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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第34話:酒を飲みながら

 森での事件以降、傷は癒えたものの、念のための静養をしていた。

 静養、と言っても、適度に街中をうろついたりはしているが。

 帰還の報告自体は、アレトからセイヴへと行われて、モリヒトはほぼ同席していただけだ。

 モリヒトと黒との間で交わされた会話の内容については、セイヴは積極的に聞こうとはしていなかった。

 この国にとって、黒の真龍というのは、決して軽い存在ではない。

 だが、

「俺様も、一度アレとは会話している。黒と名乗る真龍がどういうものかは、大体察している」

 夜、軽く酒を交えての会話で、セイヴはそう言った。

「正直、アレを相手に交わした会話の内容なんぞ、でかい山なり海なりを前に、一人語りしてるのと変わらんだろう」

「・・・・・・なるほど、いい得て妙だな」

 確かに、と、その時は頷いたものだった。

 黒と会話をしたことで、得られたことは確かにある。

 ただ、それが黒と会話をしなければ得られなかったか、というと、多分違う。

「・・・・・・黒の真龍との謁見は、確かに面白い経験ではあったけどな」

「死にかけておいてか?」

 セイヴはくくく、と笑っている。

 モリヒトとしては、憮然とするしかない。

「半分くらいは、森への侵入者を防げてないお前のせいだろが」

「と、言われてもな」

「おまけに、あれはミュグラ教団とか言うところの有名人なんだろう? なんで捕まえてないんだ」

「捕まらんのだ。・・・・・・今まで、『怪人』は、ミュグラ教団の関係者とは目されてなかったからな」

 『怪人』ミケイルは、今までミュグラ教団とは無関係なところで、事件を起こしていた。

「それどころか、逆にミュグラ教団の捕縛任務に雇われることもあってな」

「・・・・・・その時は?」

「大層なご活躍だったらしい」

 セイヴは、肩をすくめた。

「教団員の捕縛。資料の確保。時には、自爆した施設の中から、重要証拠品を抱えて脱出。・・・・・・やつが持ち込んだ証拠品のおかげで、捕縛に踏み切れた教団員も多い。・・・・・・まったく、頭の痛いことだ」

