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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第26話:炎の攻防

間違えて同じものを投稿してしまいました。

再投稿しました。

 必要なのは、自分を守る壁だ。

 それと、自分の居場所を知らせること。

 森守の防人たちなら、森の中の移動は早い。

 森の中で襲撃された時、ミケイルに感嘆に蹴散らされてはいたけれど、だからといって、防人たちが無能なわけではない。

 なにより、ルイホウやクリシャがいれば、どうにかなるはずだ。

 少なくとも、モリヒトは、自分の体質がミケイルを弱めることくらいは知っている。

 敵がミケイルなのは、ほぼ直感として、確信していた。

 選ぶべきは、どういう魔術か、だ。

 体は、動かすのもつらい。

 足に力が入らない以上、長距離の移動は不可能に近い。

 爆発の反動で飛ぶやり方はあるけれど、あれも制御が難しいし、この森の中では使えない。

「火柱」

 レッドジャックがある以上は、おそらくそれだ。

 それも、

「ライトシールドで体を守って、一帯を一気に焼く」

 ふう、と息を吐いた。

 それだけで痛みが走り、せき込んでしまう。

「・・・・・・ああ、くそ」

 口元を押さえた手に、赤いものが付着している。

「見つかったら、確実に死ぬな」

 ただでさえ、森の影響で体調が悪い。

 息を吸う。

 息を吐く。

 繰り返して呼吸を落ち着けながら、唱えるべき詠唱を考える。

 そして、

「来た」

 がさがさと森をかき分ける音。

 着地する音。

 詠唱を開始する。

「―レッドジャック―

 炎よ/立ち上がれ/煉獄の/顕現を/焼き払え/燃やし尽くせ/風を飲み込み/焼き尽くせ/立ち上れ/天の果てまで」

 目的は二つ。

 立ち上がる火柱による、現在位置の通達。

 もう一つは、周囲を焼き尽くすことにより、酸素を燃やし尽くすこと。

 いくら身体能力に優れようとも、呼吸ができなければ近づくこともできないだろう。

 モリヒトなりに、襲われた経験から考えた、最適解である。

 そんなことをすれば、モリヒト自身、熱と酸欠で死ぬが、そこはライトシールドを便利に使う。

「―ライトシールド―

 力よ/包め/大気ごと」

 全身を直径一メートルほどの大きさの盾で包み込む。

 ライトシールドは、力場を発生させる魔術具だ。

 それを利用すれば、空気ごと遮断可能なのはわかってる。

 わずかに見える力場は、使い手であるモリヒトにしか見えていないらしいが、それがドーム状にモリヒトを覆う。

 放たれた熱源から遮断され、呼吸も楽になった。

 さて、と唸る。

「・・・・・・うまくいくかね?」

 狙いはある。

 ミケイルの身体強化が、どの範囲にまで及ぶのかは分からない。

 仮に心肺機能まで人外レベルに強化される、となった場合、熱も酸欠も効かない可能性はある。

 だが、そのすべてが魔術による身体強化なら、話は別だ。

 黒からもらった情報で、モリヒトの体質が、この森ではマイナスに働くことはわかっている。

 モリヒトが吸収可能な魔力は、他者が魔術に使った魔力だ。

 それは、魔術の効果時間を短くし、威力を下げる。

 だが、今この状況、モリヒトが魔力を吸収できる対象は、近くに来ているであろうミケイルのみ。

 大気からの魔力吸収が難しいが、大規模な魔術を使ったおかげで、モリヒトの魔力は消費されている。

 消費された魔力を補うため、モリヒトの体質は魔力の吸収力を上げる。

 そうなると、どうなるか。

 一番近くにいる対象からの吸収力が上がる。

 すなわち、ミケイルの強化が弱体化する。

「はず」

 あくまでも、モリヒトの想像でしかない。

「うまくいけよ・・・・・・」

 半ば祈るような気持ちで、モリヒトは唸るのだった。


** ++ **


 ミケイルは、拭きあがった炎を見て、頬が引き攣ったか、笑ったのか分からなかった。

「おいおい! こいつはマジか!?」

 踏み込んだ、そして、詠唱が聞こえた。

 その直後に、視界が炎に包まれた。

 やはり、モリヒトが近くに隠れていた、と見るべきだろう。

 炎が肌を焼き、熱が肺を焼く。

「ち」

 モリヒトの墜落地点に近づいて弱っていた身体強化が、このタイミングでさらに弱くなったのを感じる。

