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プリン  作者: 羽村奈留
3/3

第3話

 妹がプリンを食べたあとに蓋を閉じた可能性もあるが、妹の証言を信用したとすれば、妹が中学校から帰ってくる前に、誰かがプリンを全部食べた事になる。

 妹の次に怪しいのは母親だ。なぜなら、専業主婦の母親が一番冷蔵庫を開ける回数が多いからだ。

 友則は、また母親がいる居間へ行った。

「お袋。プリンが入っていた箱なんだけど、お袋が冷蔵庫を開けた時、箱の蓋はどうなっていた?」

「箱の事なんて、いちいち覚えてないわよ。友則! たかがプリンの事で騒がないの。いい加減にしないさい!」

 韓流ドラマに夢中になっていた母親は、再度友則に邪魔をされて、ついに怒った。

「あんたね。プリン。プリンって騒ぐけど、宿題はやったの? 誰が高校の学費を出していると思ってるの?」

 なくなったプリンの事で騒いでいた友則は、当然宿題をやっていない。友則は、母親の更なる怒りが見えるようで、返事ができず、黙って居間をあとにした。

 誰がプリンを食べたのだろうか。一番怪しいのは、声を掛けてすぐに「知らない」と答えた妹。二番目に怪しいのは、宿題や学費を理由にプリンの話を遮った母親。父親が残っているが、父親は甘いものをあまり食べないため、プリンを全部食べたと考えるのは無理がある。

 結局、どうする事もできなくなた友則は、最後の手段、冷蔵庫に貼紙をした。


『もう騒いだり怒ったりしないので、プリンを1つ以上食べた人は、正直に俺に言って下さい。友則より』


 その後、友則は二階にある自分の部屋へ行った。宿題をするためである。

 失意の友則が宿題をしている間に、父親が帰って来た。

 母親は、友則が騒いだプリン事件の経緯を父親に話した。

 話を聞いた父親は冷蔵庫の前に立った。

「それで、冷蔵庫にこの貼紙があるのか」

「そうなのよ。たかがプリンくらいの事で、こんな貼紙までして、みっともない」

 台所で夕食の準備をしている母親は、不機嫌な声で父親に言う。

 父親は、風呂に入る準備をするためにネクタイを外しながら冷蔵庫の貼紙を眺めていた。

「そういえば、プリンがあったんだったな」

「そうなのよ。私も、友則が騒ぐまで、プリンの事は、すっかり忘れていて」

「で。誰がプリンを全部食べたんだ?」

「私も知らないのよ」

「そうか」

 父親は、外したネクタイを手に持って、風呂場へ行った。

 今夜は、6人揃っての夕食だった。

 父親は風呂上りのあとのビールを飲んで上機嫌になっている。祖父母は、マイペースに入れ歯を動かしながら食事を摂っている。母と妹はお笑い番組を見ながら一緒に笑っている。友則だけが物静かに食べていた。

 誰もプリンの話をしない。冷蔵庫には今も友則が書いた貼紙がしてある。

 夕食が終わってからも、貼紙はそのまま冷蔵のドアについていた。

 結局、プリンを1つ以上食べた者は名乗りを上げなかった。

 友則は、歯磨きをしながら貼紙を見て考える。よく考えれば、自分以外全員が怪しいのではないかと。

 いろいろと思案しながら冷蔵庫の前で歯磨きをしている友則を、母親は物陰から静かに見守っていた。

 翌朝。友則は冷蔵庫を開けてから仰天した。

 なんと! プリンが10個、箱の中にあるのだ。

「お袋。プリンが10個ある。なんでだ?」

「あら、ホントだわ。なんでかしら」

 母親は、朝食用のだし巻き卵を焼きながら言う。

 友則は、突如現れたプリンを呆然と見るしかない。

 プリンは、なぜ全部なくなり、翌朝、友則が食べたはずのプリンまで復活していたのか!?

 友則は、またもや復活したプリンの事で大騒ぎをしたが、謎は未だに解明されていない。

 社会人になった友則は今も思い出す。

 最初に食べたプリンの味と、復活したプリンの味が同じだったのを。

 家族の誰かが作ったとしても、おみやげと同じプリンの味を再現するのは不可能ではないか。

 もし味の再現が可能だったとしても、家族の誰が北海道産のプリンと同じものを作ったのか。

 それも未だに謎である。


 さあ、読者の諸君。このトリックと犯人が分かるかな?

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