不穏な気配
「んで、ようやく戦争終わりですかい?」
「そうじゃねぇの? さっき、第六師団と第七師団が帝都に戻ったらしいし」
元メイルード王国、王都。
俺を含めた第二師団の『切り込み隊』、それに生き残った第五師団の連中が、一応ながら王都の治安維持部隊になった。
といっても、俺たち『切り込み隊』の役割は、第五師団の監視だ。
今まで降伏兵を殺し、戦果を偽ってきた第五師団の軍規違反は、帝都に戻ってから懲罰が与えられるらしい。そのため、帝都に戻るまでの間はここで治安維持部隊として駐在しながら、交代の部隊が来たら帰還だそうだ。
既に少なくない罰が予定されている、第五師団の逃亡防止の意味も含めている。
「ようやく戦争が終わるんですねぇ。俺もそろそろ帰りてぇっすわ」
「俺もさっさと帰りてぇよ」
「まぁ、隊長は特にそうじゃわいな。可愛い嫁っ子が待っとんじゃ」
ぼやくナッシュと、機嫌の良さそうなグランド。
当然、グランドがその手に持っているのは、ウイスキーの入っているボトルである。
勿論、こうして治安維持のために駐在している間、真っ昼間から酒を飲むのは軍規違反だ。だが、俺にも許せる軍規違反と許せない軍規違反があり、こちらは前者である。
まぁ、酒くらい好きに飲んでもいい、と公言はしないまでも、黙認しているわけだ。
つっても、こうして本当に好きに飲んでいるのは、グランドくらいだが。
「おい! 手ぇ抜いてんじゃねぇぞ! 瓦礫くらいもっとてきぱき撤収しろ!」
「は、はいっ!」
サボろうとしていた第五師団の兵に対して、俺はそう叱咤する。
ちなみに現状、総将軍から俺は、第五師団長代理という立場を与えられているのだ。バカ師団長を俺が殺してしまったため、代わりとなる人材がいないというのが理由である。
第五師団『切り込み隊』隊長のドルガーからは、「もうこのまま第五師団長になってくださいよ」と言われているが、残念ながら俺はこの戦争が終わったら除隊するんだよね。まぁ、俺は次の第五師団長が、もうちょっとましな人物であることを期待するだけである。
「隊長、レイン戻りました」
「おう……ん? どこ行ってたんだ?」
「隊長には報告したはずですが。レインは総将軍に呼び出しを受けておりました」
「そうだっけか」
ジト目で、俺を睨んでくるレイン。
そういえば姿を見ないなぁ、とは思っていた。だが、そういう報告を聞いた覚えはない。
だけれど、俺の記憶とレインの記憶、どちらが正しいかを競った場合、大抵レインに軍配が上がる。だから今回のことも、俺がただ聞いていなかっただけだろう。
「んで、総将軍は何て?」
「それが……少々、気になる部分ではあるのですが」
「ああ」
「これより、第八師団から第十師団まで、この地にやってくるそうです。その三師団が来たら、交代で第五師団は帰還するとのことでした」
「……なんで?」
意味の分からない報告に、思わず眉を寄せる。
一応、メイルード王国は全土がガーランド帝国の支配下になった。そのため、駐在する師団が必要だという話は分かる。
だがせいぜい、それは師団一つといったところだ。わざわざ三つの師団を動かさなくても、近隣諸国が動いた場合に帝都から派遣すればいい話である。
だから、三つの師団がやってくる――そこに覚えるのは、違和感だけだ。
「レインも、そのあたりを詳しくは聞いていないのですが」
「ああ」
「まるで……次の戦争を行うために三つの師団が来るような、そんな気がしてならなくて」
「……」
まさか、という気持ちだ。
現状、アリオス王国とメイルード王国という二つの敵国を打破した。そして、二つの王国の領地を帝国の地と変え、これから治安維持を行っていかねばならない。
その状態で、次の国を侵攻する――それはさすがに、ありえないと思う。
「……次の戦争っつっても、メイルードから一番近いのは、ジュノバ公国だろ? ジュノバとは、ほとんど諍いも起きてねぇと思うが?」
「そうですね。友好関係にあるとは言い難いですが、今のところジュノバと交戦した記録はありません。今までは、メイルード王国とアリオス王国を隔てていたので」
「メイルードとジュノバが、友好関係にあったってわけじゃねぇだろ?」
「ええ。むしろ、メイルードとは諍いを何度か起こしています。ジュノバ公国自体は、北東のライオス帝国の属国ですから」
ライオス帝国。
それはメイルード王国から最も近いジュノバ公国、そして海に浮かぶワダツミ諸島連合の二つを属国として持つ、ガーランド帝国に並ぶ広大な領地を持つ国家だ。
今のところ、ライオス帝国とは友好関係にこそないが、敵対していることもない。
メイルード王国を陥落させた今、敵対するべき相手ではないと思うが――。
「総将軍からは、詳しくは第八師団から第十師団が到着次第、話すとのことです」
「……俺らもそうだけど、総将軍もずっと帰ってねぇよな?」
「そうですね。まぁ、これほどの連戦になるとは考えていませんでしたし」
思えば、最初にアリオス王国を攻めるために出撃したのは、いつだっただろう。もう、どれほど戦場にいるか日数すら把握できない。
というか、俺がこき使われすぎもそうなんだけど、総将軍もずっと指揮を執っている。そろそろ帰りたいんじゃないだろうか。そういえば、俺こき使ってんの基本的に総将軍だったわ。
「ふーむ。しかし妙じゃのぉ。まるで、また戦争が始まるみたいに感じるぞい」
「んだなぁ。本当に、今度こそ俺ら帰れるんですか?」
「まぁ……」
不安材料はあるけれど。
さすがに現状を考えると、これからさらに戦争が行われるとは考えにくい。
だから俺は、言った。
「さすがに、ねぇだろ」
「ジュノバ公国を攻める」
「……」
三日後、第八師団長、第九師団長、第十師団長、そして何故か俺が揃った場で、総将軍がそう宣言した。
まだ戦争、終わってくれないらしい。




