第二話 戦う力
▼統一暦 4752年 8月 13日 ゴートウェイ王国:辺境の村シルブルズ
朝目覚めてから、これからの人生設計を繰り返し考えている。
伝説の武器?をこの世界に持って来れなかった時点で、英雄、勇者なんて選択肢は消える。
デフォルトスキルのステータスビュワー(他人の閲覧も可)とアイテムボックスだけが、俺のアドバンテージだ。
そして、これが俺のステータスとなる。基本項目から総合項目が算出されるのだ。これが12歳男子の中で、どの程度のステータスなのかは、比べてみないとわからなかった。
■キース
基本項目 総合項目
筋力:5 命中:16
器用:7 威力:16
敏捷:6 強度:11
生命:4 回避:18
耐久:2 魔力:9
持久:5 魔術:11
知識:3 抵抗:10
精神:2 HP:110
集中:6 MP:110
■パーン
基本項目 総合項目
筋力:8 命中:17
器用:7 威力:21
敏捷:5 強度:19
生命:6 回避:20
耐久:5 魔力:15
持久:8 魔術:14
知識:5 抵抗:14
精神:4 HP:190
集中:5 MP:140
同い年のパーンと比べると、明らかに差があった。考えるに、王都ラフィレス出身の元貴族パーンと、辺境の村シルブルズ出身の狩人の息子キースでは、育った環境が異なる。思いつく違いは、3つだ。1つ目は、毎日の食べ物の質と量の違い。2つ目は、教育の違い。3つ目は、より質の高い子孫を残そうとしていたか。これらが、ステータスの差として現れているのではないかと結論づける。
ステータスが、どこまで伸ばせるかはわからないが、未知なる神秘な素質なんて、あるはず無く……。現段階で、勝負の行方は決まってるだろう。
平凡以下の俺は、おとなしく父親と同じく狩人になり、まったりとした人生を送ることにする。
俺が保持しているスキルは、◆弓(命中率:2、射程距離:1、連射技術:1)、★索敵(発見率:2、範囲:3、魔力反応:1)の2つのみだ。弓は、パッシブスキル。索敵は、アクティブスキルだ。
ちなみに俺のステータスビュワーは、他人のステータスの他にスキルや職業なども見れるのだが、今回はステータスの違いを調査するためだけなので、表示はさせなかった。
この世界の運動量に対する対価は、100mの全力ダッシュで、基本項目の持久力が1ポイント消費される。つまり”-1”だ。基本項目が減れば、総合項目も影響を受ける。ただし基本項目は、半分以下にならないと、村の学校で教えられた。ちなみに1km歩いても、持久力は1ポイントだった。
さらに言えば、剣の打ち合いでは、攻防どちらも10回で1ポイントを消費する。弓も同様だ。ここらへんの基本的なことは、弱者も強者も、人間も魔物も一緒だとのこと。
アクティブスキルを使用した際にも、そのスキルで定められた基本項目が、消費ポイントととして減る。またアクティブスキルには、発動条件として、必須ポイントが設けられている。
例えば、俺の持つ索敵スキルは、発動条件として集中が2必要だが、性能が低いため、消費ポイントは集中1ポイントで使用可能だ。
そして俺はひらめく。もしかして、発動条件が集中2、消費ポイント1ということは、先程のルール(基本項目は、半分以下にならない)で考えると、半分3以下にならないのであれば、使いたい放題じゃね?しかし、世の中そんなに甘くない。
基本ステータスが半分になった時点で、その項目、つまり集中ならば集中を消費するアクティブスキルは、一切使用できなくなることがわかった。
”持久が半分になればダッシュもできない”というこの世界の常識を考えれば、自ずと答えは出たはず。馬鹿なのか俺……。
うーん、ということは、回復しなけらば、連続で索敵3回しか使えません……。
自分がゴミスペックだと気づいて、気持ちも楽になる。
さて、狩人として最低限の仕事ができるように、訓練せねば!!
日差しが弱い午前といえども、夏は夏らしく、マジ暑い。それでもガンバレ俺。そして、前回のキース殺害現場であるクマさんポイントとは、別の方角の森へ来た。しかも森に入らず、手前で獲物を探す腰抜けっぷりの計画を予定していた。
まずは、家から村の北門を抜けて、現在、ラーサリル帝国と戦時中のため閉じられている西門の外側に来た。西門から続く道は、帝国の地方領地ナミメラと繋がっている。ここに来た理由は、誰にも特訓を見られたくないという理由だ。監視塔から死角になる狩場を選ぶ。ここまで約2kmの距離を歩いたため、持久が2ポイント減っている。回復スキル・回復魔法・回復薬などの手段は、現時点ではないので、自然回復に任せる。5分で1ポイント回復できる。これも共通のルールだ。
10分待ち、全快回復後、スキルを発動させる。”索敵”!!
半径30m以内の敵を探し出せるようだ。目の前の藪に、”モノマネうさぎ”さんが、隠れている。
モノマネうさぎさんの姿は見えないが、HPバーが表示されている。
うーん。これって、こちらが相手を認識するまで、表示されないのか。いやいや、HPバーは、ステータスビュワーが表示させているので、俺だけの特権なのだ。贅沢を言っては駄目だ。HPバーの利用方法としては、背景色も利用できる。背景色が緑ならこちらを認識していない。白なら友好的。青なら敵意なしというか、格下扱い。黄色は警戒されている。そして赤は、殺意に満ちている!!
現在は、青だ。流石、野生動物!先に認識されていたのだった。しかし、あることに気がつく。青ってことは、俺、雑魚扱いされている!?
モノマネうさぎさんのHPは、45ポイント。ステータスビュワーによると、相手の強度は、4ポイントと表示されている。
ちょっと考えてみる。俺の総合項目の威力が16ポイントで、”親父が練習用で作った短弓”という名の短弓の性能が、威力+2、命中-2だ。矢の性能は、威力+1、命中-1だ。計算すると、威力が19ポイントとなる。もし命中したら、どの程度のHPを削れるのだろうか?
警戒されていないため、回避されることはないと思うが、命中するか怪しいところだ。弓矢の命中が-2ポイント、弓スキルの命中が+2ポイントで、総合項目の命中が16だ。
距離は、弓スキルの補正発動圏内の8m。僕は覚悟を決め、矢を放つ!!
矢は、少し山なりな軌道で勢い良く藪に吸い込まれた。「女房には内緒だぜ!!」と絶叫しながら、モノマネうさぎさんは、茂みから飛び出してきた。矢は左腹部に命中している。
モノマネうさぎさんは、俺が思っていたのよりも大きかった。犬で言えば中型犬ぐらいだ。毛は白く短いがさらさらつやつや、しかし、出血で一部真っ赤になっていた。
HPバーを見ると、残り22ポイント。”弓矢の威力 - 相手の強度”で、最低でも15ポイント減ればいいなと思っていたところ、23ポイントも奪えてのだ。命中した箇所も影響するのかなと?勝手に解釈する。しかも半分近くのHPが残っているにもかかわらず、モノマネうさぎさんは、倒れたままピクピクして逃げることもできないようだ。
とどめを刺そうと思ったが、モノマネうさぎさんのHPバーが、みるみる削れていくではないか。
しばらく様子を見守ると、最終的にバーが、完全に消えた。うーん、最後まで、苦痛を与え続けてしまったことに、後悔した。ごめんなさい。
俺の異世界、狩り生活が此処に始まる!?