逃げるなら今?
スープカレー食べたいな…
ん?んんん?
ふっと前世の記憶が蘇った。
今日は、いつもの世話係のおばあちゃんが体調崩してお休み。
そしたら、意地悪な舌打ちメイドが代わりに来た。
2歳児にいちいち舌打ちするメイドって意地悪だよね?
「チッ。なんであたしが世話しなきゃいけないんだよ。ババァいなくなったらどうしてやろう」
いつもより薄いし具のない美味しくないスープと硬いパンだけの食事。おばあちゃんはこのまま退職しそうな気配。
この2歳児ってば、おばあちゃんに会えなくなる未来に慄いて、前世の好物のスープカレー思い出して食べたくなっちゃったらしいよ。
なんでだよ!笑える!
前世の私は大学生。
恋人の社会人が浮気して、浮気相手がメンヘラからのストーカーにジョブチェンジ。
自分が悪いことしたのに、何故か私に助けを求めた恋人さん。
警察行くなりしなよって説得してたら、お店に浮気相手乱入してきて、私が刺されて死んだっぽい。
なぜだ!!!
わあーオトコミルメナカッタナー。
そして現世は、スラリタ王国の陛下がメイドに手を出して出来た子らしい。
え?私、王女じゃね?
いやー、それが複雑なんです。
メイドには、ちゃんと相思相愛の幼馴染の婚約者がいたそう。
それが、陛下が客室掃除してたメイドを襲って、無理矢理後宮入り。
メイドは、私を出産後に死亡。
泣き暮らしてたらしいので、衰弱死?
そして、死亡を知った元婚約者の幼馴染が発狂して陛下に突撃。
もちろん、その場で斬られて死亡。
いやー、修羅場ですね!
こうして、外に出せない子の出来上がり。
頭が大人になったおかげで、メイド達の噂話がやっと理解できました。
現在、たぶん塔?離宮?に幽閉中。
陛下(父親)、会ったことないです。
メイド(母親)、記憶にないです。
ふむ。この2歳児には、世話係のおばあちゃんと、聞こえるように噂話してる声(舌打ちメイドとその仲間)の記憶しかない。
お先真っ暗過ぎない?
いきなりハードモードやん。
あれ?スラリタ王国って聞いたことあるな。
前世でやってたゲームで育ててた【病んでる聖女】の所属国だったような…
まさか、マサカネ。
「しゅてーたしゅおーぷん」
出たよ!!出ちゃったよ!!!
■リリー・スラリタ(2)
■Level.99
■Job:聖女
■HP:99999
■MP:99999
■スキル
神聖魔法(Job:聖女のみ発動可能)
火魔法 水魔法 土魔法 風魔法 光魔法 闇魔法
雷魔法 氷魔法 空間魔法 結界魔法 生活魔法
無詠唱 魔力操作 気配察知 魔力察知
剣術 弓術 体術 投擲 遠見 暗視 鑑定 隠蔽
召喚術 精霊術 転移 空中移動 水中移動
調合 料理 錬金 建築 細工 大工 裁縫
採取 採掘 罠解除 マップ
□ストレージ
おおぅ。記憶にあるカンスト聖女だわ。
【病んでる聖女】って、虐待されて育てられてた背景あったなー。
ってことは、これからあの舌打ちメイド辺りに虐待されるのでは?
いつかは神殿に保護されるんだろうけど、待ってる必要ある?
マップの大陸地図、生きてるな。
転移、行けますね。
ストレージ、ゲーム引き継いだのかたっぷり入ってますね。
お金もかなりある。この世界で使えるかわからないけど。
しばらく森にでも引きこもって、大きくなったら冒険者にでもなればいいか!
10年くらいで魔王の侵略あるはずですし。
当分は魔物倒して、引退後の為に他のスキルも伸ばせばいいかな。
封印の魔女の森の家、この世界にもあるかな?
あるなら封印解いて住めるんじゃない?
他大陸のマップもいけそう!
ふむふむ、思い立ったが吉日!
行ってみよう!
今なら舌打ちメイドが怒られるだけだろう。
恩も思い入れもないしな。
さらば!
「てんい!」
封印の魔女の森の家は、ゲーム通りに封印解けたった。
家の周りは、新たに結界と隠蔽を施し、迷いの森に変貌してやったぜ!
家の裏にある魔女のお墓にお花を供えて、リフォームの報告。一応ね。
勝手に住みついてすまんな!
掃除してたら、ゲームにはでてこなかった魔女の日記を発見。
読んでみたら、婚約者の王子と浮気相手に冤罪被せられて国外追放された150年前の聖女だったことが判明。
なにそれ?乙女ゲームかね?
