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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
序章:女王召還
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第9話:ウェキアス、女神の種


 地下室に戻ったモリヒトとアヤカの二人は、適当に魔術を使って訓練を始めた。

「・・・・・・魔術でできないことってある?」

 ふと聞いてみた問いに、

「死者蘇生、とかですね。はい」

 ルイホウが答える。

「あと、魔術は基本的に、自分が知覚できない範囲には届きません。はい」

「見える範囲ってことか?」

 首を傾げると、

「いえ。聞こえる範囲でも、感じる範囲でも、とにかく五感の一つで知覚できているのなら、理論的には、そこに魔術を発動させることは可能です。はい」

 ふむ、と唸り、

「理論的には、ってことは、完全ではないわけだ」

「位置を完全に特定できなければ、発動は完全にはなりません。はい。つまり、見えないところに魔術を発動させることは可能ですが・・・・・・」

「それが、望んだ効果を生むかどうかは分からない、と」

「はい。はい」 

 二度頷くよなあ、と思いつつ、なら、と声を挙げて、

「魔術って、傷を治したりとかはできるのか?」

 回復魔術とか。

「できますが、そちらは特別な素質が必要です。はい」

「じゃあ、俺らには使えない?」

「アヤカ様には、才能あるみたいですよ? はい」

「俺にはないと」

 苦笑しながら、ルイホウは頷く。

「・・・・・・治癒魔術は通常の魔術とは違います。相手の体内に自分の魔力を送り込み、相手の魔力を同調させる必要がありますから。はい」

「ルイホウは?」

「使えます。というか、専門の一つですね。はい」

 得意分野ってことか。

「それってどの程度回復させられるんだ?」

「外傷なら、即死でない限りは、大体治せます。あくまでも理論上は、ですが。はい」

 凄いもんだな、と。

「毒の類は難しいですよ。こちらは専門の知識が必要です。はい」

「病気もかい?」

「病気を魔術で治すことは不可能です。状態を留めることはできますが。はい」

 病そのものを癒すことはできない、ということらしい。

「万能、というわけではない、と・・・・・・」

「そういうことです。はい」

 奥が深いなー、と。

「・・・・・・身体能力の強化とかは?」

「可能ですよ? 普通の魔術を同じ感じで。はい」

 やってみるか。

 短剣を構える。

「あ・・・・・・」

「―ブレイス―

 力よ/強くあれ/地を這う足に神速を」

 走り出す。

「わーーーーー!!」

 一歩の飛距離は異常に跳んだ。

 そして、すさまじい速度ですっ転んだ。

 ごんごがん、どごん、と数回転して、壁にぶつかり止まる。

「・・・・・・し、死ぬ・・・・・・」

「だ、大丈夫ですか?! はい」

 慌てて駆け寄ってきたルイホウが、杖をこちらに向けた。

「―サロウヘイヴ・メイデン―

 癒しよ/内なる力と同調せよ/あるべき姿を取り戻せ」

 杖の先端から溢れる光がモリヒトの体を包む。

 しばらくして、モリヒトは立ち上がった。

「痛かった・・・・・・」

「骨が何本か折れてましたよ? というか、やる前に私の話を聞いてください。はい」

「・・・・・・何?」

 手を借りて立ち上がる。

 アヤカのところまで戻る。

「・・・・・・大丈夫ですか?」

「すごく痛かった」

「すごい勢いでした」

 うんうん、とアヤカが頷いている。

 さすがに驚いたのか、いつもの平坦な表情だが、目が少し大きく開かれている。

 ちょっと可愛いと思った。

「強化魔術は、まず自分の体を強化することから始めます。強化された身体能力で、体が壊れないようにするために。はい」

 ルイホウはモリヒトを見て、呆れたようにため息をつく。

