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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第25話:天敵

 夜、山頂で眠る前の話だ。

「下の森では、不調を感じなかったか?」

 黒に言われて、モリヒトは頷いた。

「ああ。山を登ってくる時も感じたよ」

「で、あろうな」

 うむ、と黒は頷いた

 しゅるる、と舌が出し入れされる。

「む?」

 頷かれる理由が分からず、モリヒトが首を傾げると、黒は腕を組み、しばらく考えた後で、口にした。

「汝の魔力吸収体質は、真龍のそれと等しい。だが、魔力を環境から得る、ということに関して言うならば、さほどおかしな体質ではない」

「・・・・・・どういうことだ?」

「下の森を見よ」

 黒の真龍の山。

 その麓に広がる、黒い森。

「あの森の木々は、我の魔力の影響を受けるが故に、黒く染まっておる。影響を受ける、とはすなわち、魔力を吸っている、ということだ」

「・・・・・・あの木々にも、魔力吸収の性質があるっていうことだろ?」

「否。あの木々は、もともと普通の木よ。あの木の苗木を持ち出し、別の土地に植えれば、当たり前のようにそこに木は根付く。・・・・・・ただ、黒くはならんだろうが」

「そりゃ、この場で黒の源流に近い魔力の影響を受けているから・・・・・・」

「いや、違う。結論を言ってしまえば、どんな生物とて、魔力を外部から吸収はできる。・・・・・・ただ、真龍とは、吸収できる魔力の質が違うのだ」

 魔力に質の違いなどあっただろうか、とモリヒトは首を傾げる。

 今までに幾度か魔術は撃ってきたが、そういう違いを感じたことはない。

「より正確に言えば、多くのものが吸収できる魔力とは、地脈を流れる、我を源流とする魔力だ」

「じゃあ、真龍が吸収できる魔力っていうのは」

「逆に、真龍は、他の真龍が生み出し、地脈に流れる素の魔力を吸収することはできぬ」

 他の真龍の魔力は吸えない。

 聞く限りにおいては、特におかしいとは感じない。

 真龍から生み出された魔力も吸えるとなると、自分で出した魔力を自分で吸う、といった事態にもなりかねない。

「ん? じゃあ、真龍が吸える魔力って・・・・・・」

「簡単に言ってしまえば、他者が使った後の魔力だ」

「使った後、ねえ」

 言われてみると、微妙な表現だ。

 要は、出がらしか、とモリヒトは思ってしまった。

「出がらしではないぞ?」

「おや。顔に出てたか?」

「そういうわけではないが。まあ、わかるというものだ」

 黒曰く、魔力というのは、変質はあっても、増減はないエネルギーであるらしい。

 例えば電力ならば、熱や光、音、運動エネルギーなどに変化することで、電力としては減っていく。

 これが魔力となると違うらしい。

 魔術を使って、炎を生み出したとしても、その炎は熱や光のエネルギーではなく、あくまでも魔力エネルギーとなる、ということらしい。

「地脈から取れる真龍の魔力と、生物のうちにある魔力の差だ。地脈の魔力は、魔力を扱う術を持っているなら誰にでも使えるが、生物のうちにある魔力は、その当人にしか使えんし、一度魔術なりなんなりに使われた魔力は、もう誰にも使えん」

 だが、と黒は続ける。

「真龍が急襲するのは、その誰にも使えん魔力だ」

 それこそが、モリヒトの体調不良の原因であるという。

「下の森やこの山は、当然地脈よりあふれた我の魔力で満ちている。故に、一般的なものならば、魔術を多く使えるようになるし、威力も上がる。だが、汝の場合は・・・・・・」

