を付けてください、と市民に知らせるわけにはいかんとさ」

 解決してからならともかく、解決していない段階で警戒を呼び掛けるのは、新王就任の祝いの雰囲気と祭の雰囲気に水を差すことになる。

 それは避けたい、というのが王国の意向だ。

 新王であるユキオの門出に、ケチをつけるような真似はできない、というのは、王国の面子だけではなく、ユキオの精神面に配慮してのことでもあるだろう。

「ユキオなら、逆境で燃えるタイプよ」

 アトリはそう言うが、トラブルなんてない方がいい。

 最善は、騒動になる前に決着をつけること。

 そして、そのための方法だが、

「ぶっちゃけて言ってしまうと、敵の居場所とかある程度は絞れている、らしい」

「らしい?」

 ベリガルからもらった情報がある。

 ただ、詳細な位置までは、ベリガルも知らないらしい。

 内部情報があるのでは、と思いきや、やはり教団内部の一枚岩ではないらしく、自分主導の研究でも、その研究に関わらない者に対して情報は回ってこないらしい。

 研究成果自体は、割と共有されるらしいが。

「何かをやっているものは、直属の手下にしか共有されない。今回の主犯は、ミュグラ教団の総帥だから、ある程度他のメンバーにも情報が回ってきた、らしいな」

 ベリガルとしては、今動いてほしくはないらしい。

 自分が動くのはいいのかと思うが、仕込むのはあくまで観測用で、『竜殺しの大祭』の儀式に影響を及ぼすようなものではなかったという。

 その辺りは、ざっと資料を読み込んだルイホウの方から情報をもらっている。

「さて、それを踏まえて、今日の目的地だ」

 本日、警備のための騎士達が動いている。

 巫女衆の方で、現在集まっている情報と地脈の現在の状況の調査結果を踏まえて、王都内の怪しい場所をピックアップ。

 その結果に対し、軍部の方で改めて調査したところ、怪しい場所は一か所に絞り込めたという。

 正確には、さらにそこにクリシャからの情報提供があったらしいが。

「・・・・・・うーん。正直、ちょっとボクも驚いてるんだよね」

 というのは、クリシャの言葉だ。

 クリシャが提示した場所というのは、建国時に王都に用意されていた研究所の一つであったらしく、かつて訪れた際には、すでに潰されていて何もなかったはずだという。

 ただ、地脈に関する研究所というのは、どんなところにでも自由における、というものではない。

 地脈に関するものであるだけに、その研究対象に容易に干渉できるかどうかは重要なものだ。

 だから、その地点を指示したところ、大当たりだったのだという。

「ま、当たったんだからいいけどね」

 さりげなく、目的地周辺の土地を封鎖するように動いていて、人払いを始めているらしい。

「・・・・・・昼前には、周辺から人がいなくなるから、そしたら突入ね」

 軍部から情報を受け取っているアトリから説明を受けて、モリヒトは頷く。

「じゃ、待機場所行こうか」


** ++ **


 今回の作戦では、目的となるのは、敵の儀式の妨害だ。

 それに対し、モリヒト、クリシャ、アトリ、ナツアキの一団は、混ざり髪の捜索と保護が目的になる。

 素人集団が入っていいのか、という懸念はあるものの、軍部としては戦力を割けないところに、クリシャとアトリが動くなら、なんとかなるだろう、という目算があるらしい。

「アトリは、軍部にすごい信頼されてるのな」

 待機場所として指示された、人ので払った民家の一室。

 そこに集まり、モリヒトは突入前の休憩中であった。

 同じ民家には、同じく突入班となった騎士達も待機しており、準備は完了しつつある。

 そういった騎士達に対し、アトリはいくらかの指示を出したり、状況を確認したりとしているが、騎士達の中に、アトリを頂点とすることについて、不満を持っているような雰囲気はない。

「普段、訓練に混じってるからね」

 アトリは、軍の兵や騎士達に対しても、そうそう負けることはない程度の実力を持っている。

 また、将来的には、守護者として軍部に関わることになることも確定しているため、日常的に軍部で仕事をしている。

 モリヒトが同行したのは一度きりだが、軍で魔物狩りなどがある時は、大体参加しているという。

 その時に、いろいろ活躍することもあって、信頼を得ている、ということらしい。

「最終確認しておこうか」

 アトリが、そう口を開いた。

「ん?」

「クリシャさんと私は、突入班。私は突入する騎士達の指揮に当たって、敵施設内の順次制圧に当たるわ」

 敵は殲滅か捕縛。

 見逃さないように、端から制圧していく。

「クリシャさんは、儀式の中心と思われる場所へと最速で行ってほしいの。それで、儀式を止めて」

「了解」

 クリシャの役割は、とにかく妨害だ。

 儀式の妨害は最優先だが、現状テュール側の人員で、儀式を妨害できる人員は少ない。

 儀式を行っている者達を全部制圧すれば儀式は止まるかといえば、おそらくそうはならない。

 地脈関連の儀式というのは、地脈に流れる魔力をエネルギー源とするため、地脈から切り離さないと基本的には止まらない。

 それどころか、制御者である実行者を下手に排除すると、暴走の危険が大きい。

 儀式を止めるには、専門の知識を持つ者が必要だが、専門家である巫女衆は、『竜殺しの大祭』の準備と、ベリガルからもたらされた情報の解析に人手を取られていて、こちらに回せるほどの人員がいない。