「モリヒト様は、何というか向こう見ずなところがありますよね。はい」

「もしくは、人の話を聞かないか、です」

 アヤカが頷く。

「・・・・・・そういえばさ」

「はい」

 モリヒトは、思い出したことを語る。

「初めてこの世界に来た時、ユキオがすごい勢いで熊をぶっ飛ばしてたけど。強化魔術を使ったようには見えなかった。・・・・・・アヤカ。ユキオって熊に勝てる? 素手で」

「いくら姉さまでも、そこまで化け物じゃないです」

 アヤカが言うなら、そうなのだろうが。

「・・・・・・ん~」

 唸っていると、ルイホウが説明してくれた。

「ユキオ様は、左腕に飾りを付けておられましたよね? はい」

「ん?」

「・・・・・・昔、わたしが誕生祝いにプレゼントしたものです。それが何か?」

 アヤカが首を傾げる。

「ちょっと不思議に思ったので、調べてみました。はい」

 ルイホウが訓練室の壁を押した。

「・・・・・・何でそんなところに隠し棚が・・・・・・」

 くるりと一回転して出てきたのは、本が並べられた書架である。

「魔術は自由なイメージの産物ではありますが、物理現象などを勉強しておくと、イメージをより強固なものにできますから。はい。そういう勉強のために、本が置いてあるんですよ。はい」

 その中から一冊を抜き出し、杖の先端を当てる。

「―サロウヘイヴ・メイデン―

 光よ/知識を披露せよ」

 スライドのように、空中に白い光の板が映る。

「・・・・・・おおー。本のページの内容か」

 そこに書かれた図を見て、

「・・・・・・種?」

「女神の種。ウェキアスです。はい」

「何だそりゃ・・・・・・」

 首を傾げる。

「特殊な物質で、外見は名前の通り、種の形をしていますね。はい。私達が確認している内では、最上級の魔術具です。はい」

 ページをめくる。

「自分が持つ道具にウェキアスを埋め込むことで、所有者専用にして、所有者に最も適した道具に変わるわけです。いろいろと特別なものですが、ユキオ様の左腕の数珠は、どうやらウェキアスのようなんですよね。はい」

「・・・・・・アヤカ。知ってた?」

「全然・・・・・・。知りませんでした」

 アヤカが少し呆然としている。

「おそらく、こちら側へ召還される際に、ユキオ様にとって最も思い入れのある道具であるところのあの数珠に、ウェキアスが融合したんだと思われます。はい」

「ウェキアス、ってどんな効果を持ってるんだ?」

 ページの内容を読んでも、ちょっとピンとこない。

「所有者が死ぬまで壊れなくなります。発動体としての力を得ますし、何かしらの特殊能力を発動するようになります。はい」

「その、特殊能力で、ユキオは熊を素手でぶっとばした、と」

 すごいな、ウェキアス。

「・・・・・・こういうのって、どこかで作ってるのか?」

「そういうのは、運命としか言えませんね。はい」

 ん、と首を傾げると、

「どうやって手に入れるのかは、分からないんです。はい。ただ、いつの間にか、手元にあるという感じで。・・・・・・ユキオ様のように、いつの間にかウェキアスに変化していた、という事例も幾つかあります。はい」

「入手方法も、製造方法も分からない、ってわけだ」

「その通りです。はい」

 ルイホウはそう言う。

「おもしろいなー、この世界」

「ですね」

 魔術とそれに類する性質。

「・・・・・・ん? 何で女神の種?」

「ウェキアスに宿る力は、女神の力なのです。それ以外にも理由はありますけど。はい」

「・・・・・・女神、ねえ・・・・・・」

 唸る。

「まあいいや。手に入れられねえなら、興味ない」

 そういうことにしておく。

「・・・・・・しかし、知れば知るほど、面白い使い方が浮かぶなあ」

「この国は、これでも魔術研究は進んでいる方です。隣のオルクト魔帝国と技術提携もしていますから。はい。・・・・・・まあ、オルクト魔帝国の方はさらに進んでいますけど。はい」

