表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
129/436

第11話:新女王とお忍び街歩き(2)

「仲良さげだねえ」

 よきかな、というどちらかというとばばくさい口調で、クリシャは、頷く。

 その視線の先には、同じように隠れて見守っているルイホウがいる。

 街角の路地の奥や、あるいは屋根の上など、人目につかないところから、忍んで二人の警護を行っている形だ。

 二人以外にも、テュールの隠密とも呼べる者たちが、どこかに潜んで二人を守っているだろう。

 どちらかというと、二人がやっているのだただのデバガメに近い。

「・・・・・・よいことです。はい」

「本音は?」

「私とも同じくらい仲良さげにしてほしいところです。はい」

「・・・・・・・・・・・・素直だねえ」

 クリシャは苦笑いを浮かべ、ルイホウの背に手を添えて、杖を振る。

 瞬間、二人の体が浮き上がって、路地裏から屋根の上へと、音もなく移動した。

「しかし、あれがあの女王様かあ。ボクの見立てだと、もうちょっと大人ぶった子だと思っていたけれどねえ」

 クリシャの見ている限り、子供っぽくはしゃぎまわっていて、微笑ましいとすら見える。

「そういう気取ったところはない方と、私は見ていました。はい」

「おや? そうなのかい?」

「親しみやすさと威厳を、必要に応じて使い分けられる方と見ています。はい」

「ふうん。顔の使い分けができるってことかな?」

「それを、意識せずにできるところが、優れたところなのではないかと。はい」

 なるほど、とクリシャは頷く。

 ユキオと接して、それほど悪印象を受けることはないが、それも一種の才能ということだ。

「・・・・・・おや? また何か見つけた」

 ユキオは、ずいぶんと無邪気な顔で笑って、モリヒトを引っ張っている。

 微笑ましい気分になってくる。

 クリシャがちら、とルイホウを見ると、割と落ち着いた顔で見ている。

「・・・・・・んー。嫉妬しているかと思っていたんだけど、意外と平静だね?」

「いえ。それほど平静でもないですよ? ただ、参考になるなあ、と思っています。はい」

「参考?」

「ええ。モリヒト様は、ああして引っ張られると弱いのですね。はい」

「・・・・・・・・・・・・こわあ」

 ものすごい笑顔で言われて、クリシャとしては、軽く引く。

「まあ、それは冗談として置いておいても、ちゃんと見ておかないと心配です。はい」

「心配って・・・・・・、取られないか?」

「いえ。そちらはあまり。どちらかというと・・・・・・あ。はい」

「ん?」

 ルイホウが見ている視線の先を、クリシャが見る。

 と、そこを歩いているモリヒトの頭の上から、ベランダに置かれていた植木鉢が落ちていく。

「おっと!」

 とっさにクリシャが魔術を行使して、それを止める。

「ありがとうございます。はい」

「・・・・・・今のは・・・・・・」

「モリヒト様が、よく不幸体質、と言っているものですね。はい」

「なるほど・・・・・・」

 クリシャは、腕を組んでうなる。

「何か、分かりましたか? はい」

「今のは見えた。・・・・・・あの鉢植え、多分、それなりに大事に育てられたか何かだね」

「と、言いますと? はい」

 ルイホウは、モリヒト達を見ながら、首を傾げる。

 クリシャは、目つきを鋭くして、モリヒトを見ている。

「わずかだけど、鉢植えに魔力が宿ってたよ。それがモリヒト君に引き寄せられてた」

 魔力は、ある程度持ち主の意思に従って動く。

 当然、意識を注ぐと、その対象に魔力が注がれる。

 放っておけば、自然と消えてしまう程度のものだが、その状態でモリヒトが近づけば、そちらに魔力が引き寄せられて、ものも一緒に引き寄せられる。

「それほど大規模なわけじゃない。能力範囲の中だけの話だから。ただ、軽いものなら、魔力の引き寄せに乗って引き寄せられもするだろうし、ものがよく飛んでくる、と言う事態も理解できるよ」

