第2話
友則は、中味の無いプリンの容器を見て言った。
「じいちゃん。ばあちゃん。プリン、食べたんだ。おいしかった?」
祖父と祖母は、同時に顔を友則に向けた。
祖父は顎を下げて老眼鏡のレンズの上から眼を出して友則を見ながら言った。
「ああ。おいしかった。友則の彼女がくれたんだって。美人なのか?」
予想しなかった質問に友則が言葉を詰まらせていると、今度は祖母が言った。
「おじいさん。友則が困っているじゃありませんか」
祖母は白髪のショートヘア。ちゃぶ台はそれほど大きくないのだが、それでも祖母の体はすっぽりとちゃぶ台に納まってしまうほど小さい。祖母は、小柄な体型の上にある小さな顔を揺らしてニコニコしながら続けて言った。
「彼女さんに、有難うって、伝えておいてね。おいしかったって」
「うん」
友則は返事をしてから、祖父母がいる居間をあとにした。
祖父母の様子から、残りのプリンを全部食べたとは思えない。
友則は、二階にある妹の部屋へ行った。妹は既に帰ってきていて勉強机で宿題をしていた。
「おい!」
「知らない!」
妹は友則の顔を見ずに言う。
友則が声を掛けてすぐの返事が「知らない」とは、かなり怪しい。
「何!?」
「うるさいなー。勉強の邪魔。あっちへ行ってよ」
しかも妹は、勉強を理由に友則を牽制する。
友則は思った。絶対に、こいつ、プリンを二つ以上食べてるぞ。と。
「お前、プリンを全部食べただろ?」
「食べてないよ。私が帰って来た時には、もうなかったんだから」
「なんだと!」
友則は驚愕した。妹が帰って来た時には、既にプリンは全部なくなっていたようだ。
だが、しかし。妹が嘘をついている可能性もある。現に妹は、学校から帰ってすぐに冷蔵庫を開けてプリンを確認している。確認をしたという事は、妹はプリンを更に食べようと思っていた可能性がある。
「お前。プリンがあったら、食べてただろ?」
「食べないよ。昨日、お兄ちゃんから一人1つずつって言われているから」
「じゃあ、なんでプリンが全部無いって知ってんだよ?」
「ジュースを飲もうと思って冷蔵庫を開けたら、プリンが入った箱の蓋が開いていて、もう箱の中はカラになっていたからよ」
「箱の蓋が開いていたって!?」
友則は、またもや驚愕した。友則が冷蔵庫を開けた時は、蓋は閉じられていた。蓋を閉じたのは妹なのだろうか?
「蓋は、お前が閉じたのか?」
「ううん。触ったら何か言われると思ったから閉じてないよ。お兄ちゃん。いつもうるさいから」
妹は友則の顔を見ずに宿題をしながら言う。