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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第4章:人が騒ぐ、それを祭と呼ぶ
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第5話:夕刻が近づいて、公園の端で

 最後の点検を終えて、ルイホウはつかつかと街の中を歩いている。

 その後ろを、モリヒトはのんびりとついて歩く。

「モリヒト様は、私が傍にいることは邪魔ではありませんか? はい」

「お? なんか切り口変えてきた?」

「茶化さないでください。何のかんのと言ったところで、私はモリヒト様とはそれほど付き合いが長いわけではありません。はい」

「それを言ったら、こっち来てから一番付き合い長いのは、ルイホウだぞ? それは間違いない」

「それはそうでしょうが、それも、結局は三か月に満たない時間です。はい」

「・・・・・・言われてみればそうか」

 モリヒトは、ふとそうだ、と思った。

 結構事件があったから忘れていたが、ユキオが召還された時点で、『竜殺しの大祭』の開催予定は、三か月後だった。

 いろいろと事件があって、二か月ほどは過ぎた。

 その間を、ほぼルイホウと過ごしてきたのは間違いないが、

「よく考えると短いもんだなあ。同じ部屋で寝起きすることすらあったって言うのに」

「何も起こりませんでしたけれど。はい」

「何だよ。なんかしてほしかったか?」

「何もないよりはマシだったのではないかとも思います。はい」

「思い切り過ぎだろ。おい」

 ルイホウは、ちょっと機嫌が悪く見える。

 最後の点検場所の前で交わした会話以降、ちょっと機嫌が悪い。

「・・・・・・なんだかなあ・・・・・・」

 モリヒトは、頭の後ろをかいて、ため息を吐く。

 二人で歩いている間は、ちょっと浮かれ調子とも見えたが、今は逆に機嫌が悪い。

 こういう浮き沈みは、対応の仕方が分からなくて、振り回されるしかない。

「まあ、ルイホウがどんだけ俺を好きなのかは横に置いておいて」

「・・・・・・・・・・・・」

 ルイホウが何か言いたげに振り向いた。

「ぶっちゃけた話、俺はルイホウちゃんちょっと怖いです」

「ふざけた言い方ですね。ぶっ飛ばしますよ。はい」

「・・・・・・ルイホウ、なんか今日過激じゃない?」

「そういう気分の日もあります。はい」

「どんな日だ。まったくよう・・・・・・」

 モリヒトは、ルイホウ相手だと、微妙に気分が乗り切らないことがある。

「まあ、単純な話、俺はぐいぐい来る女性にはいい思い出がないので、ちょっと引いているのです」

「ま、え、の、恋人さんの話ですか? はい」

 一音一音区切るように強調するルイホウに、モリヒトは肩をすくめ、

「はいはい。前の、恋人さんの話ですぅ。・・・・・・まあ、その人には類友多くてなあ・・・・・・」

「ご友人も、似たような方だったと? はい」

「友達の友達は友達。友達なら、恋路の手伝いしてくれるよね? みたいなノリで手伝いを頼んでくるやつらばっかりだった・・・・・・」

 頼む、という言い方だと、穏やか過ぎるかもしれない。

 どちらかというと、巻き込みに来る、という感じだった。

 なぜか、彼女の友人の恋愛対象と、軒並み友人であったのも不運であったのかもしれない。

「それを、風除けにさばいてくれてたのも、彼女ではあったんだよなあ・・・・・・」

「なるほど。それで絆された、と・・・・・・。策士ですね。その女性・・・・・・。手ごわい。はい」

「・・・・・・何を競ってるんだ何を」

 しかしそれはともかくとして、

「金に余裕はなかったんで、いろいろ暇なしだった時期でもあってなあ。助けてくれるし、飯はくれるし、めっちゃありがたい人だった・・・・・・」

 勢いのある人だったし、それに巻き込んでくる人だったし、それを面倒と思うこともあったが、それ以上に助けられた。

 そういう風に語ると、ルイホウの顔が険しくなった。

「・・・・・・ちなみに、その人、モリヒト様のことを好きになったのは、いつだと言ってましたか? はい」

 少し考えてから、ルイオウの発した問いに、む、と首をひねってから、応える。

「え? 友達の恋愛相談に乗ってるうちになんとなく、とか言ってたけど?」

「なるほど。嘘ですね。はい」

 間髪入れない返答に、ははは、とモリヒトはうめく。

「断言できるの?」

「いいえ。きっとそうに違いありません。はい」

「願望じゃねえか」

 ルイホウは、モリヒトを窺うように小首をかしげて、

「本当にそうだったらどうします?」

「・・・・・・じゃあ、彼女が俺を好きになったのはいつだと思うんだ?」

 モリヒトが唇を曲げて聞いてみれば、ルイホウは胸を張って応える。

「そりゃ、初めて会った時からでしょう。はい」

「言い切れるのか?」

「私はそうでしたよ?」

 自然な微笑みで言われて、その笑みに一瞬見惚れて、マジか、と少し動揺しそうになったところで、は、と思い直す。

「・・・・・・・・・・・・ウソですね?」

「さて、どうでしょう? はい」

 ふふふ、とルイホウは笑っている。

