無能と罵られパーティーを追放された支援術士、実は最凶スキルの使い手だった! 今さら気づいたって何もかもがもう遅すぎますよ……
■あるギルド職員
昨日、一つのパーティーが全滅したという報告がギルドに届いた。
現在この王都にある冒険者ギルドに登録されている中で、もっとも高い評価を得ていたSランクパーティーだった。
いったいどんな高難度クエストに挑み失敗したのかと思いきや、なんてことのない、本来ならBランク上位のパーティーが受けるような魔物討伐だった。
なんてことのない、とは言ったものの、それはあくまでAランクやSランクにとってであり、ギルドに所属する大多数のBランク以下パーティーにとっては充分な脅威ではある。
世の中に絶対なんてない。どんな強者でも想定外の不運が重なったり、慢心から足下を掬われ失敗するということもあるだろう。
けれど報告を聞いた私が抱いたのは、『まさか』という思いが三割、残りの七割では『ああ、やっぱりこうなってしまったのか』と極めて冷静に受け止めてしまっていた。
理由は、ここ二年間の独自調査に基づくある仮説。
その仮説から、私は彼らの破滅をある程度予測出来ていた。
何度も忠告は試みたのだ。
ギルド職員として優秀な冒険者が奈落へ堕ちていくのを黙って見過ごすわけにもいかなかった。
けれど無駄だった。
彼らは私の忠告に対し『心配性ですね』『大丈夫ですよ』『油断なんてしませんから』と、特に増長するでもなく真摯に答えた。
その反応も予想は出来ていた。
彼らは真面目な冒険者だった。力をつけたからと言って調子に乗ってしくじる類の不誠実な冒険者ではなかった。
彼らに落ち度なんてなかった。
そう、なかったのだ。
悪いのはむしろ、ギルド職員の権限で無理にでも止められなかった私かも知れない。
けれど言い訳させてもらうなら、説明だってしたのだ。
確証は無かった。所詮は仮説に過ぎなかった。でも普段通りの彼らなら、ギルド職員の不確かな仮説でも耳を傾けてくれたはずだった。
無駄だった。
皮肉にも彼らの反応が私の仮説の正しさをまた一つ証明してくれた。
そんな証明、してくれなくてよかったのに。
全ての始まりは二年前。
あの時も、一つのSランクパーティーが全滅した。
リーダーだった剣士を始め、治癒士も、槍使いも、魔道士も、いずれも新進気鋭の実力者だった。
実力者として認知されていた。
なのに治癒士の少女を残して他のメンバーは三人とも死亡。
彼女も重傷を負い、冒険者としての復帰はほぼ絶望的だとして引退した。
彼らは全滅する一ヶ月程前に、メンバーを一人パーティーから追放していた。
治癒士とは同じ街出身の幼馴染みで、恋人であったという一人の支援術士。
けれど彼は他の四人と比べ実力的にかなり劣っていたとのことで、特にSランクに昇級後は仲間達から大分蔑まれていたようだ。
それは幼馴染みの恋人も同様で、彼女は支援術士を見限ると追放劇の直前からリーダーの剣士と新たにつき合い始めたのだという。
どこにでもある話。
よくある話。
こんな話をいちいち気に止めていたら冒険者もギルド職員もやっていられない。
私も最初は気にもしていなかった。
彼らが壊滅したのは運が悪かったか、彼ら自身の油断が招いたことと、そう思っていた。
一年後、新たにSランクに昇級したパーティーが全滅し、そこでも件の支援術士の彼――ポビー・イオマが二週間程前に追放されたばかりだったと知るまでは。
恋人を奪われ、最初のパーティーを追放されたポビーは、Sランクに所属していたという経歴のおかげか比較的簡単に別のパーティーに拾われていた。
当時まだBランクだったそのパーティーは、最初の頃はポビーの支援魔術を非常に高度なものとしてありがたがり、彼を歓迎したらしい。
なのに半年も経つと、前パーティーと同じくポビーを軽んじ、蔑み、厭い始めた。
一方で難易度の高いクエストを幾つも成功させ、ポビーが所属している間にSランクへの昇級を果たしている。