 その点、クリシャならば専門的な知識があるし、戦闘も可能だ。

「モリヒトは・・・・・・」

「俺は、クリシャについていくことにする。足手まといかもしれんが」

「いやあ、最終手段ではあるけど、モリヒト君の体質を使えば、儀式をまるっと消去できるかもしれないからね」

「・・・・・・できるか?」

 モリヒトは首を傾げたが、クリシャは大丈夫、と頷いた。

「儀式の結果を吸収可能だと思うから。・・・・・・地脈の流入さえ止めてしまえば、モリヒト君が儀式場にいるだけで、儀式は自然と崩壊するね」

 ははは、とクリシャは笑って言った。

 それに対して、モリヒトは眉をひそめて聞き返した。

「それって、『竜殺しの大祭』の方も同じ理屈に?」

「なるね。モリヒト君が儀式場に行ったら、多分大変なことになるよ」

 そういった事情があるから、モリヒトは当日は儀式場に向かわず、城で待機、ということになっているわけだ。

「それでなんだけど・・・・・・」

 そこまでを確認したところで、アトリはナツアキへと目を向けた。

「あんたどうするの?」

「・・・・・・」

 水を向けられて、ナツアキは沈黙した。

「中に入れば、間違いなく戦闘になるわ。戦えないあんたが来ると、足手まといになるのは確実よ? ここで待ってた方がいいと思うけど」

「いや、行くよ」

 ナツアキは、そう答えた。

「いいの?」

「いい。役に立つ立たないじゃなくて、僕は行く。・・・・・・そう決めた」

「ふうん・・・・・・」

 きりっとした、というよりも、ちょっと迫力を醸し出している。

 アトリが、若干気圧されたように頷いたのを見て、モリヒトはアトリに近づいてささやいた。

「・・・・・・覚醒した?」

「言い方・・・・・・。いえ、まあ、ちょっと切れかけてるのは確かね」

 はあ、とアトリはため息を吐いた。

「怒る時は大体あんな感じよ」

 ほう、とモリヒトは頷く。

「・・・・・・怒らせるとヤバイやつっていうのは、私たちの中では、ナツアキが一番危ないわね。あれであいつ、私たちの中で一番けんかっ早いから」

「意外だな」

「そう思うでしょ? 大人しくなったのは中学後半くらいからだから。小学生の時とかは、なんだかんだユキオと張り合ってたのよ。あいつ」

「・・・・・・ふうん」

 今のナツアキは、どこかユキオと張り合うのはあきらめているように見える。

 ただ、

「すかした顔して、少年漫画の主人公タイプ」

「? どういうことだ?」

「友達とか、仲間とか、そういうのにひどいことをするやつを許せないタイプよ」

「ああ・・・・・・」

 さらに言えば、好意を抱いていると自覚している相手なわけだし、普通にキレているのだろうと推測が立つ。

「ああいうところがあるから、人望あるのよ。男なのにユキオの傍にいても、文句でないわけ」

 そういうこともあるのか、とモリヒトは頷いたが、

「・・・・・・キレてることに関しては、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。あれで失敗したところは見たことないから。・・・・・・不思議と」

「・・・・・・不安だなあ、おい」


** ++ **


「・・・・・・なるほど、あそこか・・・・・・」

 待機所となった民家を遠目に見れる屋根の上に、ミケイルとサラは立っている。

「・・・・・・どうする気?」

「突っ込む」

「・・・・・・正気?」

 サラのじと目も気に留めず、ミケイルはにや、と笑う。

「あいつらが突入を開始したら、それに合わせて突っ込むさ」

 ミケイルが今回ベリガルから任されている仕事は、それだ。

「・・・・・・ま、モリヒトをやっちゃだめってのは面倒な縛りだけどな」

「むしろ、放置しておいて大丈夫なのかしら? 体質的に、天敵でしょう?」

「問題ねえよ。違うことから突っ込む。・・・・・・むしろ、そっちだって仕事あんだろ?」

「・・・・・・ええ」

「じゃ、そっちに集中しろや」

「・・・・・・わかったわ」

 そして二人は、突入の時を待つのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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