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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第16話:待ち合わせ

 朝日が昇る。

 時刻を知らせる鐘が鳴る。

 時計がないわけではないが、この時刻を知らせる鐘は、古くから王都にある伝統ある品だ。

 巨大な鐘の音は、テュール異王国の端にいても聞こえるほどであり、朝、正午、夕方の三度鳴らされる。

 その音を合図に、街は動き始める。


** ++ **


 朝食を終え、モリヒトは自室で装備を確認していた。

 呼び出しは、おそらく敵によるもの。

 罠であろうという認識がある以上は、何の準備もなしに出向くわけには行かない。

「・・・・・・むう・・・・・・」

 さて、と頷くと、モリヒトは部屋を出た。


** ++ **


「しかし・・・・・・」

 街を歩いて、状況を確認する。

「行き先は決まっている、と」

「そうですね。場所は決まっています。はい」

 先を歩いていたモリヒトは、振り返ってルイホウを見る。

「・・・・・・正直に告白してもいいでしょうか?」

「何でしょうか? はい」

 モリヒトが、神妙な顔をして言うことに、ルイホウは首を傾げた。

「前回はさ、ほぼ全力で走ったじゃん?」

「そうですね。魔術まで使って全力で走りましたね。はい」

「・・・・・・あの速度に素で追いついてたセイヴって、何者なんだろうな?」

「考えても仕方ないこと、というのはあるものです。はい」

 言外に、セイヴを人外と言っていないだろうか、とモリヒトは内心首を傾げるも、今はそれは重大ではない。

「ぶっちゃけ、俺、目的地がどこかわからんのだが」

 セイヴとルイホウが向かう先に同道しただけで、モリヒト自身が道を探ったわけではない。

 帰ってくる時は気絶していたため、当然ながら道なんて覚えていない。

 ついでに言うと、目的地は道なき道の先にある森の中なので、そもそも目的地なんて分からない。

「じゃあ、なんで先頭を歩いてるんですか。はい」

 呆れのため息を吐いて、ルイホウが先に立つ。

「いや、俺が歩き出すまで、お前ら動かなかったじゃんよ」

「ボクは、そもそも目的地に心当たりすらないからね。ついていくしかないよ?」

 クリシャもそう言って首を傾げた。

 それはそうだ、とモリヒトは頷いて、

「ルイホウ、道案内」

「わかりました。はい」

 苦笑を浮かべたルイホウは、やれやれと肩をすくめて歩き出す。

「・・・・・・結構距離あるよね?」

「ありますね。前回は魔術を使って高速移動したので、おそらく思っている以上に距離はありますよ。はい」

 ふうむ、とモリヒトは唸る

「もう一回やるか?」

「やめておいた方がいいでしょう。前回は緊急時だったため、やむなくそうしましたが、そもそもあの移動法は少々危険度が高いものです。はい」

 前回の移動方法は、ルイホウの方は自分で制御した水を使って道を作っていた。

 一方で、モリヒトは足元で爆発を起こした反動での移動だ。

 その反動で怪我をしないようにするための魔術は自分で使っていたが、移動するルートについては、ルイホウに外部から制御してもらっていた。

 制御というか、変な方向に飛びそうになったら、ルイホウが水で受け止めて、元のルートに戻す、というやり方だった。

 不思議な話、ルイホウの制御する水は、触っても濡れない。

「それに、時間を指定されているわけでもないし、多少待たせたっていいよ。・・・・・・今日中にはたどり着けるんでしょ?」

「距離的には、朝から出ていますから、昼過ぎぐらいには到着するかと思います。はい」

 ルイホウの答えを聞いて、ふむ、とモリヒトは唸る。

 その目は、周囲の屋台を向いていた。

「・・・・・・よし、弁当買っていこう」

「さっき朝ごはん食べたのに、もうお腹空いたのかい?」

 クリシャは、くすくすと笑った。

 それに対して、モリヒトは頷いた。

「たぶん、歩いているうちに腹減るしな」

「別に構いませんが。はい」

「うん。というか、到着予定時間が昼頃だろ? じゃあ、ちゃんとうまい飯を持って行かんと」

「・・・・・・無駄にならないといいけどねえ」

「さて?」

 ふむ、とモリヒトは考える。

「あくまでもカンというか、希望的観測じみた、飛躍混じりの推論だけどなあ・・・・・・」

 顎に手を当てたまま、モリヒトはのんびりと考える。

「たぶん、戦闘はないと思うんだよ」

「それはなぜだい?」

「もし戦闘があるなら、手紙なんて面倒な手段取らずにそのまま襲ってくるだろ」

「・・・・・・そうかな?」

 クリシャもルイホウも、モリヒトの推測に首を傾げた。

 王都の中で、わざわざリスクの高い襲撃をするか、ということなのだろうが、そこは常識的な相手なら、の話だ。

「やつら、そういうの気にしないみたいだし」

 気にする奴らなら、そもそも王城への襲撃はしないだろう。

 オルクトの帝都でも、クリシャを狙って街中で襲撃を仕掛けてきたやつらだ。

 危険度で言えば、むしろテュール王都の方が低い。

 今、警戒度が上がっているとはいえ、ここで動かない理由にはならない。

