これは怒りの誅殺
俺の目の前で、首を斬られていく降伏兵たち。
元より、俺が縄上りをして壁の上に到着した時点で、彼らには戦意がなかった。既にアルードの関、トスカル平野と負け戦続きだった彼らであるし、ガーランド帝国軍にほとんど損害がない以上、この王都防衛戦も負け戦であることを覚悟していたはずだ。
だからこそ、俺が壁を上った時点で、すぐに降伏したのだ。
どうせ負け戦ならば、死なない方がいい――そう考えて。
だというのに。
第五師団はそんな彼らに対して、皆殺しを告げた。
「てめぇら! 待ちやがれっ!!」
騎馬で攻め込んできた第五師団が、それぞれに降伏兵を斬りつける。
そして、俺が壁を上ったことで、この戦が終わったと家から出てきた王都の住民に対しても、また蹂躙を行っていた。
あまりの非道に俺は思わず駆け出し、馬に乗っている兵の一人を蹴り落とす。
「てめぇ! 何やってんだ!」
「ぐっ……な、何だよ! 邪魔すんじゃねぇ!」
「こいつらは既に降伏してんだよ! これで戦争は終わったんだ!」
「んなわけねぇだろ! 俺らが何の戦果も出さずに、戦争が終わるわけねぇんだよ!」
「はぁ!?」
ふんっ、と俺の手を払い、さらに馬に乗ろうとする兵士。
何の戦果も出さずに、戦争が終わるわけがない――その言葉の意味が分からず、俺は自然と馬ごと蹴り飛ばしていた。
横に倒れる馬と共に、兵士が馬に足を挟み込む。
「おい!? お前何やってんだ! こっちは味方だぞ!」
「説明しろ。指示したのは誰だ」
「は? 師団長に決まってんだろ! 俺らはいつも、開門してから騎馬で攻め込んで……」
「そうか分かった、もう黙れ」
ぶんっ、と風を切り裂く音と共に、俺は斧を振るう。
その刃先は、第五師団の兵士の首――それを、切り飛ばしていた。
ここにいるのはガーランド帝国軍ではない。ただの畜生の群れだ。そう認識した俺の腕は、その首を刈ることにも一切の躊躇はしない。
だが、それと共に周囲では騒ぐ声があった。
「おい!? あいつ味方を殺しやがったぞ!」
「ガーランドの死神が、どうしてガーランド兵を殺す!?」
「てめぇ! マイケルをよくもっ!」
「黙れ」
低く、重い声で告げる。
これは戦争だ。そして戦争である以上、そこに命の危険が伴うのは当然のことである。
だが、第五師団のやり方――それは、あまりにも許せない。
決着がつくまで安全圏でのうのうと見守り、門が開いた瞬間に戦意を失った降伏兵の首を斬る。
これが戦争であってたまるものか。
これは――ただの、虐殺だ。
「てめぇら動くな! こいつのように殺されてぇか!」
「うっ……」
首のない死体を示し、周囲の騎馬兵が動かなくなる。
そんな彼らに対して、鋭い眼差しでもう一度見て。
「今から、一人でも殺してみろ! そいつは必ず俺が殺す! いいな!」
「……」
俺は、『ガーランドの死神』だ。
蔑称ではあるけれど、そう呼ばれるだけの戦果は上げているし、そう恐れられるだけの存在だと思っている。
そして、それは味方に対しても同じだ。
俺を怒らせたら怖い――それくらいは、分かっていてもらわないと。
「ちっ……一体、何を考えてやがるっ……!」
俺は駆け出し、混乱に乗じて次々と住民を斬り殺していく第五師団の兵――それを、一人ずつ蹴り落としては狩っていった。
味方を殺すなんて、本来は許されないこと。
だが、こいつらはそれ以上に許されないことをしているのだ。
「ギルフォード! 貴様何をしているっ!」
「ああ、ようやく会えたなバカ師団長っ!」
「貴様、戦場において味方殺しとは、一体何を考えている!」
「てめぇに聞きてぇな! 何考えてんだ! 降伏した兵に手ぇ出すのは、軍規で禁じられてんだろうが!」
「……」
俺だって、ただ腹が立ったから暴れたわけじゃない。
降伏兵に対しては、命を保証する。その後、再び兵士となるか奴隷となるかを自ら選ぶことができる――それが、ガーランド軍の軍規だ。
降伏した相手に対して虐殺をすれば、今後降伏する者がいなくなる。そのため、軍規において降伏兵には最大限の安全を確保することが定められているのだ。
だというのに、こいつらはそれを守らなかった。
つまり、軍規違反。軍規違反は、誅殺されて然るべきこと。
「貴様に、何が分かる!」
「あぁ!?」
「我ら第五師団は、貴族家の令息で構成されている! 己が戦果を、実家に示すことは必要なのだ! 戦場に出て、首の一つも取らずに戻れば、家の恥と罵られる!」
「降り首をとって何が戦果だ! んなもん、恥にはなっても戦果になるわけねぇだろうが!」
「うるさい! これが第五師団のやり方だ!」
バカ師団長が剣を振るい、逃げ惑う降伏兵を突き刺す。
それで俺もようやく分かった。こいつらが、どれだけの屑であるか。
「……はー。総将軍に怒られるな」
「だったら、さっさとどこかへ去れ! ここは我らの戦場だ!」
「いいや」
ぎろり、と俺はバカ師団長を睨み付ける。
まぁ、俺には正当な理由がある。それが貴族絡みだとしても、知ったことか。
俺の目の前で、軍規違反をしたこいつらに非がある。
「貴族の息子は、ぶっ殺すと色々面倒なんだよ」
ぶんっ、と風を裂く音と共に。
バカ師団長の首が、飛んだ。
「はぁ……まったく、お前は……」
「俺は、怒られるような真似はしていませんよ。目の前で軍規違反をしていました。そして、注意しても止まらなかった。そのため、首を斬りました」
「……第五師団が制圧を行うと、いつも降伏兵がいないことは、気になっていたことでもあった。降り首を戦果か……そのように考えていたとはな」
「罰なら別に、与えてくれていいっすよ。除隊なら尚更」
「……お前は、軍規に則って行動した。そこに問題はない。悪いのは、今までそんな第五師団を放っておいた私の方だ」
きっちり説明したら、むしろデュラン総将軍の方が非を認めてくれた。
まぁ俺、正しいことしたしね。第五師団は千人くらい殺しちゃったけど。
「今後のことは、また追々伝える。ひとまず、今は戻って良い」
「は」
メイルード王国王都制圧戦は、順当にこちらの勝利だ。
ちなみに、メイルード王国の王族は別の門から逃げようとしていたらしく、その身柄は第六師団が押さえている。そのため、第一戦功は第六師団となった。俺が必死に縄上りした戦功、たまたま門の前にいた第六師団に掠め取られたわけだ。
最後は胸糞悪かったけれど、とりあえず、これで戦争は終わった。
あとは俺が除隊して、田舎に戻るだけのこと。
ようやく、俺の結婚は近付いてきたらしい。




