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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第3章:迷いの森と白い怪人
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第24話:待ち伏せの策略

「放っておけねえ」

 ミケイルのその言葉に、サラは首を傾げた。

「何のことかしら?」

「あの、モリヒトってえ、男だ」

 にぎにぎと自分の右手を曲げ伸ばしする様を眺めつつ、ミケイルは言う。

「・・・・・・あれは、間違いなく、俺の天敵だ。放っておけねえ」

 ベリガルとの通信を終え、ミケイル達は今後の方策を練っていた時だ。

 大方の方針は、一回ちょっかいをかけての撤退。

 そこまでは、ベリガルと話している間に、ミケイル自身が出した結論だ。

 サラとしては、必要のないちょっかいだけに、ミケイルの気まぐれに付き合う徒労を感じていた。

 それが、身体を休めている合間に、いきなりミケイルは真剣そうな調子でつぶやいた。

 確かに、夕食を摂り終えた後、身体を休めている間も、なにがしか考え込んでいたとは思ったが、いきなり、こんなことを言い出した。

「・・・・・・仕留めに行く、ということ?」

 サラは、唐突な方針の変換に、ミケイルへと確認を取る。

「ああ。最低でも、動けなくする」

 はっきりと、ミケイルが意思表示をしたことに、サラは戸惑い、素直な気持ちを口に出す。 

「意外ね」

「あ?」

「貴方、戦闘好きじゃない」

「そうだが?」

「強敵になりそうな相手だっていうのに、あんまり嬉しそうじゃないわね」

「・・・・・・」

「それに、見る限り、あのモリヒトって男は、立ち回りが完全に素人。・・・・・・今は、そんなに強い相手でもない」

「まあな」

「天敵だとしても、今の彼を相手に戦闘が楽しめるはずもない。・・・・・・なぜ仕留めるというの?」

 あのモリヒトは、単体での戦闘能力は低い。

 軽くちょっかいをかけるだけなら、遠くから矢を射かけるだけでもいい。

 でも、仕留めるとなると、その難易度は跳ね上がる。

 モリヒトの周囲は、クリシャとテュールの巫女が固め、さらには森守や帝国軍にも護衛されている。

 おそらく、あの一団の中では一番仕留めるのに労力がいる。

 サラとしては、できれば、避けたいことだった。

「・・・・・・いやか?」

 ミケイルの問いに、サラは臆することなく首肯する。

「今、このタイミングで仕掛けるのは、ことの難易度を上げるだけ。いずれ仕留めるにしても、今じゃない方がいいわ」

「そうだよなあ・・・・・・」

 がしがし、とミケイルは自分の頭をかいた。

「何より、あの男が貴方の天敵だというのが、私には気にかかる」

「あ?」

「あの男が貴方を倒せなくても、近くにいるだけで貴方の戦闘能力を奪ってくる。その状態で、精霊姫やテュールの巫女なんかを相手にするのは、リスクが高すぎる。・・・・・・私は貴方の補佐だけど、護衛でもある。無駄な危険は犯してほしくないわ」

 サラの言うことを聞いて、ミケイルは、わずかに視線を逸らした。

「仕留める、というなら、この森から離れてからでも問題ないはず。それこそ、あの男がテュールに帰ってから、というのも手よ? 森の中より、街中の方が私は得意よ? いくら何でも、城に引きこもる、ということもないでしょうし、たとえそうだとしても、テュールの城なら忍び込む手段はいくらでもある」

