第六話 虐殺タイム
血戦の卵のチャージのため、強そうなフレイン守衛長に触れる。
”血戦の卵のチャージが完了しました。”
”薄命の卵のチャージが完了しました。”
”死して纏う未練という名の力。僅かな力は何をもたらす?”
”ハハッ!! コロシテテニイレロ!! キズケヨシタイノヤマ!! オマエハムテキダ!!”
カーズ君と、死神さんのフレイバー・テキスト。
■薄命の卵:人体を再生する。
チャージ方法:死後1時間以内の人型の死体。1チャージのみ。
ヒント:1体10秒の再生。触れられた死体は、消滅する。
フレイン守衛長の肉体だけではなく、装備していた鎧や兜も消えた。
すべての死体に触れたため、40秒の再生となる。
しかしどの程度の再生能力なのか、試せないため不安だ。
俺は、詰め所の鉄格子の窓を深淵の卵で破壊し、外へ逃げ出す。
外にでると、一心不乱で、北門へ駆け出す。
すぐに北門が視界に入るが、驚くことに、まだ早朝だというのに閉門され始める。
はぁっ。はぁっ。えっ!? もうバレたのか?
いや、いや、俺だけのために、門まで閉めるのかっ!?
門が、完全に閉まると思われた直後、怒号と共に再び門が開き始め、ある程度の幅が広がると、土煙を上げながら、騎馬隊が突入してくる。
銀色に輝く鎧の騎馬隊は、見たこともない旗を掲げている。
「敵襲だ!! 帝国だ!!」守衛たちが、口々に叫び出す。
俺は、足を止め、HPバーを確認する。HPバーは完全に赤く、殺意を示している。
短弓を構え、索敵スキルを発動する。
今までにない数に、頭が処理しきれない。俺は肉眼で捉えられる敵を撃つことにする。
高価な開閉式の兜を装備する騎馬隊の先頭集団。
完全に舐めきっているのか、閉じていないため顔を丸出しているアホが数名いた。
俺は素早く狙いを付け、矢を連続で放つ。
矢は面白いように顔面を直撃する。
騎馬隊も、数名が落馬したことで、俺の存在に気がつく。
指示が出され、数名が俺に狙いを定め、突撃してくる。
牽制のため矢を放った後、俺は近くの建物の中へ逃げ込む。
そこは2階建ての宿屋で、俺が入り込んだ場所は、玄関ホール兼食堂となっていた。
「帝国が攻めてきたぞっ!」と伝え、裏口から出て、屋根へ登り、身を潜める。
6名ほどが、家を取り囲み、10名の騎士が、建物内になだれ混む。
突然のことに対応できない食事中の冒険者、就寝中の商人、従業員のすべてを切り伏せられる。
ターゲットの俺が、裏口から逃げたと判断したのか、隊列へ戻っていく。
屋根に潜んだ俺は、息を殺し、様子をうかがう。
鉄砲水のように、村へ流れ込んだ騎馬隊は、子供以外を手あたり次第に斬りつけていく。
生き延びるためには、どうすればよいのか。
矢は残り6本。
血戦の卵、深淵の卵、薄命の卵がチャージ済み。
いやいや、戦うなんてありえないだろ。
このまま夜まで、いや帝国軍が引くまで、隠れていよう。
真夏の太陽が、昼の時間を告げる頃。
俺が潜伏している建物前に、騎士団が集結してくる。
俺は、こっそりと様子を見るなどもできるはずなく、ただじっとしているしかできない。
あまりの暑さに頭がぼーっとしてくる。水分補給が必要だ。
「一番隊から順に報告しろ」重く圧力が伝わる声の持ち主は、見なくても強者だとわかる。
絶対に勝てないだろう。
「はっ。一番隊、西地区担当。敵、殲滅。奴隷、33確保。物資、馬車8台分確保。以上であります」
次々に、各隊の報告が大声で告げられる。
内容を聞くと、老人、若者は殺し。子供は奴隷か。
まったくの鬼畜だなこいつら。
しかもこれから秋冬となるからか、食料まで持ち出そうとするとは。
「五番隊。救出担当。村長ダーンとその息子パーンを保護。護衛はその場で切り伏せました」
「ふむ。で。村長はどうした?」
奴隷とされる子供たちに、「大丈夫だ。安心しろ」などと声を懸けている村長ダーンであった。
しかし現在は、左右を騎士に捕まれ、騎士団長ラースの前に引きずり出される。
「もっと丁重に扱え。愚かな部下が、大変失礼したダーン殿」
見上げる村長ダーンの感想は、”地方領地の騎士団長と言えども、王国の騎士団クラスと比べても、遜色ない存在感を持っている”だった。
決して恐怖したわけではないが、礼節を尽くすことにする。
「村長のダーンでございます。この度は……」
騎士団長ラースは、よいと、手を上げ、村長の言葉を制す。
「しかし、この度の村の詳細な情報の提供、北門への細工、さらには守衛長を戦いから遠ざける巧妙な手腕。お前なら、帝国でも十分に活躍できるであろう」
ラースは、五番隊長へ目配せし、村長を下がらせた。
まさかの村長ダーンの裏切り!?
こいつは王国の権力争いで負けて、敵国へ乗り換えたわけか。
俺がキースとなって、まだ20日ぐらいだからか?
過去の記憶はあるが、なぜか怒りがこみ上げてこない。
この世界に来てからというもの。
獲った獲物の解体での悪寒も、死に対する恐怖も、殺人への罪悪感も、何かフィルタリングされているよな気分だ。
恐らく両親は殺されているだろう。
俺が、ちゃんとした伝説級の武器を持って来ていれば、村人は救えたはずだ。
うん? パーンは、どうしている?
俺やパーン、エルティアは、子供として認識されるのか?
この二階建ての建物の屋根から覗いても、見つからないとは思うが……。
「おい。突入時に弓を引いたガキを連れて来い」
「そ、それが。まだ発見に至っていません」若い騎士が報告する。
続けて、「また、守衛長フレインの生死も確認できておりません」
奴隷の子供たちへ向かっていた村長ダーンは足を止めた。
「ラース様。この村で、子供で弓を扱えるものは、狩人の息子キースだけであります。それにキースは、ラース様が突撃する直前まで、詰め所で守衛長府レインに尋問されていたはず。一体……」
俺が、主人公的なイベントキャラ扱いだ。
だが潜伏続行以外の選択肢はない。
「最後に、帝国軍の被害状況を報告いたします。死者12名。負傷者23名。以上」
「そのうち、ガキの弓での被害は?」
「はっ。死者5名。負傷者3名です……」
「で、ガキは、行方しれずか。やはり、索敵スキルを持つ騎士も必要だろう」
ラースは騎士候補に関する基本項目や保持スキルの条件変更を提案していたのだった。
どうしても騎士団は、戦闘一辺倒の基本項目や、剣などの保持スキル持ちばかりの構成に偏ってしまう。斥候などは、別で用意しなければならないのだ。
だが騎士団は、他の組織や人員との共闘を毛嫌いするため、結局、索敵スキルを持つ人員のいない、このような状況に陥りやすいのだ。
なるほど。索敵スキル持ちがいないのか。
ならばと思い索敵スキルを発動する。
70m以内には、敵しかいない。
騎士団長ラースは、索敵スキルを保持していないが、戦場における研ぎ澄まされた感覚により、キースのスキル発動を感じ取った。
「そこの建物の屋根だ」ラースの怒号が村に響く。