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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第8話:ミーナ

「こんにちは。ミーナさん」

 ナツアキが、ミーナに声をかけている。

「あ、トキトさん。こんにちは」

 ナツアキに明るく挨拶を返したミーナは、同行しているモリヒトを見て、首を傾げた。

「お客様ですか?」

「ナツアキの友人だよ、と」

 軽く首を傾げつつ、右手を差し出して、

「モリヒトってんだ。よろしく」

「はい。ミーナです」

 ぎゅ、と軽くを握手をして、手を放す。

「今日は、こいつのお目付け役でね」

「お目付け? トキトさん。何かやったんですか?」

 目を見開く仕草が、素直でかわいい。

 なるほど、とモリヒトは内心頷きつつ、昨日ユキオから指示された言い訳を言う。

「うん。仕事中にナンパしてたらしいから、本当に真面目に仕事してるか見てこい、と」

「人聞き悪いな!」

 モリヒトとしてもあんまりな言い草だと思うのだが、まあ、面白そう、もといユキオの命令なので、聞いておくことにする。

 言われたナツアキの方は、声を上げながらも、しっかりと視線がミーナを向いている。

 どう思われているか、気になって仕方ないのだろう。

上司命令りふじんだ。・・・・・・実際間違っちゃないだろ」

 その様子を観察しつつ、モリヒトは、ふむ、と唸った。

 見るのは、ミーナの髪色だ。

 赤茶けた、というか、赤土を思わせる色の髪だ。

 その中に、幾筋か、赤の濃さの違う髪が混じっている。

 とはいえ、それほど長くない髪で、混ざっている赤の色はそれほど多くない上に、紛れていてわかりにくい。

「間違ってないって・・・・・・。トキトさん、ナンパしてたんですか?」

 ミーナは、ちょっと引いたような顔をしているが、自分のそのナンパの相手だと思われているとは思ってもいない顔だ。

 ふと店の奥に目をやったら、そこにやたらと美形な肖像画が置かれている。

 サイン入りで。

「ぐ・・・・・・」

 不意打ちで見てしまったために、噴き出しそうになるのをこらえ、モリヒトは視線を逸らした。

 逸らした先、物陰からこちらを覗く、ルイホウとクリシャの姿がある。

 あの二人は目立つので、ミーナと会話する時に面倒になりかねないから、一旦は姿を隠しておいてもらうように頼んだからだ。

 目が合って、クリシャとルイホウがそれぞれに頷いた。

「・・・・・・ふむ」

 確定、ということだろうか。

「さて、というわけで、ミーナ嬢。悪いがちょっと聞き取り調査していいかな?」

「はい?」

「うん。具体的には、守護者ナツアキのどこが好き?」

「モリヒトー!! いきなり何聞いてんだてめーは!?」

 ナツアキが、いつにない口調であらぶりつつも、モリヒトの襟首をつかんでがくがくと揺すった。

「え? 守護者ナツアキ様のお話ですか?」

 様か、とモリヒトは、ミーナの呼び方に頷く。

「・・・・・・味わい深い」

「あんたも普段は、様付けで呼ばれてるだろうに・・・・・・」

 ナツアキの恨みがましい口調は流して、モリヒトはミーナに聞く。

「王や守護者の肖像なら、他にもあるだろう? なんでナツアキ限定なんだ? やっぱ顔か?」

 ナツアキから、非常にもの言いたげな気配は感じるが、それは気にしても仕方がない。

 ここでちゃんと聞いておかないと、城に戻った時に詰められることだし、しっかりと聞いておこう。

「ええっと。・・・・・・この間、事件があって、地震があったじゃないですか」

「ああ。あったね」

「あの時に、私、がれきに挟まって動けなくなっちゃって」

「あらまあ・・・・・・」

「助けを呼んだんですけど、みんなパニックで、誰も聞いてくれなくて」

「大変だったらしいな」

「ですね。この国は、なんだかんだ小さい地震には慣れてるんですけど、建物が崩れるような地震には慣れてないんですよ。地震が多いんで、そもそも地震に強い作りの家になってますし、だから逆に、地震で家が壊れる、っていう事態に、そもそも慣れてないっていうか」

「なるほど」

 以前、ルイホウから聞いた話だと、『竜殺しの大祭』が近づくと、地脈の乱れがより表出しやすくなるため、周囲の人心にも影響を与える、ということだった。

 治安の乱れや、不安になりやすい人が現れる、と。

 そういうタイミングの地震であったことも、やはり大きいのだろう。

 言われてみれば、隠されてはいるものの、街のあちこちには、未だ壊れた建物の姿が見える。

「そんな時にですね。大きい声が聞こえたんです」

「大きい声?」

「はい。その声が聞こえた人たちは、パニックを落ち着かせて、声に従って動き出して。それで、私も助けてもらえました」

「声の主にかい?」

「いえ。声の主の姿は、見てないです。私はそのまま、診療所に運ばれて、気絶してしまったので」

 でも、とミーナは続ける。

「後で、あの声の人が、守護者のナツアキだったって、聞きました。・・・・・・たまたま街にいて、皆のパニックを治めて、救助を指揮して、とてもたくさんの人が助かったって」