 ふーん、と顎に手を当て考える。

「・・・・・・そうだな。それも面白そうだ」

 くく、と笑う。

「そのうち、行ってみるかね」


** ++ **


 一週間後。

 女王の執務室。

「・・・・・・何だその子?」

 モリヒトが訪ねた時、ユキオは小さい女の子の世話をしていた。

 十代に届かないだろう、小学生ぐらいの女の子だ。

 翡翠色の髪と目をした女の子。ユキオがつけていた数珠と同じ色である。

「・・・・・・アートリア、ですか? はい」

「そうらしいの」

 ルイホウの疑問に、ユキオは頷く。

「・・・・・・アートリア?」

「ウェキアスが女神の種と呼ばれる理由です。はい。ウェキアスは、それぞれが固有の女性の姿に変化するんですよ。はい」

「付喪神みたいなもんか」

 納得。

「・・・・・・名前は?」

「タマ」

「猫みたいだな・・・・・・」

 ユキオの答えに、モリヒトはタマを見た。

「・・・・・・」

 ユキオの後ろに隠れた。

「普通の子供みたいだな・・・・・・」

「でも可愛いよね」

 ぎゅー、とユキオはタマを抱きしめる。

「・・・・・・八重玉遊纏やえだまゆてんて言う名前らしいの。だからタマ」

「・・・・・・・・・・・・単純な」

 やっとそれだけ絞り出す。

「いえ。アートリアの名前は、所有者が決められる名前ではありませんよ? はい」

「うん。タマも、自分でタマって言ったもんね?」

 ぎゅ、と抱きしめた上でその頭を撫でくり回す。

「・・・・・・おもちゃにすんなよ?」

「可愛がるよ。第二の妹さ!」

 すごくうれしそうだ。

「しかし、ウェキアスって本当に不思議な物体だな」

「アートリアの名前は、発動体として使用する際の『発動鍵語』になります。はい」

 ルイホウが補足説明を入れた。

 モリヒトはタマを見る。

 翡翠色の髪を数珠のような髪留めで束ね、耳や腕、首にも数珠のようなアクセサリを付けている。珠の一つ一つの珠が大きいので、どうにも目立つ。

「・・・・・・」

 じー、とモリヒトを見つめる目は、観察する風だ。

「タマか。・・・・・・俺はモリヒト。よろしく」

 膝を曲げて目線を合わせ、手を差し出すと、

「・・・・・・う」

 ちょ、と差し出された手が、小さく指先をつまんだ。

「・・・・・・」

 なるほど、すごい癒される。

「ああもう、かわいいなあ!!」

 いつのまにか、タマを抱きしめる仲間にアヤカが加わっている。

「・・・・・・いつの間に」

「アヤカとユキオは、感性がそっくりなのよね・・・・・・」

 アトリがため息をつく。

「アトリはそこまでじゃないんだ」

「まあ、さすがにあれを見ていると、ね」

 苦笑している。

「・・・・・・アートリア、ってのは、皆あんな風に幼いのか?」

「いえ、そうでもないですよ。はい。・・・・・・アートリアは所有者の格に応じて成長しますから、今タマ様の姿が幼いのは、ユキオ様がウェキアスを使いこなせていないからです。はい」

「そうなの? じゃあ、私が使いこなせるようになったら、タマはもっと大きくなるの?」

 ユキオは首を傾げる。

「そうですね。大体、アヤカ様と同じか、それより少し幼いぐらいが平均です。タマ様は少し幼すぎますね。はい」

「そっかあ。ウェキアスの使い方も、勉強が必要ね」

「そっちはゆっくりでいいだろ。どうせ、時間はあるんだ」

「そうだね」

 ユキオは頷き、タマを伴って執務室の椅子に座る。

 タマは膝の上だ。

「さあて、今日も頑張ろうかな!」

 やる気に満ち満ちていた。

「まあ、やる気は大事だな。うん」

 膝の上に乗せておいたら邪魔になるだろ、とは言わないでおく。

「・・・・・・しかし」

 ユキオの膝の上のタマを見つめる。

 大きくなれば、確実に美人になるだろう顔立ち。

「・・・・・・女神、ね・・・・・・」

 知りたいことが増えていく。

 


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