第20話:突入前に
朝日が昇り、空が白む。
白い光が差し込む中、城門を抜けて、モリヒトは外へと出ていた。
「さて、今後の動きの確認をしますぞ、と」
一緒にいるのは、クリシャ、ナツアキ、アトリである。
「とはいっても、俺らが勝手に動くのはまずいこともあります。なにせ、さらわれた連中がどういう扱いになっているのか分からん」
人質にでも取られると厄介極まりない。
ついでに言うと、あまり大捕り物にはできない事情もある。
「・・・・・・今の情勢で、ミュグラ教団が暗躍しているので気を付けてください、と市民に知らせるわけにはいかんとさ」
解決してからならともかく、解決していない段階で警戒を呼び掛けるのは、新王就任の祝いの雰囲気と祭の雰囲気に水を差すことになる。
それは避けたい、というのが王国の意向だ。
新王であるユキオの門出に、ケチをつけるような真似はできない、というのは、王国の面子だけではなく、ユキオの精神面に配慮してのことでもあるだろう。
「ユキオなら、逆境で燃えるタイプよ」
アトリはそう言うが、トラブルなんてない方がいい。
最善は、騒動になる前に決着をつけること。
そして、そのための方法だが、
「ぶっちゃけて言ってしまうと、敵の居場所とかある程度は絞れている、らしい」
「らしい?」
ベリガルからもらった情報がある。
ただ、詳細な位置までは、ベリガルも知らないらしい。
内部情報があるのでは、と思いきや、やはり教団内部の一枚岩ではないらしく、自分主導の研究でも、その研究に関わらない者に対して情報は回ってこないらしい。
研究成果自体は、割と共有されるらしいが。
「何かをやっているものは、直属の手下にしか共有されない。今回の主犯は、ミュグラ教団の総帥だから、ある程度他のメンバーにも情報が回ってきた、らしいな」
ベリガルとしては、今動いてほしくはないらしい。
自分が動くのはいいのかと思うが、仕込むのはあくまで観測用で、『竜殺しの大祭』の儀式に影響を及ぼすようなものではなかったという。
その辺りは、ざっと資料を読み込んだルイホウの方から情報をもらっている。
「さて、それを踏まえて、今日の目的地だ」
本日、警備のための騎士達が動いている。
巫女衆の方で、現在集まっている情報と地脈の現在の状況の調査結果を踏まえて、王都内の怪しい場所をピックアップ。
その結果に対し、軍部の方で改めて調査したところ、怪しい場所は一か所に絞り込めたという。
正確には、さらにそこにクリシャからの情報提供があったらしいが。
「・・・・・・うーん。正直、ちょっとボクも驚いてるんだよね」
というのは、クリシャの言葉だ。
クリシャが提示した場所というのは、建国時に王都に用意されていた研究所の一つであったらしく、かつて訪れた際には、すでに潰されていて何もなかったはずだという。
ただ、地脈に関する研究所というのは、どんなところにでも自由における、というものではない。
地脈に関するものであるだけに、その研究対象に容易に干渉できるかどうかは重要なものだ。
だから、その地点を指示したところ、大当たりだったのだという。
「ま、当たったんだからいいけどね」
さりげなく、目的地周辺の土地を封鎖するように動いていて、人払いを始めているらしい。
「・・・・・・昼前には、周辺から人がいなくなるから、そしたら突入ね」
軍部から情報を受け取っているアトリから説明を受けて、モリヒトは頷く。
「じゃ、待機場所行こうか」
** ++ **
今回の作戦では、目的となるのは、敵の儀式の妨害だ。
それに対し、モリヒト、クリシャ、アトリ、ナツアキの一団は、混ざり髪の捜索と保護が目的になる。
素人集団が入っていいのか、という懸念はあるものの、軍部としては戦力を割けないところに、クリシャとアトリが動くなら、なんとかなるだろう、という目算があるらしい。
「アトリは、軍部にすごい信頼されてるのな」
待機場所として指示された、人ので払った民家の一室。
そこに集まり、モリヒトは突入前の休憩中であった。
同じ民家には、同じく突入班となった騎士達も待機しており、準備は完了しつつある。
そういった騎士達に対し、アトリはいくらかの指示を出したり、状況を確認したりとしているが、騎士達の中に、アトリを頂点とすることについて、不満を持っているような雰囲気はない。
「普段、訓練に混じってるからね」
アトリは、軍の兵や騎士達に対しても、そうそう負けることはない程度の実力を持っている。
また、将来的には、守護者として軍部に関わることになることも確定しているため、日常的に軍部で仕事をしている。
モリヒトが同行したのは一度きりだが、軍で魔物狩りなどがある時は、大体参加しているという。
その時に、いろいろ活躍することもあって、信頼を得ている、ということらしい。
「最終確認しておこうか」
アトリが、そう口を開いた。
「ん?」
「クリシャさんと私は、突入班。私は突入する騎士達の指揮に当たって、敵施設内の順次制圧に当たるわ」
敵は殲滅か捕縛。
見逃さないように、端から制圧していく。