「・・・・・・ほほう・・・・・・」

 ちら、とナツアキを見れば、顔を赤くしてそっぽを向いている。

 あの日、確かに、守護者のナツアキがそういう指揮を執っていた。

 だから、ミーナの言うことは間違いない。

 目の前にいるのが本人と知らずに褒めたたえるミーナと、その褒め殺しに耐えているナツアキの図は、非常に面白いけれど。

「だから、感謝したくて」

「で、ナツアキのファンか」

「推しです!」

「その言葉、こっちにもあるんだなあ・・・・・・」

 くっくっく、とモリヒトは笑う。

「なるほど」

「何ですか。何か言いたいことでも?」

 ナツアキと視線を合わせると、ナツアキはモリヒトをじっとりとにらむ。

「聞いたことあったか?」

「初耳ですよ」

「あ、そういえば、トキトさんにも話してませんでしたね」

 へへへ、とミーナは照れて頭をかいた。

「ファンとか、そういうのはいいんです。でも、ナツアキ様がいたから、私は助かったんです。だから、ちゃんと感謝したくて」

「なるほどなあ・・・・・・」

 うんうん、とモリヒトは頷く。

「おもしろいことになってるなあ・・・・・・」

「おもしろがらないでくださいよ」

「何の話ですか?」

「ん、こっちの話。・・・・・・ただ、ミーナさんの話を、当のナツアキ本人が聞いたら、どう思うかねえ、と」

「あはは。守護者なんて、私みたいな一般人からしたら、雲の上の人ですよ」

「ははは。心配するな。俺も城で働いてるが、実際守護者だって人間だよ。元の故郷じゃ、一般人だったみたいだし、案外お似合いお似合い」

「もう、からかわないでください!」

 ぺし、とミーナは、モリヒトを軽くたたく。

 それに対し、モリヒトも軽口を返しながら、会話を続けた。

 生きた心地がしなかったのは、ナツアキ本人だけである。


** ++ **


「おもしろいことになってた」

 ナツアキをミーナのところに残し、モリヒトは、ルイホウとクリシャの元へと戻る。

「ま、あの二人は今日は放置で」

「そうだね。とりあえず、平穏そうで何よりだ」

 クリシャが、ミーナの方を見ながら、穏やかな顔で言う。

「危険、あると思うか?」

「騒がしくしない限りは、おそらく見つからないよ。明確な色の違いでもないと、混ざり髪かそうでないかなんて、なかなか分からないからね」

「ふむ・・・・・・」

 何やらわたわたと会話をしているナツアキと、それを見て笑っているミーナを見て、モリヒトは唸る。

「案外、髪の色が同じ混ざり髪、なんてのも、どこかにはいるのかもしれんな」

「かもね。・・・・・・ボクでも、ここまで近くに来て、注意しないと分からないくらいだ。多分、見た目で分からなかったら、街中ですれ違っても気づかないよ」

 クリシャは、モリヒトを見上げる。

「そういう意味では、気づいたモリヒト君が、ちょっと異常かも?」

「そこらへんも、案外体質、なのかもしれん」

 モリヒトは肩をすくめる。

「とりあえず、帰るか」

「おや、出て来たばっかりだというのに」

「・・・・・・・・・・・・何がほしい?」

「甘いものとか、食べたいねえ・・・・・・?」

 じ、とねだる視線を受けて、モリヒトはルイホウを顔を見合わせ、苦笑する。

「ルイホウも、行くか? 今日は暇だろ? 俺のおごりで」

「ええ。では、ごちそうになろうと思います。はい」

 にこ、と微笑むルイホウと、笑顔になったクリシャを連れて、モリヒトは街中へと歩き出すのだった。


** ++ **


「と言う具合に、おもしろいことになってた」

 城に戻ってから、ユキオ達に報告をする。

「へえ・・・・・・」

 ふうん、とユキオは唸っている。

 何か言いたげで、でも何も言わない。

 その様子に首をかしげていると、アヤカがちょこちょことモリヒトに寄ってきた。

「モリヒト」

「うん?」

「お願いがあるのです」

「おう。なんだ?」

「明日の話です」

 アヤカは、ちら、とユキオを見た。

「・・・・・・ちょっと、姉さまを街に連れ出してほしいのです」

「おん?」

 不思議なことを言われた、という感じで、モリヒトは驚きを顔に出す。

 ユキオを見て、

「ストレスでも貯めてるか?」

「いえ。そこらへんの付き合い方は、姉さま上手いので、大丈夫です。・・・・・・でも、それとは別に、一回くらい街を歩いてもいいと思うのです」

「・・・・・・ユキオって、街に出たことないのか?」

「ないです。この三か月、城でずっと女王になるための勉強で、街には出ている余裕なんてなかったのです」

 それはまた、とちょっと同情してしまいそうになるが、

「別に、ユキオなら街に出るくらいできただろうに」

 有能だし、暇をひねり出せないわけではないだろう。

 そうでないにしても、周りの者たちで調整はできたはずだ。

 だが、そんな疑問にアヤカはゆるゆると首を振って、

「出なかった理由はわからないです。でも、多分、モリヒトが誘えば行くと思うのです」

「・・・・・・んー。なんか詳しく聞きたいところではあるが、まあ、妹のアヤカが言うなら、多分そうなのか」

 ふむ、とモリヒトは頷く。

「よし、明日連れ出しておこう」

「お願いします」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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