第四話 確かなもの
▼統一暦 4752年 8月 26日 ゴートウェイ王国:辺境の村シルブルズ
この世界で大人として扱われる年齢は13だ。今年が、最後の夏休み。
前世では有意義に遊び割り当てていたが、ここでは訓練に全日程を割り当てる。
働かなければならないと思うと、流石の俺も真面目になる。
毎日、朝日が昇る前に西門側の森へ出向く。
木に固定された的へ矢を放ち、持久力が半分になれば休憩する。
時間を無駄にすることなく、休憩の間に矢の修理して、持久力が全快すれば、先程より距離を取り、矢を放ち続けた。
この訓練方法で、射程距離が伸びることがわかった。
次に、大木の枝に的をぶら下げて揺らすことで、動物に見立てた訓練をする。
それを高い位置、低い位置、視界の外側など、数カ所に用意した。
これは命中率と、連射技術を伸ばすのに役立った。
指先の皮が捲れて血だらけになるが、”キングウリボー”から取れる謎の粘液を塗り、痛みを我慢し、矢を放ち続けた。これは父も祖父も、狩人なら誰もが通る試練なのだという。
オリジナルの訓練方法も考えた。
狩人は、通常、獲物に感づかれないよう動かずに矢を放つのだが、俺は、走りながらでも、ある程度、的に当てられるように訓練した。
これは対人用の練習だ。
昼からは、森へ入り索敵の練習をする。森の奥へ行くほど、強力な魔物がいる。
索敵には、3つの性能値がある。
まずは索敵範囲。
広いほど安全性が高まるのは当然で、好戦的な敵を先に発見できれば、見つかった場合でも、距離によっては逃げることも可能なのだ。
勿論、相手が自分より広範囲の索敵スキルを使ってくる場合もある。
次に、発見率がある。
これは敵が、アンチ索敵スキルである潜伏や、カムフラージュなどを使用している場合に役立つ。
勿論、性能がアンチ索敵スキルに負けていれば、全く役に立たない。
最後に魔力反応だ。
これは魔力を有する敵を見つけることができる。
透明化の魔法を使ったり、相手が防御結界を使用しているかも判別可能となる。
また野生動物と魔物の区別も可能だ。
森の奥では、ちょっとした失敗で、即死亡となる。
命がけの訓練で、索敵のスキルの精度は、目に見えて上がた。
勿論、強力な魔物に短弓で対抗しようなどとは思っていない。
理由は簡単で、歯が立たないからだ。
また森の奥では、短弓の元の材料となる苧や麻の上級バージョンが入手できるため、短弓の強化と修復に役立った。
索敵の訓練を終え、いつもの木陰で、帰り支度と狩りの準備を始める。
最後の狩りは、なるべく多くの種類を狩ることにしている。
いかなるパターンにも即座に反応できる経験を積むためだ。
といっても、森の入り口なので、手こずるほどの野生動物も魔物も出てこない……はず……だった。
これが、フラグってやつか。
索敵スキルに、猛スピードで飛来してくる敵が引っかかる。
相手は、”突撃カラス”であった。
全身が、ヒョウ柄(この世界にヒョウいるのかな?)、くちばしが赤色、そして翼開長が5m。
こいつは木の枝から削り出した槍を両足に持ち、すれ違い様に目や心臓などを正確に突き刺してくる。
初心者冒険者では、突撃カラスのスピードと回避に、対抗する術はないとまで言われている。
突撃カラスは、別名、森の死神とも恐れられて、不幸にも出会ってしまった者は、確実な死が待っている。
現在の索敵範囲は70m。その距離はアドバンテージとならなかった。
認識して矢に手をかける前に、突撃カラスの一撃が、心臓を狙っくる。
俺は、こんな時だが、不思議な感覚を覚える。
恐怖が無いのだ。
元々死んだ体だからなのか、転生者なのかはわからない。だが、冷静に心臓を狙われていること。
そして回避しても突撃カラスには、狙いを修正できる余裕があることが理解できた。
短弓で防御可能だが、破壊されれば、攻撃手段がなくなる。
そこで、深淵の卵による防御を選択する。
突撃カラスは、寸分違わず心臓を狙ってきた。
しかし刺さる直残に影の手で、木の槍を掴み地面に引きずり込む。