追放後に、先代魔女に保護されてたらしい。
ここを見つけたなら先代魔女との思い出の家だから大事にして欲しいって、泣かせるな〜
有り難く大事に使わせていただきます!!!
保管庫や書庫には、魔導具やら魔法書、スキルオーブなど、貴重アイテムてんこもり。
ゲームじゃスキルオーブ1個入手する為にここに来たんだが、現実はすげーな!
流石、魔女の家!
小さなログハウス風の家なのに、中は空間拡張されてます。
更に改造するけどな!
お風呂もトイレもキッチンもドアの開閉も空中移動するのめんどくさい!
家の中の物は全部ストレージに突っ込んで、書庫や保管庫は新たな部屋や各種工房に改造。
キッチンは高さ調節して、調理魔導具の置き場や広い調理台、蛇口みたいな魔導具を付けた流し台を設置。
トイレは浄化機能付きの最新式を作って、空間も広めにとり、洗面台もつけちゃう。
お風呂は一人で入れるように高さ調節しながら作り直して、手摺りと階段をつけた。シャワーの魔導具も設置した。
ベッドは低めのキングサイズや!広い!
リビングはふっかふかの絨毯とクッションたっぷり。
普通に座れないソファとか食卓なんかいらん!
テラスに屋根つけて、ハンモックとクッションでお昼寝ゾーン、完璧です。
これ全部1日で出来たんやで?
魔法もスキルも魔導具もしゅごい。
さて、この世界のことを思い出そう。
主人公が魔王を倒す為にパーティーメンバーを求めて世界を周る、よくあるストーリーだ。
剣士や弓師、シーフや賢者、色々な人に出会ってストーリーを進めて仲間にするが、パーティーメンバーは主人公以外の4人しか選べないから育成が大変だった。
私は【病んでる聖女】と【不遇の英雄】がお気に入りで、固定メンバーとして育ててた。
【病んでる聖女】は、産まれの複雑さと小さい頃からの虐待で傷ついた心、神殿での酷い待遇でボロボロの状態で主人公に発見される。
主人公が聖女の心を救って旅に出る、よくあるストーリーだ。
【不遇の英雄】もだ。スラムで育ち、冒険者になり、国を災害級魔獣から救うが、生まれから蔑まれ、国に搾取され続けているのを主人公が連れ出す、そんなよくあるストーリー。
むむむ。
今なら英雄も救える?
確か、聖女より10歳くらい年上のはずだ。
まだ駆け出し冒険者だろう。
うむ。明日から英雄の国に行ってみよう。
英雄を探して1年、簡単に見つかるわけなかった。
国中の街や村、冒険者ギルド、スラム、いっぱい探したわ。
隠密の熟練度、あがりまくりよ?
そして本日、ついでにこの国のダンジョン攻略に励もうと進んでたら、犯罪現場に遭遇した。
死体が残らないダンジョンってやっぱり怖いとこや。
4人のおっさんが、若い男の子を殴る蹴る。
胸糞悪い!!!
雷魔法でおっさん達を気絶させ、ボロボロの男の子に回復魔法をかけた。
朦朧としてる男の子に事情を聞く。
やっぱり、おっさん達が男の子を殺してアイテム奪おうとしてた。
「お兄ちゃん、家族は?」
「いない」
「家は?」
「ない」
「この国に未練は?」
「ない」
「じゃあ、私の家に行こう。少し寝てて」
眠りの魔法をかけて、転移で森の家に連れてった。
ボロボロの服から、パジャマに着替えさせて、身体にクリーンをかけてベッドに寝かせた。
たぶん、彼が【不遇の英雄】だ。
ガリガリで面影ないけど、髪と目の色が同じだ。
ぶっちゃけ名前覚えてないんだよね。
もういいよね、彼を救うよ。
ルビーみたいなキラキラした瞳が気に入った。
彼を幸せにしてみせる。
翌日、起きると彼が私を見ていた。
「君が助けてくれたの?」
「そうだよ。私はリリー。痛いところはない?」
「うん。俺はシル。髪の毛がシルバーだからそう呼ばれてる」
「シルお兄ちゃんね。ここは私の家。シルお兄ちゃんがいた国からずっと遠くの森の中だよ」
「…そっか」
「ねえ、シルお兄ちゃん。私と家族になろう?」
「え?」
「私も一人ぼっちなの。だから一緒にいようよ」
ぐぅぅぅきゅるるるる
「くすくす、とりあえずご飯食べようか。シルお兄ちゃん抱っこしてー。リビング連れてって」
両手を広げた私を、戸惑いながら抱っこしたシル。
さあ、まずは胃袋から掴んでしまおう。
シル視点は【囲われた今】をご確認ください〜