第26話:炎の攻防
間違えて同じものを投稿してしまいました。
再投稿しました。
必要なのは、自分を守る壁だ。
それと、自分の居場所を知らせること。
森守の防人たちなら、森の中の移動は早い。
森の中で襲撃された時、ミケイルに感嘆に蹴散らされてはいたけれど、だからといって、防人たちが無能なわけではない。
なにより、ルイホウやクリシャがいれば、どうにかなるはずだ。
少なくとも、モリヒトは、自分の体質がミケイルを弱めることくらいは知っている。
敵がミケイルなのは、ほぼ直感として、確信していた。
選ぶべきは、どういう魔術か、だ。
体は、動かすのもつらい。
足に力が入らない以上、長距離の移動は不可能に近い。
爆発の反動で飛ぶやり方はあるけれど、あれも制御が難しいし、この森の中では使えない。
「火柱」
レッドジャックがある以上は、おそらくそれだ。
それも、
「ライトシールドで体を守って、一帯を一気に焼く」
ふう、と息を吐いた。
それだけで痛みが走り、せき込んでしまう。
「・・・・・・ああ、くそ」
口元を押さえた手に、赤いものが付着している。
「見つかったら、確実に死ぬな」
ただでさえ、森の影響で体調が悪い。
息を吸う。
息を吐く。
繰り返して呼吸を落ち着けながら、唱えるべき詠唱を考える。
そして、
「来た」
がさがさと森をかき分ける音。
着地する音。
詠唱を開始する。
「―レッドジャック―
炎よ/立ち上がれ/煉獄の/顕現を/焼き払え/燃やし尽くせ/風を飲み込み/焼き尽くせ/立ち上れ/天の果てまで」
目的は二つ。
立ち上がる火柱による、現在位置の通達。
もう一つは、周囲を焼き尽くすことにより、酸素を燃やし尽くすこと。
いくら身体能力に優れようとも、呼吸ができなければ近づくこともできないだろう。
モリヒトなりに、襲われた経験から考えた、最適解である。
そんなことをすれば、モリヒト自身、熱と酸欠で死ぬが、そこはライトシールドを便利に使う。
「―ライトシールド―
力よ/包め/大気ごと」
全身を直径一メートルほどの大きさの盾で包み込む。
ライトシールドは、力場を発生させる魔術具だ。
それを利用すれば、空気ごと遮断可能なのはわかってる。
わずかに見える力場は、使い手であるモリヒトにしか見えていないらしいが、それがドーム状にモリヒトを覆う。
放たれた熱源から遮断され、呼吸も楽になった。
さて、と唸る。
「・・・・・・うまくいくかね?」
狙いはある。
ミケイルの身体強化が、どの範囲にまで及ぶのかは分からない。
仮に心肺機能まで人外レベルに強化される、となった場合、熱も酸欠も効かない可能性はある。
だが、そのすべてが魔術による身体強化なら、話は別だ。
黒からもらった情報で、モリヒトの体質が、この森ではマイナスに働くことはわかっている。
モリヒトが吸収可能な魔力は、他者が魔術に使った魔力だ。
それは、魔術の効果時間を短くし、威力を下げる。
だが、今この状況、モリヒトが魔力を吸収できる対象は、近くに来ているであろうミケイルのみ。
大気からの魔力吸収が難しいが、大規模な魔術を使ったおかげで、モリヒトの魔力は消費されている。
消費された魔力を補うため、モリヒトの体質は魔力の吸収力を上げる。
そうなると、どうなるか。
一番近くにいる対象からの吸収力が上がる。
すなわち、ミケイルの強化が弱体化する。
「はず」
あくまでも、モリヒトの想像でしかない。
「うまくいけよ・・・・・・」
半ば祈るような気持ちで、モリヒトは唸るのだった。
** ++ **
ミケイルは、拭きあがった炎を見て、頬が引き攣ったか、笑ったのか分からなかった。
「おいおい! こいつはマジか!?」
踏み込んだ、そして、詠唱が聞こえた。
その直後に、視界が炎に包まれた。
やはり、モリヒトが近くに隠れていた、と見るべきだろう。
炎が肌を焼き、熱が肺を焼く。
「ち」
モリヒトの墜落地点に近づいて弱っていた身体強化が、このタイミングでさらに弱くなったのを感じる。
「・・・・・・こいつは、さすがにまじいか」
この炎の熱は、今の弱った身体強化だと耐えきれない。
「天敵が!」
改めて感じる。
魔術が発動した瞬間、明らかに身体強化が弱体化した。
モリヒトが魔術を使用したことによる魔力消費が、そのまま魔力吸収を強化しているとすれば、まさしく天敵だ。
モリヒトと戦闘になった場合、モリヒトが魔術を使って応戦すればするほどに、その吸収体質は強まり、逆にこちらの身体強化は弱化する。
戦いが長期化するほどに、モリヒトは有利に、ミケイルは不利になる。
「・・・・・・でもなあ!」
それならそれで、短期で決めるだけだ。
身体強化を全開に。
その分魔力を吸われる感触が明確になるが、
「そこだろおがよお!!」
右腕を背後へと振りかぶり、助走の勢いも込めて、木の幹へと叩きつける。
轟音を響かせ、一抱えもあるような大木が、中ほどからへし折れて吹き飛んでいく。
「よお? 見つけたぜ?」」
その折れた幹の向こう側。少し離れた茂みに隠れる用に、モリヒトはいた。
「やあ、顔色が悪いな。寒いのか?」
「余裕を、気取ってんじゃねえよ!!