突撃カラスは、心臓に刺す直前だったため、槍を持つ足に力を込めていた。
それが仇となり、槍を放すことができずに、地面に激突する。
地面で痙攣する突撃カラスに、腰から抜いた短剣でとどめを刺す。
再度、安全確認のため、索敵スキルを使った。
突撃カラスの恐ろしいところは、単体の強さよりも、集団だ。
索敵スキルに、まだ4羽の反応がある。
今度は、3羽同時に攻撃を仕掛けてきた。
深淵の卵のチャージは、影の大きさと滞在時間らしいが、影の手を複数だせるのか、実験しいなかったことが悔やまれる。
また血戦の卵を同時に使えるかも試していなかった。
俺は索敵の結果と目視から予想を立てる。
前方から目、背後から心臓、右側から脇腹を狙われているだろう。
そして対処方法として、背中からの攻撃を深淵の卵で、目を短弓で防御、右側からの攻撃は、右腕を犠牲にすることにした。
背中から攻撃してきた突撃カラスは、前回同様に地面に叩きつけることができた。
目の攻撃も短弓は破壊されたが、どうにか防御に成功した。
右腕に刺さった槍は、貫通して地面に突き刺さった。
”復讐の卵のチャージ条件が満たされました。”頭の中に、アナウンスが響く。
”力が欲しいか!!圧倒的な力が!!自らを生贄とし、敵を滅ぼさん。”
”ハハッ!! イタイダロ!! シニソウカ!? メニミエルスベテヲ、ミチヅレニシロ!!”
この切羽詰まったときに、カーズ君と、死神さんの狂気のフレイバー・テキスト。
■復讐の卵:10倍返し可能な魔物を召喚する。
チャージ方法:ダメージを受ける。1チャージのみ。
ヒント:致命的なダメージを受けるほど強化。ダメージを与えた敵のみ敵を殲滅。
即座に、復讐の卵を発動させる。10m前後の魔物が出現した。
形はドラゴンだが、ステータスビュワーでは、ワイバーン(子供)と表示されている。
残り3羽の突撃カラスは、突如現れたワイバーン(子供)から、逃げるように方向転換した。
だが、圧倒的なワイバーン(子供)の飛行能力により、射程距離を縮められ、強力なファイヤーブレスにより、1羽をオーバーキルした。
よしっ! 残り2羽。勝利が見えかけたとき、ワイバーン(子供)は消え去った。
えっ!? 呆然とする中、復讐の卵の説明を見直した。
”ダメージを与えた敵のみ敵を殲滅”と書かれている。つ、使えねぇ……。
深淵の卵で、1羽を防いだとして、もう1羽はどうする!?
血戦の卵と同時使用を試してみるか……。
ワイバーン(子供)が消えたことで、舞い戻ってきた2羽の降下が始まる。
1羽の木の槍は短弓で防いだはずだが、なぜか、また新しい木の槍を持っていた。
考えている時間はない。
血戦の卵を発動させようとしたとき、青く輝く矢が後方から頭上を通り、突撃カラスを貫く。
振り返ると、金色の鷹の刺繍で飾られた紫のローブとクイクイ木の杖を持った魔道士がいた。
この村では誰もが知る”辺境の魔女”その人だ。
俺が、死にものぐるいで倒した突撃カラスをあっさりと葬るとは。あれが魔法ってやつか。
「ふむ。キースの坊。これはどうしたことだい?」なぜ俺の名前を知っているのだ!?
ワイバーン(子供)の反応と、突撃カラスの反応、そして、俺の反応を見つけて、興味が湧いたとのこと。
俺は、ワイバーン(子供)に関して、知らぬ存ぜぬを貫き通す。
だが、突撃カラスが、矢ではなく地面に叩きつけられて死亡している不自然さを見抜かれたが、魔女は何も言わなかった。
魔法による腕の治療は、回復系の魔法がなく無理とのことで、出血を止める薬草で治療してくれた。
治療が終わると、興味を無くしたように、来た道を帰っていった。
俺は、深淵の卵で殺した激突カラスを地面に埋めるか悩んだが、家に持ち帰らずに売ってしまえばわからないだろうと考える。
魔女が殺した2羽と合わせて、4羽を持ち帰ることにする。
次なる敵が来る前に、俺も急ぎ足で、北門へ帰る。
北門が視界に入りホッとする。
余裕が出てきたところで、突撃カラスとの戦闘について考察する。
まず最初に。あれだけ訓練した弓矢を、一切使ってないことに気づく。