序章:プロローグ
暗く影に沈む石室がある。
石室を照らすのは、ゆらゆらと揺れるろうそくの明かりだ。
壁際だけでなく、部屋の中央付近や、端に近い部分などに、燭台を使って立てられたろうそくには、何らかの規則性のある並びが見て取れる。
燭台の影となって視認しづらいが、床や壁、天井などにも、さまざまな色の塗料によって幾何学的な図形と、さまざまな言語のような印の並びがある。
その部屋の中、朗々と響くのは祈りの歌だ。
主たる王の帰還を祈る声。
複数の人間の唱和するその声は、複雑な響きを伴って、石室の中を満たす。
その歌を紡ぐ者たちは石室の中央付近にいたが、壁際などには、他にも多くの者のいる気配がある。
その石室の中の空気の流れが変わったのは、始まりから何時間も経った頃だった。
渦を逆戻しにするように、中央から端に向かって空気が流れていく。
その中央には、小さな黒い一点があり、それが少しずつ大きくなっていく。
黒い穴。
それが空中に浮いている。
そして、
「―‐‐――・・・・・・!!」
響く歌が大きくなる。
やがて、黒が白へと変わり、石室を光が満たした。
「・・・・・・」
多くの人間の、緊迫した空気。
息を呑む声。
期待と、不安の入り混じった雰囲気。
そして、光が収まった時、石室の中央には、三人の男女がいた。
一人の少年と、二人の少女。
ばらばらに石室の床に横たわり、気絶でもしているのか、目は閉じている。
「・・・・・・さて」
石室の中の一人が声を上げた。
「どうだ?」
「・・・・・・」
倒れた男女に近づく影がある。
それはフードを被った小柄な影だ。
その人は、三人をそれぞれに覗き込み、
「・・・・・・」
静かに首を振った。
「この方々は、全員、守護者です。・・・・・・王は、この中にはおられません」
その言葉に、石室の中を落胆の空気が満たす。
「・・・・・・ですが、召還時、確かに王の気配を感じました。この世界に到達しているのは、確かだと思われます」
「では、どこにいると?」
「・・・・・・おそらくは、北。ここからそう遠くはないでしょう」
「では、すぐに捜索部隊を出さねば」
やがてにわかに騒がしくなった石室から、三人の男女は運び出された。
「・・・・・・彼らは同じ部屋に。目を覚ましたら、説明を行います」
フードの影はそう言って、
「・・・・・・どうか、王よ。・・・・・・御帰還を、お祈り申し上げます」
そう、祈った。