「クリシャさんは、儀式の中心と思われる場所へと最速で行ってほしいの。それで、儀式を止めて」
「了解」
クリシャの役割は、とにかく妨害だ。
儀式の妨害は最優先だが、現状テュール側の人員で、儀式を妨害できる人員は少ない。
儀式を行っている者達を全部制圧すれば儀式は止まるかといえば、おそらくそうはならない。
地脈関連の儀式というのは、地脈に流れる魔力をエネルギー源とするため、地脈から切り離さないと基本的には止まらない。
それどころか、制御者である実行者を下手に排除すると、暴走の危険が大きい。
儀式を止めるには、専門の知識を持つ者が必要だが、専門家である巫女衆は、『竜殺しの大祭』の準備と、ベリガルからもたらされた情報の解析に人手を取られていて、こちらに回せるほどの人員がいない。
その点、クリシャならば専門的な知識があるし、戦闘も可能だ。
「モリヒトは・・・・・・」
「俺は、クリシャについていくことにする。足手まといかもしれんが」
「いやあ、最終手段ではあるけど、モリヒト君の体質を使えば、儀式をまるっと消去できるかもしれないからね」
「・・・・・・できるか?」
モリヒトは首を傾げたが、クリシャは大丈夫、と頷いた。
「儀式の結果を吸収可能だと思うから。・・・・・・地脈の流入さえ止めてしまえば、モリヒト君が儀式場にいるだけで、儀式は自然と崩壊するね」
ははは、とクリシャは笑って言った。
それに対して、モリヒトは眉をひそめて聞き返した。
「それって、『竜殺しの大祭』の方も同じ理屈に?」
「なるね。モリヒト君が儀式場に行ったら、多分大変なことになるよ」
そういった事情があるから、モリヒトは当日は儀式場に向かわず、城で待機、ということになっているわけだ。
「それでなんだけど・・・・・・」
そこまでを確認したところで、アトリはナツアキへと目を向けた。
「あんたどうするの?」
「・・・・・・」
水を向けられて、ナツアキは沈黙した。
「中に入れば、間違いなく戦闘になるわ。戦えないあんたが来ると、足手まといになるのは確実よ? ここで待ってた方がいいと思うけど」
「いや、行くよ」
ナツアキは、そう答えた。
「いいの?」
「いい。役に立つ立たないじゃなくて、僕は行く。・・・・・・そう決めた」
「ふうん・・・・・・」
きりっとした、というよりも、ちょっと迫力を醸し出している。
アトリが、若干気圧されたように頷いたのを見て、モリヒトはアトリに近づいてささやいた。
「・・・・・・覚醒した?」
「言い方・・・・・・。いえ、まあ、ちょっと切れかけてるのは確かね」
はあ、とアトリはため息を吐いた。
「怒る時は大体あんな感じよ」
ほう、とモリヒトは頷く。
「・・・・・・怒らせるとヤバイやつっていうのは、私たちの中では、ナツアキが一番危ないわね。あれであいつ、私たちの中で一番けんかっ早いから」
「意外だな」
「そう思うでしょ? 大人しくなったのは中学後半くらいからだから。小学生の時とかは、なんだかんだユキオと張り合ってたのよ。あいつ」
「・・・・・・ふうん」
今のナツアキは、どこかユキオと張り合うのはあきらめているように見える。
ただ、
「すかした顔して、少年漫画の主人公タイプ」
「? どういうことだ?」
「友達とか、仲間とか、そういうのにひどいことをするやつを許せないタイプよ」
「ああ・・・・・・」
さらに言えば、好意を抱いていると自覚している相手なわけだし、普通にキレているのだろうと推測が立つ。
「ああいうところがあるから、人望あるのよ。男なのにユキオの傍にいても、文句でないわけ」
そういうこともあるのか、とモリヒトは頷いたが、
「・・・・・・キレてることに関しては、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。あれで失敗したところは見たことないから。・・・・・・不思議と」
「・・・・・・不安だなあ、おい」
** ++ **
「・・・・・・なるほど、あそこか・・・・・・」
待機所となった民家を遠目に見れる屋根の上に、ミケイルとサラは立っている。
「・・・・・・どうする気?」
「突っ込む」
「・・・・・・正気?」
サラのじと目も気に留めず、ミケイルはにや、と笑う。
「あいつらが突入を開始したら、それに合わせて突っ込むさ」
ミケイルが今回ベリガルから任されている仕事は、それだ。
「・・・・・・ま、モリヒトをやっちゃだめってのは面倒な縛りだけどな」
「むしろ、放置しておいて大丈夫なのかしら? 体質的に、天敵でしょう?」
「問題ねえよ。違うことから突っ込む。・・・・・・むしろ、そっちだって仕事あんだろ?」
「・・・・・・ええ」
「じゃ、そっちに集中しろや」
「・・・・・・わかったわ」
そして二人は、突入の時を待つのだった。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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