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行軍の小休止

 ガーランド帝国とライオス帝国は、どちらも海に面した大国である。

 だが、大陸を俯瞰して見たとき、ガーランド帝国の面している海は南側であり、ライオス帝国の面している海は北側だ。つまり、大陸における端と端という立ち位置である。

 つまり。

 行軍してライオス帝国に向かおうと思えば、それだけでおそろしく遠い距離ということである。


「はー……いつまで歩くんだか」


「そろそろ、行軍が嫌になってきたっすよぉ……」


「おう若いの、今更かい。ワシら、とっくに嫌になっとるぞい」


 帝都を出発して、既に十日。

 恐らく、全行程の半分くらいはもう過ぎただろうか。今から向かうのは、ライオス帝国と元ジュノバ公国の国境に存在するカウル平野という場所だ。

 周りに遮蔽物となるものがなく、見通しの良い平野。そこで、今からライオス帝国と全軍でぶつかるわけなのだが。

 この調子でいくと、全軍でぶつかる前に全軍が疲弊してしまいそうだ。


 休憩を増やし、どうにか行軍こそ続けているが、全軍になんとなく疲弊の空気が漂っている。マリオンのように疲弊を口に出せるのは、それだけ隊の雰囲気が良いからだ。

 隊の雰囲気が悪い場合、そんな愚痴すら口に出せず、ただ心の中で不満が溜まっていく。そうなれば、溜まった不満がいつ爆発するか分からない。

 そうならないために、英気を養うのもまた軍上官の役目なのだが。


「隊長、戻りました」


「おう、レイン。何って言ってた?」


「本日の行軍はここで終了し、明日は一日休みといたします。各自、鋭気を養って明後日より行軍に励め、と」


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


『切り込み隊』全軍から、そう叫び声が上がる。

 それも当然だ。十日も休まず行軍してきた部隊は、休息を欲しているのだ。そして現在軍がいるのは、元メイルード王国の港湾都市である。

 メイルード王国は、王都を陥落させたことによって自然と他の都市も恭順してきたため、他の都市にはほとんど被害がない。そして、メイルード王国の港湾都市ヴェイガスといえば、大陸でも有数の歓楽街が存在するとして有名なのだ。

 つまり、ここで一晩休ませるということは、ここまでの行軍で溜まったストレスを存分に吐き出せ、ということでもあるのだ。

 兵士は一夜を楽しむことができ、歓楽街は儲かる――ウィンウィンの夜だと言えるだろう。

 まぁ、俺は歓楽街なんて行く気ないけど。


「おう隊長! ワシらと若い女の子がいる店に行くぞ!」


「行かねぇよ」


「なんでじゃ!? 嫁さんはここにおらんのじゃぞ!?」


「悪いが、俺はジュリアを裏切れない」


 肩を掴んできたグランドの手を、そう弾く。

 別に、若い女のいる店が嫌いというわけではない。昔はよく行っていたし。

 だけれど今は、故郷に置いてきたジュリアに対する裏切りになってしまうのではないかと、そう思えてしまうのだ。だから、女遊びはしないというより、したくない。


「隊長のそういうところは、好感が持てますね」


「んだね。はい、そこの奥さん裏切る系男子たちは、好きな店に行けば-?」


 そんな風に、断った俺に再び声をかけてきたのは。

 レイン、そして『遊撃隊』のアンナだった。第三師団は女性の数がそれほど多くなく、別の隊ではあるけれど、レインとアンナは割と親しいのである。

 まぁ、この二人と一緒ならば、吝かではないが――。


「ちっ、仕方ないのぉ。よっしゃ、じゃあ若いの、行くか!」


「えっ、オレっすか!?」


「お前に決まってんだろうが。なんだ? お前も嫁がいるってぇのか?」


「いや、い、いないっすけど、オレそういうの苦手なんすよ」


 代わりに、グランドが誘う相手が俺からマリオンに移る。

 そういえば、俺が歓楽街に飲みに行っていた頃も、マリオンだけは来なかったな。何回か誘ったけれど、どれも断られた覚えがある。

 それだけ苦手ならば、俺から助け船を出してやるのが優しさか。


「んじゃ、マリオン。こっち来いよ。俺たちと一緒に飲もうぜ」


「う、うす! それじゃ、そっち行きます!」


「なんじゃ、つまらんのぉ」


 ふん、とグランドが唇を尖らせる。

 そういうのは可愛い女の子がやるから可愛いんであって、おっさんがやったところで醜いだけである。


「よーし、それじゃ、どっかの酒場に入ろうよ。んで、マリオン? あたしアンナ、よろしくね」


「そういえば、マリオンさんとも飲みに行くのは初めてですね。レインはそれほど飲みませんから、潰れた場合は介抱しますので」


「とか言いながら真っ先に潰れるのお前だろ、レイン」


「失礼な」


 そう、わいわいと騒ぎながら。

 俺たちは、元メイルード王国最大の歓楽街へと、足を踏み入れた。














「むきゅぅ……」


「マジで一番に潰れるんすねぇ、レインさん」


「そうなんだよ。んで、大体がアンナが部屋まで送っていくパターンだ」


 酒場。

 そこで、「レインはそれほど飲みません」とちゃんと言っていたにもかかわらず、二杯目に差し掛かった時点でレインは机に突っ伏した。宣言通りそれほど飲んではいないけれど、基本的に酒に弱いのである。

 帝都では何度か一緒に飲みに行ったけれど、大体レインが最初に潰れて、足元こそふらついているがどうにか覚醒しているアンナが送っていくのがパターンだった。ちなみに、そんな二人をちゃんと軍の女子寮まで俺が護衛した。


「まぁ、疲れてんのもあるんでしょ。あたしも、今日は早めにお暇させてもらうわよ」


「そうなのか?」


「うん。割と回ってきてるから、もう少し飲んだら潰れそう。あたしまで潰れちゃったら、帰る場所分からないもん」


「んだな」


 今夜の寝る場所だが、それぞれ好きにしろという指示だったため、俺とマリオンは行きがけの宿で予約をとった。

 そして同じく、アンナとレインも同じ部屋という形で宿屋を予約したのである。

 俺たちとは別の宿だから、さすがに俺も部屋番号とか知らないし、送っていくことはできないだろう。


「どうする? 宿までついていくか?」


「別にいいわよ。あたしだって軍人だし。変な奴が現れても、撃退する自信があるわ」


「おお、怖ぇ。んじゃ、俺らはもうちょい飲むか、マリオン」


「うす、お付き合いするっす」


 よいしょ、とアンナがレインの体を支える。

 普段は鎧を纏っているが、さすがに宿で鎧だけは脱いでいるため、俺も手伝ったけれど異常に軽い。若い女子というのはこれほど軽いものなのだろうか。

 そして、レインを背負ったアンナを見送り。


「よっしゃ。おーい、こっち酒おかわりー」


「こっちもっすー」


 そして、俺とマリオン。

 男二人だけの酒の席で、夜が更けるまで楽しんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 進軍中の一休み… 色街に繰り出すオッさんどもと身内で細々呑むギルさん一行… レインさん弱すぎィ!!(笑) ワタクシもアルコールアレルギーと判明するまでは乾杯の時の生中一杯で中盤落ちるほどでし…
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