表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/62

予定外の攻略

 雲梯車が、じわじわとアルードの関――その城壁へと近づいていく。

 もう間もなく、雲梯車の機構――梯子が、壁へと掛けられる頃合いだろう。そして俺たちは、その梯子が掛けられると共に城壁へと上がり、そのまま内部を制圧する。

 たった二十人という数だが、狭い関の中での戦いならば、基本的に俺の独壇場だ。一斉に掛かってくることができる敵など、狭い関の中ではせいぜい三名といったところであり、三人くらいならば一度に掛かってこられても蹴散らせる。


 だが雲梯車が壁に近づいてくるにつれて、俺はつんと鼻をつく独特の臭い――それに、思わず声を上げた。


「おいっ! 油が撒かれてるぞ!!」


「なっ!?」


 先程から、何度もかん、かん、と矢を弾く音が、盾から聞こえる。

 それと共に、盾から垂れてきたのはどろりとした液体――油だ。恐らく、矢に油袋を括り付けて放ってきたのだろう。

 その油が、既に雲梯車――その全体を覆っている。

 そして、雲梯車は木製だ。燃えにくいように加工はしているだろうけれど、大量の油の前ではそんな加工などさしたる意味もない。


「火矢を放てぇっ!!」


 そんな叫びが、敵の城壁から聞こえてくると共に。

 近づくまで、入念に準備をしていたのだろう。一斉に、先端に火の点いた矢が雲梯車へ向けて放たれる。

 壁まで、あと少しだというのに。

 もう少し近づくことができれば、梯子を掛けることができる――その位置まで、敵は待っていたのだ。


「こ、こいつは不味いぞい! 隊長!」


「くっ……飛び降りるのは……」


「隊長には出来ても、わしらには無理じゃ! 落ちたら死ぬ高さじゃぞ!」


「ちっ……」


 俺一人ならば、落ちてもどうにか命は助かると思う。

 だけれど、ナッシュやグランド――『切り込み隊』の兵士たちは、無事では済むまい。最悪、俺が隊長に就任して初めて死人を出すことにもなってしまう。

 ならば、どうすればいいか――考える。

 今にも燃えようとしている雲梯車――その構造は、畳んである梯子を相手の城壁へ向けて落とし、雲梯車と壁の間に梯子を掛けるものだ。

 つまり、最悪――その梯子を掛けることさえ諦めれば、梯子から降りることができる。


「ナッシュ! グランド! 全員を率いて、お前らは一旦、雲梯車から降りろ! 梯子が燃える前に、急げ!」


「う、うす!!」


「た、隊長はどうするつもりなんですかい!?」


「決まってんだろ!」


 ここは、雲梯車の上。

 つまり、地上よりは壁の頂上に近い。残念ながら縄はないけれど、それでも俺ならば登れる――そう確信できた。

 二十人での襲撃から、俺一人の襲撃に変わるだけ。

 そして、俺一人で関の内部を制圧し、そのまま門を開けるだけのことだ。


「俺は行く! お前らは、雲梯車が崩れないうちに降りろ!」


「う、うす!」


「隊長、生きて戻れよ! わしの孫、ちゃんと抱くんじゃぞ!」


「分かってらぁ!! おい! 聞こえたか! 雲梯車止めろっ!!」


 俺がそう叫び、雲梯車の動きが止まる。

 むしろ、下で押している連中の方が、燃えて落ちてきた木材のせいで逃げ出している始末だ。この調子で、城壁に梯子を掛けることはできまい。

 今のところ地上へ向けて降りている梯子を伝って、部下たちが降りていくのを見届けて。

 俺は大きく息を吐いて、雲梯車の狭い空間――そこで最大限の助走をつけて、アルードの関へと跳んだ。


「ふんっ!!」


 石造りの壁――そこには、少なからず凹凸がある。

 その突き出した部分に指を掛け、己の体重を支える。普段上っている縄よりも大分きついが、それでも地上から向かうよりはましというものだ。

 天辺に狭間胸壁がないおかげで、上から矢に射られる心配もない。そして、向こうが戦況を確認しているのは、壁に空いている穴からなのだ。つまり、俺が壁に張り付いている現状というのは、向こうにとって死角となる。

