第三話 開放される力
血の海に眠るモノマネうさぎさんに手を触れたとき、それは起こる。
”血戦の卵のチャージ条件が満たされました。ファースト・ロックを解放します。”
突然、頭の中で、ファンファーレと共に、アナウンスが響く。
”えーっと。”
”血で血を洗う狂気の中に創られし魔剣。手にした魔剣は、道を切り開けるか?”
”ハハッ!! キッテネ!? ザックリネ!? バッサリネ!? バラバラニッ!!”
カーズ君と、死神さんが読み上げるフレイバー・テキストは、俺をイラっとさせる。
■血戦の卵:血液から攻撃力1.5倍の剣を生み出す。決して止まらない出血効果付き!!痛みなし!!
チャージ方法:血の吸収だよ。1チャージのみ。
ヒント:提供者の強さにより攻撃力が強化される。1チャージで5分使用可能。
えっと、モノマネうさぎさんの威力って、4ポイント……。その1.5倍って……6……。
ゴミじゃん、こんなスキル。
血抜き用の短剣を忘れていたので、血戦の卵を発動させる。すると、右手に刃渡り10cm程の赤黒い短剣が召喚された。グリップ部分に血管のような飾りがあり、ドクンドクンと脈打っている。
うわーっ。これは酷いデザインだ。センスを疑う。
頸と尻尾を切り、血抜きをする。通常よりも血が落ちるスピードが早いというよりも、吹き出している? うん? これが出血効果なのか?
召喚した短剣は、5分を待たないで消すことが可能だった。一応、再チャージしておく。
血抜きが終わり、持ち運びしやすく両足を紐で縛る。
あっ。俺、アイテムボックス使えるじゃん。死んだ動物を持ち運ぶのって抵抗あるし。
■アイテムボックス:鏡を介して物の出し入れが可能です。出し入れできるサイズは鏡の表面積に依存します。また最大収納量は、トイレの個室並みです。生き物は、絶対に入れないでね。
はっ!? 鏡がないと使えねーのかよ。ていうか、この世界に来てから鏡って、見たこと無いぞ。
俺、キースって、どんな顔してるんだ? イケメンなのか? やばい気になる。
鏡を探すべく、俺は狩りを止めて、村に帰還することを決意する。
熱中症予防のため、木陰に腰を下ろし、バックパックから、革製の水筒を取る。
革製の水筒は、ちょっと匂いがするので苦手だが、そこは我慢して、グビグビ飲む。
”深淵の卵のチャージ条件が満たされました。”頭の中に、予期しないアナウンスが響く。
すると、キタキタ。カーズ君と、死神さんの狂気のフレイバー・テキスト。
”深淵からの呼び声に耳を傾けよ。汝、声に答え、未来を差し出すのだ。”
”ハハッ!! スベテキエロ!! コドモモ、セカイモ、ナニモカモ!!”
■深淵の卵:影へ生命以外を引きずり込む。
チャージ方法:影に佇む。1チャージのみ。
ていうか、影の中にいないと使えないから、チャージ意味なくね?
ヒント:影の大きさと滞在時間により強化。
まさかのイカれた卵の2個目の利用方法をゲット。影なんて今まで散々入ってきたのに、もしかして、ロックが解除されたからか?一応、どんなものか、試してみることにする。
目の前のちょうど良い、切り株があったので、それを意識しながら、深淵の卵を発動させる。
影から1つの手(影の手)が伸び、切り株を掴んで、あっさりと、影に引きずり込んでしまった。
切り株って、掘り起こすの大変なんだよな……。こいつは意外と使える卵なのか!?
帰宅すると、父カールがいたので、猟ったモノマネうさぎを渡す。父は、モノマネうさぎを観察しながら、狙うべき箇所と、縄の使い方について、指摘する。指導された内容は、なるほどと納得いくものだった。
俺は、もっと性能の良い短弓をおねだりしたが、スリープシープを討伐できるぐらいになれば買ってやると言われた。名前の通り、睡眠魔法を使用する恐ろしい魔物だそうだ。多分、絶対に達成できない条件なんだろう、だって、買う気がないのは、顔をみればわかる。
それよりも、今は、鏡を探さなければならない。驚くことに、我が家には、1つもなかった。
どーすっかなー。としばらく考え、村の雑貨屋ならあるだろうと、村の北側へ歩き出す。
歩いている最中に、これからの戦い方を考察する。
使い方によっては、卵も使えなくはないが、攻撃のメインとしては、かなり厳しい。新しい武器も手に入らなそうだし。魔物を討伐しまくって、レベルアップするしかないのかな?
っていうか、レベルの表記を、ステータスビュワーで見たこと無いぞ?もしかして、ステータス固定なのか?? いや、それは不味いぞ。えっ!?俺って、最弱??
「キース。道の真ん中で立ち止まって、どうした?」
不意に声を懸けられて、振り向くと、気まずそうなパーンが立っていた。
「パーン……」
あのクマさん事件以来、パーンとの会話は今回が初となる。パーンは気まずそうだが、正直言って、俺は、見捨てられて死んだことの実感が無く、どうでもよかった。
「キース。お、お前に……」
「あっ。パーン。そんなことより、教えて欲しいことがあるんだが?」
レベルアップの仕組みを質問したが、”レベルアップ”とは?みたいなリアクションをされる。この世界では、知識や筋力などを使い込み熟練度を上げることで、ステータスが上がるようだ。
モノマネうさぎさん狩り専門にならなくてよかった……。と、ホッとする。
うん?逃げたことを謝ろうとする気まずそうなパーンを見ながら、気になったことがある。
精神力って、項目があったな。アレってやっぱり、強い精神とかのことで、強敵に向かって行く感じの意味も含まれているよな。確か、俺が2ポイントで、パーンが4ポイントだったはず。ポイントが高いパーンが逃げて、低い俺が立ち向かっている?つまり、戦いの勝敗は、ポイントだけで決定するものではない!?この場合は、父に連れられて野生動物や魔物に慣れていた実際の経験の差なのか?
「そ、それで、前の討伐のときのことなんだが……」
「あー……。それは、本当にもういいよ。あっ、それより、パーンの家に鏡ある?」と言いながら、パーンの自宅に向かう。
流石、村長の家というだけあって、大小様々な鏡があった。しかし、パーンが見てる前で、アイテムボックスのスキルを使うこともできず。自分の顔を確認するぐらいしかできない。
あーっ。恋愛イベントは期待できないぐらいの普通の中の普通って顔でした……。
「で?鏡がどうした?」
「いや、目にゴミが入ってしまってな……、」ちょうど涙目になっていて、説得力がアップする。
使わない手鏡をもらってしまった。後でゆっくりと、アイテムボックスが試せる!!
「なぁ。キース。今度、俺はパーティを組んで、冒険ギルドの依頼を受けようと考えている。今度は、仲間を見捨てて、逃げたりはしない。絶対だ」
「パーティ?メンバーは、誰だ?」貰った手鏡をバックパックにしまいながら、聞いてみる。
「俺は聖騎士を目指していたが……。お前も知っているように、もう叶わぬ夢だ。ならば、冒険者として、俺は剣士を目指す。メンバーは、まだ決めていないが、お前の他には、攻撃魔法と回復魔法の使い手がほしいな」
「うーん。ちょっと考えてみる」正直、冒険者は無いな。俺、スペック足らないし。
このままでは、無理やり参加させられそうなので、退去することにする。
玄関で、村長ダーンと出くわし挨拶をしたが、完全にスルーされた。正直、殺したい。