「どっちだよ? いやマジに」

「本当のことですよ。ええ。私のことを私が言うのだから、間違いありません。はい」

「・・・・・・・・・・・・」

 これは、答えてもらえない。

 ルイホウの笑みを見て、モリヒトは肩を落としてため息を吐いた。


** ++ **


 ルイホウからすると、ずいぶんと面白い反応を返しているのかもしれない、とモリヒトはそんなことを思う。

「なんかなあ・・・・・・」

 ふがいないというか、情けないというか。

 そういう感情はあるのだが、嫌いではない感覚。

「む」

 どうしたものか、と思ったところで、足を止めていたことに気が付いて、歩き出す。

 ルイホウを追い抜いて先に行けば、ルイホウが後ろをついてくる気配がした。

 振り返ることなく、前を歩く。

 いま歩いている通りの先。

 遠目に、公園が見える。

 夕方が近くなっている今、屋台では夕方用の仕込みを行っているところも多く、いい匂いがする。

 夕飯は、あそこらで摂るか、とちょっと現実逃避気味に考えていたところで、

「モリヒト様は・・・・・・」

「ん?」

 後ろから声をかけられて、ちょっとだけ振り返った。

「改めてお聞きしたいのですが、モリヒト様は、元の世界へ戻りたいと思いますか? はい」

「そうでもないな」

 積極的に戻りたいと思う理由がない。

「質問を変えます。はい」

 通りを、公園へと向かって歩きながら、ルイホウはモリヒトへと聞いた。

「モリヒト様は、こちらの世界に、残ってくださいますか? はい」

 その質問に、モリヒトは思わず、足を止めた。

 そうして足を止めたモリヒトの横を、ルイホウが追い越していく。

 それから、ルイホウはモリヒトの前へと回り込んで、振り返った。

「・・・・・・あー」

 少し、細かい話をしてしまうと、モリヒトは元の世界へ帰ることはできない。

 ユキオの召還に巻き込まれてこちらの世界に来たイレギュラーであり、守護者として召喚されたわけではない。

 その理由については、モリヒトの体質に混じった真龍の成分なども影響しているとはいえ、いまだに分かっていない部分も多い。

 おそらくは、元の世界へと送還は可能、と言われているが、守護者の送還とは違い、絶対に成功する、とは言えない。

 そういうところから、モリヒトはもう元の世界への帰還を諦めている。

 元の世界への未練も少ないし、と自分を納得させていたわけだが、それは決して、こちらの世界に残ってもいいと、残りたいと思える理由ではない。

 モリヒトは、ルイホウを見た。

 先ほどまでこちらを見ていたルイホウは、もう視線をほかへと逸らしている。

 こちらを見ないその顔を見て、

「まあ、このままでいることに、抵抗はない」

「・・・・・・」

 ちら、とルイホウの視線がモリヒトを見て、また逸らされる。

「・・・・・・」

 モリヒトは、肩をすくめる。

 これ以上は、どうにも言葉にならない。

 ルイホウから、好意を寄せられていることについては、もう疑う余地はないにしても、あるいは、モリヒト自身が、ルイホウをとても気に入っているとしても。

 答えを出すことは、まだちょっとためらう。

 こういう感覚を味わったことはある。

 前の彼女と付き合っている間に、ちょっとずつ関係を進められる度、なんとなく感じていた、このままでいいのか、という感覚だ。

「あー。わがままだとは思うんだけどなあ。あんまり、急がないでほしいなあ。・・・・・・今すぐ帰るってわけでも、ないんだしよ」

 弱気な物言いになってしまうことは、仕方ないと思ってほしい。

「はっきりしてほしいところです。はい」

「無理っす。諦めて」

「もう、仕方のない人です。はい」

 はあ、と大きくため息を吐いて、ルイホウは顔を上げて笑みを浮かべた。

 その物言いと笑みに、モリヒトは、ばつが悪くなって視線を逸らした。

「モリヒト様は、まあ、そういう人ですよね。はい」

「む」

「いえいえ。いいんですよ。ええ。私は、それも含めて・・・・・・」

「ちょっと待てルイホウ。こっち、隠れろ」

 ふ、と視線を逸らした先に見たものを見て、モリヒトはルイホウを物陰に引きずり込む。

「あ、ちょ、何ですか? いったい。はい」

「ほれ、あっち」

「はい?」

 モリヒトは、発見したものを指さして、ルイホウに示す。

 ルイホウは、モリヒトが指さす先を見て、

「・・・・・・あら。あれは、・・・・・・はい」

「おもしろいものを見つけてしまった」

「なるほど。・・・・・・緊急事態ですね。はい」

「だろう? ユキオとアトリとアヤカに報告しないと」

「確かに、大変興味を持たれるでしょう。はい」

「帰るぞ。晩飯はここらで摂るつもりだったが、城に帰ってネタにしないと」

「分かりました。はい」

 うん、と二人で顔を見合わせて、頷き合う。


 公園の端の物陰から、公園の向こう側を覗く二人。

 二人の視線の先には、なにやら同年代の娘とやたら青臭い雰囲気で談笑する、ナツアキの姿があった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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