「わざわざ外に呼び出して、っていうのも、ねえ・・・・・・」

「罠を仕掛けるから、外の方が都合がいい、というのはありそうだけどね」

「その場所が、森の中の、何の目印もない場所か? おまけに、地脈の真上だぞ」

「・・・・・・そうか。ルイホウ君の手際なら、目的地に着く前に、何か仕掛けられていないか、地脈を通して確認できるね」

「そうですね。はい」

 地脈を扱う魔術、という点にかけては、テュールの巫女衆以上の存在はそうはいない。

 ルイホウは、その中でもトップクラスの魔術師であるし、そもそもホームグラウンドだ。

 慣れ親しんでいる環境で、そうそう遅れは取らない。

 加えて、今、テュールの巫女衆は、そのほとんどの人手が、地脈の監視に費やされている。

 『竜殺しの大祭』前に、最終調整を行うためだ。

 この状況で、地脈に対して何かしらの手を加えれば、すぐさま感知される。

「・・・・・・罠を仕掛ける余裕はないか」

「・・・・・・一つ、あるとすれば、ですが。はい」

 なるほど、とクリシャが頷いている横で、ルイホウは顔をしかめた。

「モリヒト様の体質から、おそらく地脈上は不利になります。はい」

「うん?」

「地脈の真上で、今回の目的地は瘤が噴き出した場所でもありますから、地脈の魔力の噴出点です。周囲の環境は、黒の森ほどとはいかずとも、地脈の魔力に溢れた環境となっているはずです。はい」

「あー・・・・・・」

 それがあった、とモリヒトは唸る。

 モリヒトの体質は、地脈から噴き出した魔力をそのまま吸収することが難しい。

 黒の森では、それで体調を崩しているし、これから向かう先でも同様のことが起こる可能性は高い。

「・・・・・・ま、大丈夫だろ」

 結局、戦闘は起こらないだろう、という予想は、モリヒトの中では揺らいでいない。

「案外、俺らが警戒するべきは、これから向かう先とは、別のところにあるかもなあ・・・・・・」

「陽動ってことかい?」

「可能性はな。・・・・・・将軍たちにはそう言って、同行者は付けないようにしてもらったけど」

「悩ましい問題だね」

 当初、大臣や将軍に報告した際には、護衛役として騎士の一人か二人位はつけるべき、という話もあった。

 ただ、警備を重くしなければならないこの時期に、街の外へ向かう戦力を増やすべきではないのと、陽動の可能性を考えて、それは断っている。

 今日中に戻らなければ、捜索隊が組まれることになるが、おそらくそうなる可能性は低いと見ている。

「・・・・・・ともあれ、行こうか。これ以上は、考えてもしょうがないだろ」

「そうですね。はい」

「了解」


** ++ **


「さて、昼頃には来るだろうね」

「面倒くせえな。待つだけってのも、手持無沙汰だ」

 森の中、広場となったその場所に、不自然に椅子と机が置かれている。

 地面から盛り上がった土を変形させ、硬化させて用意されたものだが、ガタイのいいミケイルが体重をかけても壊れないところを見ると、それなりに頑丈であるらしい。

 屋根代わりに、周囲の木々から枝葉を伸ばして日光を遮るようにもなっており、その一角には森の中の休憩所ができていた。

「便利なもんだ」

「学べばいい。ミケイルなら、似たようなことはできる」

「ふん。軽いやつならともかく、あんたのやり方は、肌に合わん」

 け、と吐き捨てるミケイルだが、実際いくつかの魔術はベリガルから学んでいる。

「・・・・・・」

 それは、ミケイルの隣に腰を下ろし、複雑な顔でベリガルを見ているサラも同じだ。

 ミュグラ教団は、もともと所属していた場所で己の研究が認められず、異端、禁忌の研究に身を染めるうちに、ミュグラ教団に流れ着いたものが大半だ。

 教団で生まれ育ったような存在は、教団内には極めて少ない。

 ミケイルやサラのように、もともとは研究材料として教団に集められ、何かしらの理由で自由になったあと、教団に協力するようになった教団員に対しては、ベリガル・アジンに教育を施された者は少なくない。

 ミケイルは知っている。

 ベリガルは時折、研究材料としてさらってきた子供の中から、解放し教育を加えた上で教団員に加えるようなことをしている。

 不思議な話、そうして解放された子供は、特に何かの縛りがあるわけでもないのに、不思議と教団を裏切らない。

 サラなどは、その類だ。

 いつでも、教団を抜けることもできるはずなのに、不思議と裏切らない。

 そういう子供を見つけるのが、ベリガル・アジンという男は上手いのだ。

「あー。昼頃だったよな。来るの」

「ああ。そうなるだろう」

 そうかい、と言って、ミケイルは席を立つ。

「どうした?」

「飯獲ってくる」

「・・・・・・私も行くわ」

 サラもそれに続いて席を立つ。

「そうか。まあ、交渉は私の方でやるから、戻ってこなくてもいいぞ」

「そうかい」

 背を向け、腕をぐるぐると回しながら、ミケイルは森の中へと消えていった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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