「満ちているのは真龍の魔力だから、俺の体質では吸収できない」

「そうだ。それどころか、半端に体質だけ持ってしまっている汝では、周囲の魔力に当てられて、調子を崩すのは必定、というものだな」

「・・・・・・そういうことか」


** ++ **


「・・・・・・・・・・・・」

 モリヒトは、うっすらと目を開ける。

 思い切り吹き飛ばされ、全身を強打した。

 生きているのは、とっさに全身にシールドを張り巡らせたおかげだろう。

 それでも、一瞬でも気絶する程度には衝撃を受けた。

「くそ」

 どのくらい寝ていたのか、と周囲を見回す。

 あいにく、自分一人、深い森の中だ。

 時間など分かったものではなく。

「・・・・・・いや、そんな長い時間じゃないはず・・・・・・」

 自分が吹き飛ばされてきた、と思しき方向は、目を凝らせば枝などが折れている方向が見える。

 後ろを振り返れば、大木がある。

 その幹の表面に、爆ぜたように削れた跡があるのは、そこにモリヒトがぶつかったからだろう。

 高さのある場所から、ほぼ水平方向に吹き飛ばされたが、重力で下へ下がり、枝を折りながら飛んできて、ここの幹にぶつかって止まった、と。

 見れば、どこに自分が飛んできたのかの痕跡は分かりやすい。

 襲撃してきたのは、ミケイルだった。

 うっすらとしか見えなかったが、おそらくは間違いない。

 そして、痕跡が残っているということは、追跡もたやすいはず。

 もし長く気絶していたなら、とっくにミケイルに捕まっている。

「・・・・・・う」

 打撲の痛みはあるが、動けないほどではない。

 ライトシールドを用意してくれていたルイホウに感謝しつつ、モリヒトはレッドジャックの双剣を抜いて、

「どうすればいい?」

 考えるのだった。


** ++ **


 ミケイルは、モリヒトを追跡している。

 モリヒトを始末するのに、すぐに救助に来られても困るから、かなりの距離を吹き飛ばせるように、結構全力で殴った。

 やはりモリヒトに近づいた瞬間、かなり弱体化するのを感じたが、それを計算に入れ、意識的に身体強化を強めることで、威力は十分に出せたはずだ。

 一点計算違いを言うなら、モリヒトがとっさに展開したシールドだ。

 あれが、意外に弾性を持っていた。

 殴った結果、ミケイルの想定したより、勢いよく飛んでいった。

 森の木々、枝葉を下りながら飛んでいったため、痕跡は残っている。

 だが、森の木々が濃い。

 モリヒトならば、吹き飛ばされた以上、救助を求めて、元の位置に戻ろうとするだろう。

 この木々で視界を遮られ、すれ違うと機を逃すため、ミケイルは急ぎつつも、慎重に気配を探りながら、モリヒトの追跡を行っていた。

 そして、モリヒトが落下したと思しき場所に到達した。

「・・・・・・いねえな」

 そこでミケイルは、モリヒトは素人だが馬鹿ではない、と評価を少々上で直した。

 一対一で対峙したなら、いかにモリヒトの体質がミケイルの天敵でも、戦闘経験と格闘能力の差で、ミケイルはモリヒトを圧倒できる。

 モリヒトとしても、それは分かっているのだろう。

 ここに来るまでにすれ違った様子はない。

 自分の感覚を信じるならば、モリヒトは、吹き飛ばされた方向とは違う方向へ移動したか、

「この辺に隠れているか、だな」

 は、と頬が吊り上がるのを自覚する。

「いいねえ。正しく危機感を持ってるじゃねえか」

 相手は、ミケイルにとっての天敵。

 だから、ここで殺す。

 それを、モリヒトはどうやら自覚したらしい、とミケイルは考えた。

「・・・・・・油断はしねえよ?」

 モリヒトの取りうる選択肢は大きく分けて二つ。

 迎撃、あるいは、逃走だ。

 だが、ミケイルは感じ取っていた。

「迎撃、だよなあ?」

 ここに近づくに従って、ミケイルは自身の強化が弱くなっているのを感じていた。

 つまり、モリヒトに近づいている。

 しつこいようだが、モリヒトの体質は、ミケイルにとっては天敵だ。

 近づいて思い切りぶん殴れば、モリヒトは殺せる。

 だがモリヒトが近くにいれば、ミケイルは自らの身体強化に使った魔力を吸い取られ、身体強化自体が弱体化する。

 そうして吸い続けられれば、いずれは魔力を枯渇し、身体強化を使えなくなるだろう。

 ミケイルは、自分の体質を分かっている。

 教団の実験によってさまざまな改造を加えられたミケイルの体は、その身体強化で体を頑丈なものにすることによって、どうにかその副作用に耐えている状態だ。

 身体強化が切れずとも、ある程度弱体化した段階で、ミケイルの肉体は、実験の副作用で崩壊するだろう。

 つまり、近くにいるだけで、モリヒトはミケイルを殺せる。

 まさしく、天敵だ。

「さあてとお・・・・・・」

 じっくりと身構えた。

 モリヒトは、確実にどこかに隠れている。

「どこだ?」

 にや、とミケイルは、自分が笑っていることを自覚していた。


** ++ **


「参った・・・・・・」

 思ったより、自分の状態が悪い。

 モリヒトは、なんとかかろうじて隠れている。

 だがそれは、ミケイルが推測しているような、危機感によるものではない。

 こんなところで襲撃を受けるなんて予想もしていないし、そもそもミケイルが自分を狙う理由もよくわかっていない。

 モリヒトとしては、自分がミケイルの天敵になった自覚がないのだ。

 だから、身体が動くなら、合流を目指して吹き飛ばされた側へと向かっていた。

 そうできなかったのは、思いのほか体が痛いからだ。

 多少痛いくらいなら、我慢して動ける。

 突風に体を押されて、階段を転げ落ちた時も、肩を脱臼し、頭から血を流しながらも、近くの病院まで歩いて行ったこともある。

 不幸体質を自称するのは、伊達ではない。

 自慢ではないが、怪我をして痛いのには慣れている。

 ただ、足が動かないのは別問題だ。

 腰か背中を強打したせいか、足に力が入らず、這うように歩くのが精一杯だ。

 今だって、自分がぶつかった木の後ろの茂みに、ようやく隠れた程度である。

 そして、やってきたのは、救援ではなかった。

 隠れたのは正しかったが、ここからどうするか。

「・・・・・・ま、やるしかねえな」

 手の中のレッドジャックの柄を握りしめ、モリヒトは動く。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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