 その間に、気付かれないように上る――容易いことだ。


「くっ……」


 石の出っ張りを掴み、体を引っ張り上げ、次の出っ張りを探す。

 足を掛けている部分が滑り、一気に重さが腕へと掛かり、思わず顔をしかめた。

 気合いを入れて、俺はどうにか体を上に上げていく。


 まったくもって、信じがたい。

 この戦争が始まってから、上層部の作戦が上手くいった例が、今のところない。レオナと一緒に向かった、王族の捕縛くらいのものだろうか。

 竜尾谷では待ち伏せされるし、雲梯車は最初から対策を練られているし、無茶苦茶にも程がある。

 そういうの全部どうにかするのって、現場なんですよね!


「う、おぉっ!!」


 どうにか、壁の天辺へと手を掛け、一気に体を上げる。

 壁の頂上には柵の一つもなく、下手に動けば落ちる可能性が高い。そのためか、見張りの兵も全く見えなかった。恐らく、見張りは城壁の穴から見れば十分だと思っているのだろう。まぁ、こんな壁素手で上ってくるとか、普通想定しないだろうし。

 両手に手斧を構えて、俺は関の中央――やや突き出た部分へと向かう。恐らく、あそこに下に降りる階段があるだろう。


 俺の目論見通り、そこには階段が見えた。

 しかし普段、全く使っていないのだろう。小部屋のように突き出たそこは、埃まみれである。まぁこんな、ちょっと転んだだけで命の危機を感じるような場所には、誰も行きたくないだろうし。

 警戒しながら、俺はその階段を降りて。


「えっ……」


「――っ!」


 そこを、巡回していたのだろう兵士――その目が合った、次の瞬間。

 俺は、手斧を投げていた。

 一瞬の出来事に声も発することなく、俺の斧が敵兵の首に突き刺さる。倒れたのを確認してから、俺は近づいて手斧を回収した。


 さぁ、ここからは。

 俺が暴れるだけだ。















「うおおおおおおおおお!!!」


「な、なんで『ガーランドの死神』がここに!?」


「うぎゃああああ!!」


「に、逃げっ……!」


「し、死にたくねぇ……!」


 階下に降りると共に、俺の目の前に現れた兵士たち――そこに向けて、俺は雄叫びと共に駆け出した。

 恐らく、ここから矢を放っていたのだろう。壁に空いている穴に矢を設置し、見張っている兵たち――それが、全く想定していなかったとばかりに叫び声を上げた。

 向こうからすれば、俺がこうして侵入していることも全く考えていなかっただろう。そもそも戦争で、こんな俺一人だけで砦に侵入するとか……思い出すと、結構あったわ。大概、レインからの無茶ぶりで始まった一人無双が。


「死にたい奴から前に出ろやぁっ!!」


 斧を振るい、敵兵を刈る。

 半ば、全部の作戦失敗しやがって、という上層部への怒りも含めながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 現場で的確な判断が出来るギルさん格好良い! 自分だけ特攻するのって普通は自殺行為なのにギルさんはそうならないのが凄いです。 気合で壁を登りぎるのも……身体能力が凄すぎますね。 [気になる点…
[良い点] 戦士ギルフォード頼りの 無謀な作戦だけど 敵の対応が的確過ぎるな、情報が漏れてないか?
[一言] 人、ソレを『八つ当たり』という…(笑) 上層部のたてた計画がギルさんありきだし、仕方ない…(-人-) 雲梯車なんて目立つモンをゴロゴロ動かしてたらそりゃ対策の一つや二つされますわな… 敵に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