 セイヴは、はあ、と深いため息を吐いた。

「どうしたんだよ?」

「やつがミュグラ教団の関係者だとわかったことで、教団対策部署は、今寝る間も惜しんで仕事だよ」

「今回の件でか?」

「いや。やつが今までに関わった、ミュグラ教団関係の事件について、やつが持ってきた証拠のすべてに見直しが必要になった」

 ミュグラ教団を追い詰めてきた証拠が、それを見つけてきたのがミュグラ教団の関係者だった、ということで、教団に都合のいい証拠を握らされた可能性が出てきたわけだ。

 結果として、オルクト魔帝国のミュグラ教団対策部署は、現在天手古舞となっている、ということらしい。

「面倒だよ。本当にな」

 セイヴ自身、ずいぶんと疲れているように見える。

「・・・・・・・・・・・・ふむ。酔いの勢いに任せて、何か弱音でも吐いてみるか?」

「やめろ。気持ち悪い。・・・・・・そういうのは、惚れた女にやるもんだ」

「おやおや。俺はてっきり、セイヴはそういうのは、惚れた女にこそ見せられないタイプかと思ったが」

「は! モリヒトに話すよかましだな」

「ははは。そうかい」

 酒を注ぎ直し、乾杯を交わす。

「まあ、今後もやつは来る。身辺には注意しとけ」

「・・・・・・めんどうくさい」

「諦めろ。こっちでも、今後は見つけ次第、捕縛するように命令は下してるがな。・・・・・・おそらく捕まらん」

「だろうな・・・・・・」

 あの実力だ。

 捕まえるのは、おそらく不可能に近い。

 単純に、強い、速い、硬いとそろっている。

 捕まえようにも、力ずくで罠ごと食い破られる未来が見える。

「部下からの聞き取った情報を見る限り、アレを捕まえるとなると、大型魔獣用の罠が必要だが、そんなもんを仕掛けたところでかかるようなことはあり得ん」

 賢い獣。

「『怪人』ってのは、いい得て妙だな」

「とりあえず、しばらくは潜伏するだろう。その間に、各地に指名手配してはおく」

 はあ、とセイヴは酒臭い息を吐いた。

「楽しい話題が出ねえなあ」

「仕方がない。面倒ごとの方が多い。・・・・・・と言っても、『竜殺しの大祭』前だと、大体こんなもんだがな」

「面倒ごとが起こるのか」

「起こる。地脈の不安定化が影響するのか、『大祭』が近くなると、事件が多くなるし、地脈沿いに災害も増える。魔獣もな」

 本来なら、一年おきに『竜殺しの大祭』が行われるため、そこまで面倒が発生することはないらしい。

 せいぜいで、祭りの雰囲気に浮かれた馬鹿が出るくらいだという。

 だが、今回は違う。

 先代のテュールの異王の崩御以来、数年ぶりの『竜殺しの大祭』だ。

 その間に溜まった地脈異常は、それこそ数年分。

 年々、犯罪件数や魔獣被害などは、増加傾向にあったという。

「大変そうだな」

「何。これが最後の区切りだと思えば、気は楽なものだ。どのみち、年々その手の問題は増えていた。それも『竜殺しの大祭』が終われば落ち着くだろうしな」

「そうかい」

 肩をすくめた。

 『竜殺しの大祭』に備える、どこか浮ついた空気は、オルクト魔帝国の中でもある、ということらしい。

「ラストスパートっと」

「そういうことだ」

 それは、本当に明るい話題、ということなのだろう。

 セイヴは、多少は明るい顔色をしている。

「『竜殺しの大祭』の際には、帝都の中でも多少それに乗じた祭を許可することにしている」

「そうなのか?」

「そりゃそうだ。この国に極めて影響の大きい儀式だぞ? やるに決まってる」

「ふむ」

「それに、祭りの機会は逃すもんじゃない」

 うむうむ、とセイヴは頷いている。

「・・・・・・やっぱ、祭りは多いのか?」

「多いな。民間から申請があった場合は、可能な限り許可するようにしている」

「お前自身が祭り好きだもんな」

「もちろんだ。・・・・・・民は笑顔で財布のひもがゆるくなり、街はにぎやかになる。税収増えるぞ?」

「俗物め」

 モリヒトが言えば、セイヴは、ははは、と大声を上げて笑う。

 数回、街を見て回った印象として、確かに帝都では祭、というかイベントごとが多いようだ、と思った。

 特に、帝都の中心を貫く大通りだ。

 歩く都度、なにか違うイベントをしている。

 元の世界の都心を歩いているようで、ちょっと懐かしい思いをしたものだ。

 その中に、時折『空飛ぶ魔皇来訪店』、とか書かれているのぼりがあることがあるのは、さすがに苦笑してしまうが。

「・・・・・・まあ、騒がしい方が、紛れるには便利だものな」

「ははは! 祭の空気の中でなら、俺様が紛れても、誰も委縮せんのでな」

 無礼講、というやつだ、とセイヴは笑うが、その都度誰かが異を痛めているだろう、と思うと、同情しかない。

「あまり無理はかけるなよ?」

「せんよ。俺様は優しい魔皇だぞ?」

 説得力ねえよ、その言葉。


** ++ **


「それはともかく、だ」

「?」

 ボトルを一本開けたあたりで、セイヴが話を切り替えた。

「近いうちに、テュールから客が来る」

「客?」

「通例通りなら、守護者の誰かだ」

「ふむ」

 アヤカ、アトリ、ナツアキの顔を思い浮かべた。

「用件は?」

「『竜殺しの大祭』へのオルクト皇族の招待状を持ってくる」

 盟主国への、礼儀、ということらしい。

 オルクト側としても、自国に影響の大きい儀式であるだけに、あまり軽く扱うことはできないという。

「オルクト皇族は、誰かしら出る。今回は、俺様がいく」

「魔皇ご本人が?」

「数年分溜まっている分、今回は規模が大きいことが予想されるからな」

「ふむ」

「そうでなくても、新しい異王が即位した際には、魔皇本人が訪問するのは、慣例だ」

 なるほどなあ、とモリヒトは頷いた。

 一度顔合わせはしているとはいえ、あくまでもあれは非公式。

 公式には、『竜殺しの大祭』こそが、初顔合わせとなるわけだ。

「で、お前どうする?」

「どう、とは?」

「招待状持ってきた使者は、招待状を渡したら帰る。俺様がテュールに行くのは、それこそ『竜殺しの大祭』の直前だ。・・・・・・お前は、どっちのタイミングで帰国するんだ、と聞いているんだよ」

 あ、とモリヒトは思った。

 モリヒトは、一応所属はテュールになっている。

 いつまでもオルクトに世話になるわけにはいかないし、ルイホウと一緒に帰ることになる。

「・・・・・・そうだな。使者と一緒に帰るか」

「だったら、飛空艇を一隻出すことになってるから、それに乗って帰れ」

「そうさせてもらう」

「・・・・・・で、本題があるんだが・・・・・・」

「ん?」

「クリシャのことだ」

「何が?」

「お前、あの女をテュールに連れていけ」

「なんでまた?」

「今回の『竜殺しの大祭』は、いろいろ特別になる。そもそも、テュールは襲撃を受けた直後だ。『大祭』の時にも、教団の邪魔が入ることが予想される。手は多い方がいい」

「・・・・・・なるほど」

「あと、本人の希望もある」

「クリシャが?」

「テュールには、いろいろと行っておきたい場所もあるんだと。今までは、関所のせいで気楽に行き来はできなかったらしいが、いい機会だから、テュールに行きたいんだとさ」

「ほう?」

「こちらとしても、重要参考人を一地域に押し込められるんなら、メリットがある」

「俺に監視しろって?」

「そこまでは言わん。ただ、縁を切らないようにしてくれ」

「・・・・・・まあ、引き受けるけど」

「頼んだ」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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