「・・・・・・こいつは、さすがにまじいか」

 この炎の熱は、今の弱った身体強化だと耐えきれない。

「天敵が!」

 改めて感じる。

 魔術が発動した瞬間、明らかに身体強化が弱体化した。

 モリヒトが魔術を使用したことによる魔力消費が、そのまま魔力吸収を強化しているとすれば、まさしく天敵だ。

 モリヒトと戦闘になった場合、モリヒトが魔術を使って応戦すればするほどに、その吸収体質は強まり、逆にこちらの身体強化は弱化する。

 戦いが長期化するほどに、モリヒトは有利に、ミケイルは不利になる。

「・・・・・・でもなあ!」

 それならそれで、短期で決めるだけだ。

 身体強化を全開に。

 その分魔力を吸われる感触が明確になるが、

「そこだろおがよお!!」

 右腕を背後へと振りかぶり、助走の勢いも込めて、木の幹へと叩きつける。

 轟音を響かせ、一抱えもあるような大木が、中ほどからへし折れて吹き飛んでいく。

「よお? 見つけたぜ?」」

 その折れた幹の向こう側。少し離れた茂みに隠れる用に、モリヒトはいた。

「やあ、顔色が悪いな。寒いのか?」

「余裕を、気取ってんじゃねえよ!!

 折れた幹を乗り越えて、ミケイルはモリヒトへと迫る。

「おおっらああっ!!」

 なぜか地面に座り込んだままのモリヒトへ、すくい上げるようなアッパーを放つ。

 だが、それは、モリヒトの手前で止められた。

「・・・・・・ち」

 がん、と弾かれた拳を振り、しびれを逃がす。

「すーーーーーっ・・・・・・」

 大きく息を吸い、

「おらあっ!」

 思い切り打ち抜いた。


** ++ **


 砕かれる。

 それは直感していた。

 ライトシールドは、便利に使えるし、瞬間的な対衝撃能力も高い。

 一方で、展開しっぱなしだと、強度が落ちるらしい。

 魔術ではあるから、イメージで補えないわけではないが、その分だけ魔力消費は多くなる。

 加えて言うなら、魔術は確かにイメージ次第ではあるが、そこまで強固なイメージ力は、一朝一夕で身につくものではない。

 砕かれる、と思えば、魔術はその通りになる。

 その通りになった。

 モリヒトをドームのように守っていたライトシールドは、ガラスが割れるように、砕けて散った。

「っ!!」

 その瞬間に、森を焼く熱気が、モリヒトへと吹き付ける。

「・・・・・・っ?!」

 詠唱をしようと息を吸おうとして、熱気を吸って、喉が焼けた。

「がっ!?」

「ああ、無理だろ。強化かけてる俺でもきついんだ。生身のお前が、この炎の中で息なんざできるわけねえ」

 ミケイルの嘲るような声が降ってきた。

 こちらを見下ろすミケイルは、肌にやけどを負い、呼吸が苦しそうではあるが、モリヒトのように息もできない、というほどではない。

「仕留めるぜ」

 拳ではなかった。

 ミケイルは、腰の後ろからナイフを取り出した。

「いつもなら、殴り殺す。けど、確実にやる。今日はこっちだ。俺は嫌いなんだがな」

 ナイフを逆手に、ミケイルはナイフを振り下ろす。

 とっさに転がって避けられたのは、ほとんど偶然だ。

 ただ、字面近くに伏せられたことで、多少息は吸えた。

「―レッドジャック―

 大気よ/爆ぜろ!!」

 どん、と爆発音が鼓膜を叩き、衝撃が身を押す。

 今度は、ライトシールドを展開する余裕もない。

「ち」

 ミケイルの舌打ちが、不思議とはっきりと聞こえた。

 ぐ、と押し出された体が、森へと突っ込む。

 熱のある空気から、ひやりとした空気へと押し出される。

 炎の範囲から、逃れられた、ということだろう。

「ぶはっ!」

 息を吐きだし、息を吸う。

 体を動かすのは無理だ。

 それどころか、酸素が足りないのか、視界がぼやけているようにも見える。

 ただ、

「意外と元気だなあ、おい」

 すぐにミケイルは追撃をしてくる。

 ゆっくりと茂みをかき分けて進んでくる様は、余裕を見せているように見えるが、目は笑っていないのが分かる。

 油断などなく、こちらがどうするかを見ている。

 死ね、と、その目が言っている気がした。


 ・・・・・・ああ


 思った。

 その目は、知っている。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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