気になって調べてみると、最初のパーティーもポビーが加入するまでは長いこと鳴かず飛ばずでC~Bランクの間を行ったり来たりしていたようだ。
そして二つ目のパーティーもポビーを追放し、彼が再び間を置かずして新しいパーティーに加入した頃、……最初のパーティーと似たような運命を辿った。
そこまではまだ、まだ偶然とも考えられる。
ポビーは高い能力を持った支援術士でパーティーの底上げには貢献したものの性格や素行に問題があり立て続けに放逐されたのではないかという見方もあった。
Sランクパーティーでなかったなら、私もさして気にしなかったのではないかと思う。
捨て置くには、やはりSランクが連続してというのは大きすぎた。
二つ目のパーティーが全滅した時点で、私は既にポビーに注目し、彼の経歴や人格などの調査を開始していた。
けれど集めた資料に目を通した限りはまるで問題が見受けられなかった。
支援術士としての腕も上々、性格はやや暗めで社交性に欠けるとの人物評だったがそれだけなら魔術士にはさして珍しくもない。冒険者であっても魔術士は魔法の腕を磨くために自身の内面と向き合う必要があるせいか内向的で気難しい、要は偏屈が多いのだ。
そして、彼を知るほぼ全ての人間が口を揃えて証言した。
『ポビー・イオマは並外れて謙虚、と言うより自己評価が極めて低い』
ギルド職員として言わせて貰うなら、仮にもSランクパーティーに所属していた人間が『自己評価が極めて低い』というのは少々、どころかかなりいただけない。
謙虚なのは無論悪ではない。
いくら腕が立っても増上慢は足下を掬われやすい。ミスも増えるし、周囲からも嫌われる。
けれどそれはあくまで自己の能力を正しく評価、認識した上での、人柄としての謙虚さだ。自己評価が低い=自己の能力を正確に把握出来ていない冒険者というのは、能力の高低に関係なく厄介な存在になりがちだ。
誰かと組んで、パーティーとして行動する上では容易に害悪となり得る。
おそらくポビーは、己の能力を自身で正しく認識出来ていなかった。
本来の性格に魔術士にありがちな内向的性情も加わり、『自分なんてまだまだ』『このくらい誰にだって出来る』『こんなの普通だよ』とへりくだる。
彼があまりにも卑屈すぎて、いつしか仲間達も彼をそのように扱うようになり、追放した……
――果たして、本当にそれだけだろうか?
仮にもSランクにまで昇り詰めた冒険者達が、みんながみんなポビーを正当に評価しなかったとは考えづらい。
だからこそ私はある仮説を立てざるを得なかった。
けれど確証を持つにはピースが足りない。
となるとやはり当事者に直接訊いてみるのが一番だろう。
ポビーの所属していた最初のSランクパーティーで唯一の生き残り。そして……彼の幼馴染みであり、かつての恋人。
ヒカル・ツラギに、面会を求めてみた。
■ヒカル・ツラギ
わたしが幼馴染みのポビーのことをいつから異性として好きだったのか、よく覚えてはいません。
何しろ物心つく前からずっと一緒にいたわけで。
恋とか愛とか全然意識していなかった頃でも好意自体はあったのですから、その感情が恋愛的に変化したのが明確にどのタイミングだったのかなんて思い出しようがないです。
ポビーは、昔から自分に自信を持てない人でした。
彼にはお兄さんとお姉さんがいるのですが、二人ともとても優秀な方で、地元では神童と呼び囃されていました。
一方でポビーは、魔力が高く魔術士としての才能の片鱗は伺わせていたものの勉学や運動に関しては至って普通で、神童二人と比べれば“劣った弟”、口さがない人達からは“絞りカス”だなんて、酷い言われようでした。
おじさんもおばさんも、お兄さんとお姉さんだって、ポビーを差別したりはしませんでした。周囲に何と言われようとも気にせず、家族としてごく普通に接していました。
でも、それが逆に彼には辛かったのかも知れません。
