故郷への帰路
俺の行動は素早かった。
レインがしたためた書状を受け取り、簡単に引き継ぎだけを行った。
そして、あとの師団全体の指揮はレインに、『切り込み隊』の指揮はグランドに一時的に任せて、帝都へ戻る道を急ぐことにした。
ちなみに俺が一時的に帝都に戻ると伝えたとき、第五師団の一部が「やったぁぁぁぁ!!」と叫んでいた声は、ちゃんと聞いている。戻ってきたらびしびし鍛えてやろう。
「ふぅ……」
軽く準備運動をして、体を解しておく。
今から帝都に向かうわけだが、当然真っ直ぐ向かうような俺ではない。ヘチーキ村にまず寄って、ジュリアの様子を見て、いちゃいちゃしなければならない。しなければならない(断言
俺の足ならば、ここからヘチーキ村までノンストップで二日。帝都には一晩あればいけるから、数日は村に滞在しても問題ないだろう。
「よし、行くか!」
そう叫んで、足に全力を込める。
愛しのジュリアに会うためならば、どれほど辛くてもこなしてみせよう。
なぁに、一日二日寝ずに全力を出すなんて、慣れたもんさ。
そして、一歩目を踏み出した矢先。
なんか「あれ隊長どこ行くんすぷぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」と叫ぶ声と共に、誰か吹き飛ぶ感じはしたけれど、きっと気のせいだと思う。
「はぁ、はぁ……」
俺は、運が悪いと思う。
これについてはまぁ、ちょっと前から自覚はしていた。
上層部が作戦を練ったやつって大体失敗するし、楽できるわと思って楽できたことないし、味方は無能だし。何より、俺この戦争終わったら結婚するんだけど思ってたより戦争が終わってくれないし。
だからまぁ、二日でヘチーキ村まで行けると思っていた俺だけれど、実際にかかった時間は五日だった。
「ふぅ……ようやく、着いたか」
ここに至るまで、紆余曲折があった。
本当に、何この大冒険と思うくらいにめちゃくちゃ色々あった。
街道を走っていた矢先、盗賊に襲われていた馬車を見つけた。
当然、俺は馬車を襲っていた盗賊を蹴散らして助けた。その結果、馬車の主人が俺に言ってきたのである。
いきなり襲ってきた盗賊に娘が攫われてしまったのです。どうか助けてください。
そう言われて断れないのが俺よ。
馬車の主人に言われた方向へと邁進し、そこに古びた砦を発見し、そこに巣くう盗賊たちを発見した。当然、俺は砦の鉄扉を蹴り開け、そこに巣くっていた盗賊たちを殲滅し、奥で捕らわれていた女性を八人助けた。
しかし、女性を助けたらそれで終わりというわけではない。
ただ俺が助けて解放しても、そこから故郷に戻る方法はないのだ。仕方なく俺は女性たちを元いた場所――馬車の主人がいるところまで連れて行き、八人を全員故郷まで送り届けるように伝えた。
だが、馬車の主人は大事な取引があるらしく、二人ほど逆方向の女性がいたのだ。若い姉妹であり、俺の足ならばさほどの時間も掛かるまい――そう考えて、っこの二人だけは俺が送り届けることにした。
馬車の主人はお礼にと金貨を出してきたけれど、そんなもの受け取らないのが俺よ。
金貨なんざ、ジュリアの家に余ってるくらいだからな!
そして、二人の姉妹を俺は右腕と左腕で抱えて、再び街道を邁進した。
彼女らの故郷だった街はさほど離れていなかったらしく、問題なく二人を家まで連れて行った。
家は割と富豪だったらしく、二人の父親に泣きながら「ありがとう! ありがとう!」と感謝された。そしてまぁ、お礼代わりと豪華な食事を用意され、父親と姉妹と俺の四人でテーブルを囲んだ。
出された豪華な食事は、断らない俺よ。
まぁ栄養補給は大事だし、食事だけ済ませてさっさと去ろうと考えていた。
だが突然、父親の方が変なことを言い出したのだ。
娘二人のうちどちらかと、結婚してはくれないか、と。
いや俺婚約者いるんで。と断ったけれど、父親の方が面倒くさい奴だった。娘を救ってくださった勇者こそ、我が家を継いでもらうのに相応しい、とか言い出した。あんたと俺、初対面なのに何をそこまで信用してんだよ。あと、娘二人も少し父親を止めてくれ。ちょっと頬染めてんじゃねぇ。
しかも「結婚するにあたって、ある洞窟より『炎のリング』と『水のリング』を持ってきて欲しい。それを結婚指輪の代わりにしよう」とか言い出したのが本当に意味が分からなかった。結婚指輪が拾いもんでいいのかよ。
丁重にお断りして、食事だけおいしくいただいて、富豪の屋敷を後にした。
だが、これで俺の苦難が終わったわけではない。
突然現れた狼の群れを相手に戦い、街道に出現した熊を相手に戦い、旅路にある吟遊詩人を襲っていた盗賊の群れを撃破し、何故か吟遊詩人から「あなたの歌を作りたい! どうかあなたの戦いの歴史を私に教えてください!」とか言われたけど時間ねぇから断った。
次に道に迷い、気付いたら帝都に向かっていることに気付いた。さらに携帯食料が尽き、ひもじい思いをしながら近隣の村まで向かってどうにか手に入れた。そして喉が渇いたから川の水を飲んだら、全力で腹を下した。
後半は明らかに自分のせいである気がするけど、それでもとにかく、俺は苦労してここまでやってきたのだ。
実に大冒険をしてきたと思う。
どうして俺、戦場から故郷に戻ってきたはずなのに、戦ってばかりなんだろう。
「おぉい、ギル!」
「あん?」
「お前、遅かったじゃねか! 早く嫁さんとこ行てやれ!」
「え? 何? 何が起こってんの?」
突然現れた男が、俺に向けてそう告げてきた。
「何って、もう子供が産まれる頃だろうが! もう、麓から産婆さんも来てんだべ!」
「マジか!」
「ほら、早く! 子供は順調に育ってるらしいけど、何が起こるかわからんから!」
「ああ、ありがとう見知らぬ人!」
俺は男性にそう告げて、ジュリアの家へ――俺たちの愛の巣へと急ぐ。
後ろで、「お前、兄貴の顔忘れてんじゃねぇ!」と叫ぶ声が聞こえた。そういえばあれ、兄貴だったわ。
そして、ついに子供が産まれる――その覚悟と共に、俺は家の扉へ向かい。
さぁ、いざ開けようとした矢先。
「おぎゃぁ、おぎゃぁ!」
扉の向こうから聞こえてきたのは、そんな産声。
急いで来たつもりではあったんだけど、間に合わなかったらしい。