 クリシャは、頷いている。

 ルイホウの視線の向く先、モリヒトの方は、と言えば、頭の上のことなど気にもせず、ユキオが興味を示した店先のショーウィンドウの中を、一緒になって覗いている。

「・・・・・・む」

 いつも一緒にいるのは、ルイホウにとっては仕事であり、役目だ。

 合法的に一緒にいられる言い訳があるわけだし、役得と思っていたが、ふと思う。

「ああいう街歩きが、仕事と混同してしまうのも、考え物ですね。はい」

 たまには、普通にデートに誘ってほしいと思うのは、わがままだろうか。

「一応確認するけど」

 ルイホウが悩んでいるところへ、クリシャが問いかけた。

「君達二人、まだ肉体関係はないんだよね?」

「もしそういった既成事実があったなら、私はもっと穏やかな気持ちであの二人を見守れると思います。はい」

 妙ににこやかな顔をしているのを見て、クリシャは何も言わずに肩をすくめるのであった。


** ++ **


 ショーウィンドウ。

 店先で、商品を陳列したものを、通りから眺めることができる、大判の透明なガラスの窓。

 とはいえ、思うのは、

「こういうの、作れるんだな。この世界」

「城のテラスにだって、大きなガラス窓あるじゃない」

「いや、この手の大判ガラスは、この前の地震の時に軒並み割れてたからな。そんなに経ってないのに、綺麗なのがはめられてるあたり、大したもんだ、と」

 生産力がある、ということだ。

 こういうガラス製品を売っている店もあって、見ているだけでも楽しい。

 細工物については、ほぼすべて手作りではあるらしいが、それだけに同じものは一つない。

「・・・・・・地方の土産物屋を覗いている気分。・・・・・・ここ王都なのに」

「ああ、確かにそういう感じね」

 機械での大量生産品もないことはないのだが、そういうものは日用品に多い。

「大地震の時は、なんだかんだ襲撃があったから、いろいろ見逃してるのよね」

「ああ、城の方は大変だったらしいねえ・・・・・・」

「あの事件で一番大けがしたの、腕一本失くしたモリヒトだけどね」

 戦った兵士や騎士達は、交代と回復をしっかりしていたので、実は重傷者がいない。

 モリヒトが一番大きいけがをした、というのは、確かにそのとおりなのだ。

「まあ、あれは俺じゃなくてセイヴが悪いし」

 しれっとセイヴに責任を押し付けて、モリヒトは嘯く。

「まあ、それはそういうことでもいいけど」

 ユキオも肩をすくめて答えるにとどめて、店先を冷やかしながら歩いていく。

 大通りは、中央が屋台や市場の通りなら、道路脇は店が並んでいる。

 王都で店を持てる、というのは、テュールの中では結構大きい商人である印だ。

 アクセサリーや置物といった、比較的高価な品を並べる店が多い。

 まあ、大通りに並ぶ店は、比較的高価ではあっても、品の種類として高価なのであって、本当に高価な貴族向けの店などは、もっと城に近い場所の、大通りから一本外れた通りにある。

 今二人が覗いているのは、一般的な市民向けの店である。

 モリヒトが渡されているお小遣いでも、問題なく買えるお店だ。

 本当の高級店だと、基本的にツケで、現金払いはない。

「・・・・・・そういや、聞いていいか?」

「何かしら?」

 雑貨店に入って、品を見ているユキオに、モリヒトは声をかける。

「俺がこっちに戻ってきてから、タマを見てないが、どうしたんだ?」

「タマのこと?」

 言いながら、ユキオが左腕を上げると、左手首に数珠が見える。

 ユキオのウェキアス『八重珠遊纏』は、アートリアまで発現している。

 まだ幼い姿で現れるタマは、モリヒトがオルクトに出向くまでは、割とよく姿を表していたと思うのだが、モリヒトが戻ってきたから一度も見ていない。

「あー。私もよくわからないのよね。なんだか最近、全然姿を見せなくなってて・・・・・・」

「ふうん?」

 タマは、ユキオのアートリアだ。

「呼んでも出てこないのか?」

「出てこないわね。・・・・・・ちょっと心配だけど、ウェキアスとしての力は失われていないし、何か理由があるんだろうって」

 アートリアやウェキアスについては、分からないことは今も多い。

 だから、持ち主であったとしても、思い通りに使いこなせる、というわけではない。

「力は使えるんだろう?」

「ええ。使いたいと思えば、ウェキアスとしての力は使えるけど、タマは呼んでも出てこないわね」

「ふむ・・・・・・」

 ちょっと考えて、モリヒトは店を出る。

「どうしたの?」

 その後をついてきたユキオが見ている前で、モリヒトは屋台から甘い匂いのするお菓子を買うと、

「ほーれ、タマ。おやつだぞー?」

 ふりふり、とユキオの左手首にはまった数珠の前で振ってみる。

「・・・・・・・・・・・・あえて聞きましょう。何やってるの?」

「子供だし、出てこないかな、と」

「そんな単純なわけないじゃない」

 はあ、とため息を吐いたユキオだが、わずかに数珠が光ると、

「お?」

 ふと気づいて手元を覗くと、モリヒトの持っていたお菓子の一部が、まるでかじったように消えている。

「・・・・・・・・・・・・なるほど」

「あらまあ・・・・・・」

 くっくっく、と思わず笑う。

「どうやら、眠っているわけでもなさそうだな。わざと出てこないのか」

「何をしているのかしら」

 自分の左腕の数珠を見ながら、ユキオは首を傾げる。

「力を溜めているのかもなあ。もうすぐ一世一代の見せ場なわけだし?」

「ああ。・・・・・・確かにね」

 かじられてしまったお菓子をユキオに渡すと、ユキオはそれを半分に割って、かじられていない方をモリヒトに差し出す。

 新しく飲み物を二つ買っていたモリヒトは、片方をユキオに渡して、代わりに半分のお菓子を受け取った。

 二人、お菓子をかじりつつ、道を歩く。

「・・・・・・これ、なんか適当に歩いてるみたいに見えるんだけど、何か目的地あるの?」

「一応は」

「あるんだ」

「ああ、城内でモテる男に聞いた、この国でデートするならここに行け、ベストワンの場所だな」

「・・・・・・雑誌のタイトルか何かかしら?」

「まあ、それは冗談にしても、他国からの観光客向けの名所を教えてもらった」

「具体的には?」

「『竜殺しの大祭』記念館」

 モリヒトの上げた名前に、ん? と

「・・・・・・何それ?」

「歴代の『竜殺しの大祭』の記録が展示されているらしい」

「歴代?」

「まあ、過去の王だな。・・・・・・あと、『竜殺しの大祭』について、いろいろ分かるらしいし」

「へえ・・・・・・」

 ユキオが物憂げな声を上げたのを聞いて、モリヒトは首を傾げる。

「気が乗らんか?」

「え? あ、いや別に?」

 わたわた、と手を振って、ユキオは否定する。

「ふむ。じゃあ、行ってみるか」

「ええ」

 頷くユキオだが、やはりその表情は少し硬い。

 ふむ、と唸りながらも、モリヒトは何も言わずに歩くのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