兄や姉が当たり前に出来ることが出来ない、なのに両親は分け隔てなく接してくれる、その申し訳のなさ、情けなさみたいなものが、きっとポビーの中に卑屈さを醸成してしまったのだろうなと、今ではそう思います。
とは言え、彼は常に自信のない後ろ暗さはあっても、根っこの性情はとても真面目で、ひたむきで、そして優しい人でした。
わたしは何度も彼の優しさに救われてきました。
劇的な思い出なんてありません。
ちょっとした失敗で親に叱られた時に慰めてくれたとか、飼っていた犬が死んでしまった時一晩中傍にいてくれたとか、お祖母ちゃんの形見の髪飾りを落としてしまった時に必死になって探してくれたとか……
ありふれた、でも掛け替えのない、そんな恋です。
……はい。
わたしは、今でも彼のことが好きです。
大好きです。
愛しています。
この気持ちに嘘偽りなんてありません。
だから、わからないんです。
どうしてあの時リーダーに惹かれてしまったのか、恋人であるポビーを疎ましく感じてしまったのか、裏切ってしまったのか。
言い訳じみて聞こえるかも知れませんが、記憶に靄がかかったみたいで、当時の感情がよく思い出せないんです。
小さい頃から兄姉と比較され続けてきたポビーは、早くに家を出たがっていました。
彼に支援術士としての、わたしに治癒士としての才能があることがわかってからは二人で養成所に通って、やがて一緒に冒険者になりました。
当時既に交際していたわたし達はしばらくの間はペアで活動していました。
ポビーの支援魔法はかなり強力で、肉体強化とわたしの治癒魔法があればレベルの低いモンスターが相手なら後衛二人というバランスの悪いペアであっても問題なく倒せましたし、支援役の足りないパーティーに助っ人として呼ばれることもままありました。
そのうちにランクも上がってきて、これ以上はペアでやるよりもどこかのパーティーに正式に加入した方が良さそうだと二人で話し合って決めて、その結果、丁度回復と支援を兼任していた方が冒険者を引退してしまいメンバーを募集していた当時Bランクだったパーティーへと加入しました。
リーダーで剣士のゴウさん。
槍使いのシンさん。
魔道士のミミカさん。
三人とも困っている人がいると捨て置けずにクエストそっちのけで人助けに走ってしまうような、冒険者としてはちょっとお人好しすぎるくらいで、でもそんなところがとても居心地の良いパーティーでした。
この頃からポビーの支援術士としての才能は益々開花していきました。
元々、彼には兄姉に負けないだけの才能が備わっていたんです。ただ、地元での生活ではそれがわからなかったというだけで、わたしはこれでようやく彼も自信をつけてくれるに違いないと胸を撫で下ろしていました。
彼の支援魔法の恩恵もあってパーティーの活動も順調で、仲間達から認められることでポビーの笑顔は故郷にいた頃よりも着実に増えていったんです。
そんな、ある日のことでした。
クエストの途中、わたし達はモンスターの奇襲を受けて窮地に立たされていました。
陣形を崩されての乱戦で、後衛のわたしとポビー、ミミカさんもモンスターと直接相対せねばならず、ついにわたしは膝を突いてしまい、まさに絶体絶命でした。
わたしを庇おうとポビーが飛び出したのが見えましたが、それよりも先に、寸でのところでリーダーのゴウさんが間に合ってくれて、わたしは九死に一生を得ました。
それからです。
全てがおかしくなっていったのは。
ポビーは後衛の支援術士で、ゴウさんは前衛剣士。
二人の防御力には言うまでもなくかなりの差があります。
あそこでゴウさんが間に合わなかったら、庇ってくれたポビーとわたしは二人一緒に死んでいたかも知れません。
第一、パーティーを組んでいるわけですからそれぞれの役割を果たすという意味合いにおいてゴウさんがわたしを庇ってくれたのは当然のことです。
でも、ポビーは男として、恋人として、わたしの窮地に間に合わなかったことに随分と打ちのめされていました。
せっかく芽生え始めた自信も砕けて、以前よりも一層卑屈な面を覗かせるようになってしまいました。