「言ってることは、わかる。わかるんだよなあ」

 ミケイルとしても、わかってはいるのだろう。

 この森の中では、ミケイルは存在感を示しすぎた。

 警戒が厳しくなっている現状、襲撃はリスクにしかならない。

 仕留めることを目的とするなら、サラの言う通りにするのがいい。

 そこまでは、わかっている。

 だが、

「放っておくのが嫌だ」

「いやだって、子供みたいな・・・・・・」

 サラは、はあ、と呆れのため息を吐く。

「そんなことで・・・・・・」

「あいつは、嫌いだ」

「・・・・・・なぜ?」

 天敵、という相手なら、確かに嫌がるだろう。

 常人の感性なら。

 だが、ミケイルは、体質も影響しているだろうが、そもそもが戦闘好き。

 天敵、という存在は、むしろ望むところではないのか、とサラは疑問に思う。

「手ごわい相手よ? 貴方、そういう手合いを求めていなかった?」

「・・・・・・」

 ミケイルは、頭をかいている。

「なんだろうなあ? あいつは、俺が求めている強敵とは違う」

「どういうところが?」

「分からん。言葉にできん。とにかく嫌いだ。だから早めに仕留めたい」

「わがままな・・・・・・」

 はあ、と、サラは、もう一度ため息を吐いた。

「・・・・・・・・・・・・まあいいわ」

「お?」

「貴方のやりたいことを補佐するのが私の仕事だし」

「おお!」

 ミケイルも、自分が無理を言っている自覚はあったのだろう。

 サラが受け入れてくれたことで、嬉しそうな声を挙げた。

「よっしゃ! じゃあ、頼む」

「頼むって・・・・・・」

「仕留めるのは俺がやるからよ。あいつを引き離せねえかな?」

「一番難しいことを言うのね?」

「・・・・・・あー」

 顔をしかめたサラに、む、とミケイルはちょっと考えて。

「お、そうだ!」

 ぽん、と手を打った。

「何よ?」

「あいつらよ。どうやって山を下りると思う?」

「どうって、登ったところを下りてくるんじゃないの?」

 サラは言う。

 実際、今休息のために使っているこの場所も、麓に帝国軍が張った、調査機材を置かれたキャンプからそう離れてはいない。

「それよ」

 ぴ、とミケイルがサラを指さす。

「俺らがこの森に陣取ってから、山から森の中に滑り降りてる連中いたろ」

「・・・・・・ああ、いたわねえ」

「俺らが仕込みしてた場所から離れてる。モリヒトを安全に下ろすとすれば、そっち使うとは考えられねえか?」

「・・・・・・ふむ」

 言われてみれば、とサラは考える。

 あの登山道をそのまま降りてくるより、素早くおりてこれる上に、森の中を通る必要もなく、結果として、奇襲の可能性も減らせる。

「確かに。それはあるわね」

「降りてくるルートは分かってる。あっちは、俺達が今どこにいるかつかめてない上、俺達がもうこの森で何かをしようにも、小細工が品切れしてることに気づいてねえ」

「だとすると、あの領域を警戒するのは、当然よね」

「そこを避けるのは、ない話じゃねえってことだ」

 にや、とミケイルは笑った。

「見える位置を張ろう。あの仕組みだ。一人ずつしか滑り降りられねえ。一人になるから、吹っ飛ばせれば切り離せる」

「なるほど。成算は高い。・・・・・・ありね」

 サラも頷いた。

「だとするなら、移動しましょう。いつになるか分からないし、仕掛けるのに都合のいい場所を取らないと」

「おう」

 ふと、ミケイルはもう一つ、悪だくみを考えた。

「ついでだ。仕掛けをしておこう」

「? 小細工は品切れでしょ?」

「だが、何かをやっているように見せかけるだけなら、今ある材料だけで十分だ」

 そこらの枝を折って、多少の刻みを入れ、

「サラ、そこに落ちてる骨よこせ」

「はい」

 たまたまそこにいたので仕留め、食料にした獣。

 その骨を適度に飾り付けた後で、地面から土をほじくり返して、全体を包むようにする。

 最後に布を巻く。

「・・・・・・何? その不格好なたいまつ」

 サラが言った通りのものが出来上がっている。

「移動の準備は?」

「あとは、野営の痕跡消しね」

「じゃあ、それはそのままでいい。どっち行ったかだけ攪乱してくれ」

「ええ」

 たいまつもどきを地面に刺し、

「魔力を通す」

 しかし、何も起こらない。

「・・・・・・それで、何が変わるのよ」

「発動体でもなければ魔術具でもない。だが、この森の素材を集めて作ったものだ。魔力の保有量としては十分」

 それに、別の魔力を多量に注ぐとどうなるか。

「離れるぞ」

「ええ・・・・・・」

 二人は、その場を離れる。

「で? あれで何が起こるの?」

「魔力を多量に含んだ物質に、別性質の魔力を多量に注ぎ込むと、素材の内部で魔力が飽和して変質を起こす」

「ふむ」

「前にベリガルに教えてもらったんだけどな。魔力に敏感な敵をかく乱するために、そこらにあるものを集めて、魔力を注ぐと、一時的な身代わりにできるんだと」

「それは分かるけれど」

「ただ、もともとものに含まれている魔力と干渉すると、魔力は変質する」

「・・・・・・どういうこと?」

「で、その変質を起こした魔力は、明らかな異物となって、周囲に影響を誇示するようになる、とかなんとか」

 それが、囮として目立つ。

 ベリガルからは、注意事項として言い渡されていたものだ。

 ミケイルは、体質的に常時魔力を使用している状態のため、注意しておかないと、魔力の伝導性の高い物体に触れた際に、無意識的にでも魔力を流し込み、痕跡を残しかねない。

 その点に関しての注意事項として、魔力を制御することを言い含められていたのだ。

 今は、それを逆に利用する。

「ここに派手に残しておけば、絶対にやつらはここを調べに来る」

「・・・・・・ふむ」

 サラは一つ頷くと、そのたいまつもどきの周囲の地面を掘って、何かを仕込んだ。

「トラップか?」

「いいえ。しばらくしたら、ここの痕跡ごとまとめて爆破するように仕掛けただけ。タイミングによっては、トラップになるかもしれないけれど」

 ちょうどいい攪乱になるだろう。

「じゃあ、貴方は、先に移動しておいて。私は、逆方向に移動した痕跡を偽装してから行くから」

「分かった」


 そうして、逆方向へと目を引き付けた二人は、サラの狙撃によってモリヒトのぶら下がる紐を切断し、ミケイルが直接殴り飛ばして、モリヒトを森の中へと吹き飛ばしたのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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