折れた幹を乗り越えて、ミケイルはモリヒトへと迫る。
「おおっらああっ!!」
なぜか地面に座り込んだままのモリヒトへ、すくい上げるようなアッパーを放つ。
だが、それは、モリヒトの手前で止められた。
「・・・・・・ち」
がん、と弾かれた拳を振り、しびれを逃がす。
「すーーーーーっ・・・・・・」
大きく息を吸い、
「おらあっ!」
思い切り打ち抜いた。
** ++ **
砕かれる。
それは直感していた。
ライトシールドは、便利に使えるし、瞬間的な対衝撃能力も高い。
一方で、展開しっぱなしだと、強度が落ちるらしい。
魔術ではあるから、イメージで補えないわけではないが、その分だけ魔力消費は多くなる。
加えて言うなら、魔術は確かにイメージ次第ではあるが、そこまで強固なイメージ力は、一朝一夕で身につくものではない。
砕かれる、と思えば、魔術はその通りになる。
その通りになった。
モリヒトをドームのように守っていたライトシールドは、ガラスが割れるように、砕けて散った。
「っ!!」
その瞬間に、森を焼く熱気が、モリヒトへと吹き付ける。
「・・・・・・っ?!」
詠唱をしようと息を吸おうとして、熱気を吸って、喉が焼けた。
「がっ!?」
「ああ、無理だろ。強化かけてる俺でもきついんだ。生身のお前が、この炎の中で息なんざできるわけねえ」
ミケイルの嘲るような声が降ってきた。
こちらを見下ろすミケイルは、肌にやけどを負い、呼吸が苦しそうではあるが、モリヒトのように息もできない、というほどではない。
「仕留めるぜ」
拳ではなかった。
ミケイルは、腰の後ろからナイフを取り出した。
「いつもなら、殴り殺す。けど、確実にやる。今日はこっちだ。俺は嫌いなんだがな」
ナイフを逆手に、ミケイルはナイフを振り下ろす。
とっさに転がって避けられたのは、ほとんど偶然だ。
ただ、字面近くに伏せられたことで、多少息は吸えた。
「―レッドジャック―
大気よ/爆ぜろ!!」
どん、と爆発音が鼓膜を叩き、衝撃が身を押す。
今度は、ライトシールドを展開する余裕もない。
「ち」
ミケイルの舌打ちが、不思議とはっきりと聞こえた。
ぐ、と押し出された体が、森へと突っ込む。
熱のある空気から、ひやりとした空気へと押し出される。
炎の範囲から、逃れられた、ということだろう。
「ぶはっ!」
息を吐きだし、息を吸う。
体を動かすのは無理だ。
それどころか、酸素が足りないのか、視界がぼやけているようにも見える。
ただ、
「意外と元気だなあ、おい」
すぐにミケイルは追撃をしてくる。
ゆっくりと茂みをかき分けて進んでくる様は、余裕を見せているように見えるが、目は笑っていないのが分かる。
油断などなく、こちらがどうするかを見ている。
死ね、と、その目が言っている気がした。
・・・・・・ああ
思った。
その目は、知っている。
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別作品も連載中です。
『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』
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