ある時、彼は言いました。
『僕なんかより、リーダーの方が君に相応しいんじゃないか』って。
とても、悲しかった。
……悲しかったのは、よく覚えているんです。
でも彼のこの言葉を聞いた時くらいから、記憶に靄がかかり出すんです。
ポビーの支援魔法はさらに強力になっていきました。
それまでは結構長めの詠唱が必要だったのに、ただ『○○を強化』と口にするだけで以前の数倍の効果を発揮するようになりました。
パーティーは実力以上の活躍を見せ、ランクも昇級しました。
なのに、いったいどうしてか、反比例してメンバーがポビーを見る目は次第に冷めたものになっていきました。
ポビーが『僕なんて大したことありません、こんなの普通です』と謙遜する度に『そんなことはない、君の支援魔法のおかげで俺達は安心して戦えているんだ』と言っていたシンさんが、彼を『支援しか能のない役立たず』とこき下ろすようになりました。
『僕の支援魔法なんかよりミミカさんの攻撃魔法の方がよっぽど凄いです』と言うポビーに『ううん、直接モンスターにダメージを与えられなくても、パーティー全員を強化してくれるポビーくんの方が全然凄いよ!』と微笑んでいたミミカさんが、『簡単な攻撃魔法の一つも使えない雑魚』と彼を嘲るようになりました。
ランクの昇級に伴いクエストの難易度が上がっていくのに連れて『みんなはとても強くて立派だ。それに比べて僕は……』『やっぱり僕じゃヒカルを守れない』と落ち込むポビーに、『ああ、まったくだ。お前みたいな能無しは彼女に相応しくない』と告げたゴウさんの顔は醜く歪んでいて、……ああ、それなのに、いったいどうしてなのか、わたしまで一緒になって『ええ、そうね。わたしも目が醒めたわ。ポビーみたいに無能な役立たず、もうどうでもいい。ゴウさんの方が全然ステキだもの』なんて酷いことを言って、わざわざポビーに見せつけるようにして、ゴウさんと――
Sランクに昇級してからしばらくして、わたし達はポビーを追放しました。
やっと厄介者が消えてくれた、清々する、と散々な言い様でした。
挙げ句の果てに、『足手まといがいなくなったから、今まで以上に活躍出来るはずだ』なんて……
ポビーを追放してから、クエストは失敗続きでした。
おかしいと感じる自分達がおかしかったんです。
ポビーの支援がなければ当時のわたし達の地力なんてBランクの真ん中くらいが精々でした。SランクどころかAランク向けのクエストだって成功するわけがない。
記憶も思考もグチャグチャで、混迷と惑乱、焦燥に駆られて受けた最後のクエストの内容が何だったのか、よく覚えていません。
マンティコアの討伐?
……ああ、そう言われると、なんとなく、ゴウさんがマンティコアに喰い千切られていく姿が、ぼんやりと思い浮かぶような気は、します。
そう、ですね。
段々と思い出してきました。
最期のゴウさんは、どうしてこうなったのかわからないとでも言いたげな、ぽかんとした顔をしていました。
シンさんもミミカさんも同様です。
本当に、心の底から意味不明といった感じでした。
わたしは、見ての通り左眼と左脚を失いましたが、生き残ってしまいました。
ポビーの支援魔法で強化増幅された治癒魔法なら治せたかも知れませんけど、今さらですね。
それでも死んでしまった三人よりはよっぽどマシでしょうけど。
記憶の靄が晴れてはっきりしだすのはこの辺りからです。
わたしはポビーを裏切って、結果としてたくさんのものを失ってしまった。
この痕が何よりの証拠のはずなのに、やっぱり記憶は判然としません。
あの時のわたし達は、いったいどうなっていたんでしょう。
わからなくては謝罪もままなりません。
ポビーに謝りたいのに、何をどう謝ればいいのかさえよくわからないんです。
ポビーが好きです。
彼に逢いたいんです。
だからそのためにも、わかるのなら教えてください。
あの時のわたし達の身に、いったい何が起きていたんですか?
■あるギルド職員
ヒカル・ツラギと、他にもポビー・イオマを知る複数の冒険者の証言から、私は自分の仮設にある程度の確信を得た。
まず、ポビーの能力。
彼は支援術士で、支援魔法の才能があった――そこは間違いない。けれどそれは、もっと大きな才能の、おそらくは副次的なものに過ぎなかった。
“呪言魔法”
言霊とも呼ばれるそれは、詠唱によって特定の効力を発揮するのではなく魔力を宿した言葉がそのまま効果を発揮するというもの。
歴史上数人しか使い手が確認されていないと言われる、あまりにも凶悪な伝説上のレアスキル。
ギルドにも記録が少なすぎるため大分憶測混じりにはなってしまうけれど、ポビー・イオマは呪言魔法の、殊に精神や肉体に影響を与える方面に特化した術士だったのではないか、というのが私の立てた仮説だ。
しかも、彼自身がそのことに気づいていない。
まったく無意識の内に言葉に魔力を込めて意味を持たせてしまった、それが図らずも三つのパーティーをSランクへと押し上げ、やがて破滅へ導いたのではないか、と。
証言を求めたほぼ全ての人が、ポビーは自己評価の低い、自分に自信の無い人間だと述べていた。
優秀な兄姉と一緒に育った彼は、幼い頃から自分で自分に『大したことがない』『兄姉と比べて無能だ』『全然駄目だ』と呪言をかけて無意識の内に能力に蓋をしていたのではないだろうか。
それが、いざという時に恋人を守れなかった後悔と自責、無力感によって一気に吹き出してしまい、仲間達を持ち上げる言葉でパーティーの能力を強化していくのと同時に、謙遜と言う名の自虐的発言によって彼らに『ポビーは無能である』という意識をも植え付けていった。
それが三度に渡る追放劇の真相、だとしたら……
もっとも悲惨なのは、ヒカルだろう。
彼女は心変わりなんてしていなかった。
少なくとも、私が直接面談した限りでは彼女は今もポビーを深く愛しているように見えた。
なのにポビーの『自分よりもリーダーの方が相応しい』という呪言によって好意をねじ曲げられ、いわばポビーによってポビーを裏切ってしまった。
彼女は真実を知りたがっていた。
真実を知った上でポビーに謝罪したいと泣いていた。
私のこの仮説が正しかったとして、彼女に告げるべきなのかどうか、私にはわからない。
でもポビーには伝えなければならないだろう。
これ以上彼による被害者を出さないためにも。
■■■
ポビー・イオマが意識不明の状態で発見されたのは、奇しくも私が調査内容をまとめて彼に対する出頭をギルド本部へ要請したその日のことだった。
遅かった。
何もかもが、もう遅かったのだ。
外傷は一切見当たらなかった。
意識だけが、どんな治癒魔法を使っても戻らなかった。
前日の夜、酒場で浴びるように酒を飲みながら、ポビーは嘆いていたそうだ。
『僕と一緒にいたせいで、みんな不幸になってしまった! 僕が彼らを不幸にした! 傷つけ、死なせてしまった! 僕なんて、いなくなってしまえばいいんだ!!』
ポビーの言葉は、おそらく呪言となって彼自身を蝕んだのだろう。
使い手本人を死に至らしめるまではいかずとも、意識を消し去ってしまった。
結局、私の仮説は立証不可能ということで仮説のまま、植物状態のポビーは実家に引き取られていった。
彼の面倒はヒカルが『自分に看させて欲しい』と言って譲らなかったらしい。
彼女自身不自由な身体であるというのに、どうしても、と。
三つのSランクパーティーが失われた事件はこうして幕を下ろした。
ポビー・イオマは決して悪い人間ではなかった。
彼を招き入れたパーティーの仲間達も、皆善良な冒険者だった。
今回の事件を教訓として残す上で大切なのは、誰も悪くなくとも不幸は起こり得るということだ。
それでも敢えて何が悪かったかと言えば、ポビーが冒険者という道を選んでしまったことだろう。
直接命に関わる職業で、自分に自信が持てない、そのせいで自己の能力の多寡を正しく認識出来ないというのであれば本人がどれだけ善良であっても悪たり得るのだ。
『こんなこと誰だって出来るでしょう?』
『こんなの普通だと思いますけど……』
『自分なんて全然ですよ』
『あれ? またなんかやっちゃいました?』
もしも仲間を募集中にギルドや酒場でこういった発言をしている冒険者を見かけたなら、どれだけ善良そうな相手であったとしてもパーティーを組むべきかどうかもう一度じっくりと考えてみて欲しい。
不幸な事故を防ぐためにも。
一ギルド職員として、私はそう願わずにはいられない。