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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Re: end

作者: 帰り

 

 朝から酷いどしゃ降りだった。


 大通りに繋がる静かな道が毎朝一緒に登校している彼女との待ち合わせ場所だ。


 彼女の乗った電車はもう駅に着いてしまった、いつもより遅れてしまった俺は脚を早める。


 目的の場所への角を曲がって、既に来ていた彼女が見えて、そして彼女は―――俺の目の前で崩れ落ちた。


 背後から突然襲われたのだ。


 彼女のお気に入りの傘がぽろりと手から離れる。


 俺は濡れるのも気にせず膝をつき、背中に包丁の刺さった彼女を抱き締めた。


 打ち付ける雨に彼女の暖かさが遠くなる。


 頭が真っ白になった。


 彼女はやっと刺された事態を理解したのか、痛みに顔を歪ませ泣き出した。


 制服を赤く染める血の量に、俺はもうじき彼女の笑った顔も何もかも見れなくなるのだと急速に実感した。


 迫り来る彼女を失う恐怖に、ガクガク震える彼女を更に強く抱き締める。


 俺の願い虚しく彼女の呼吸は止まり、だらりと力が抜けた。


 俺の咆哮に近い叫びは割れんばかりの雷鳴と強い閃光に消えた。











 朝から酷いどしゃ降りで。


 彼女との待ち合わせ場所はもうすぐそこだ。


 違和感に、ふと足を止めた。


 …さっき確かにこの腕の中で彼女は最期をむかえたはずなのに。


 しかし日付と時間は間違いなく今日を示している。


 夢、だったのか?


 足は自然と速くなる。生きている彼女が角を曲がった先にいる。


 また彼女に会える…!


 ―――そう思ったのに。


 やっぱり夢じゃなかった。


 さっきと違い、彼女は抵抗した。俺も怪我を負った。


 でも彼女は倒れた。より多くの傷をつくって。


 俺はまた彼女を失った。


 最近彼女の近くをうろつく男が居るのを知っていたのに。


 彼女が、怖いとか不気味だと 言っていたのを知っていたのに。


 俺はちゃんと忠告したのに。


 俺はどうしたらよかったんだ…!


 項垂れる俺はまた雷鳴と閃光に包まれた。











 またここからだ。


 視界もままならない酷い雨。


 間違いない、繰り返(ループ)している。


 と、その時。


 彼女が曲がり角から飛び出してきた。


 逃げるようにそのまま車道を突っ切ろうと走って、彼女はブレーキ音を響かせるトラックに吹っ飛ばされた。


 あっという間の出来事だった。


 我に返った俺は彼女に駆け寄り、あらぬ方向に曲がった彼女の手をとる。


 虚ろな眼から溢れるのは涙か雨かわからない、唇が僅かに動いたけれど声にならない。


 事切れた彼女の名を何回も呼ぶ俺の声は雷に打ち消された。











 はねられた彼女の行動を見て、繰り返(ループ)しているのは俺だけじゃないと気付いた。


 その通り、今回彼女は飛び出すようなまねはしなかった。


 代わりに曲がり角の先から彼女の悲痛な叫びが聞こえた。


「助けて!殺される…!」


 俺は急いで角を曲がった。


 可愛らしい傘の下から覗く泣きそうな目と合い、俺はホッとした。


 しかし彼女は違った。


 ガタガタと震え、息は上がり、怯える。


「い、いい加減にして…!あなた、誰?なんで私に付きまとうの…!」


 彼女は俺に言った。


 俺は耳を疑った。


 いつも傍にいた俺を忘れたのか?

 付きまとっていたのは俺じゃない、あの男だろ?


 彼女は何度も死を体験しておかしくなってしまったのか?


「ま、毎朝、私のあと着けてますよね…?変なメッセージもあなたでしょ…?…私のこと、監視してるみたいな…。」


 彼女の言っていることが理解できない。


 俺はいつもここで彼女を待っていて。後から彼女が来る。

 彼女が時折視線をくれるのを見ながら静かに登校するのが俺達の日常だ。


 俺の愛が重すぎる自覚はある。


 でも、顔色が悪ければ心配するのが彼氏だろ?

 好きだから、他の男と仲良くしていれば不安になるだろ?


 今日を繰り返すのだって彼女があの男に思わせ振りな態度をしたせいなのに。


「もう嫌、いやだよぅ…、助けて、また私殺される、助けて…


 ――君。」


 …あの男!!!


 彼女が通話していた相手の名前に、俺の心が悲鳴をあげる。


 俺は忠告したのに!君はまた俺を裏切るのか!


 体は勝手に動いた。


「…!ゃっ!?はぁっ…、…ぁ…ぁ…。」

 包丁は彼女の脇腹に根元まで刺さり、彼女は僅かな声で小刻みにあえぐ。


「…君。」


 忌々しいあの男の名を呟いて崩れ落ちる彼女を抱き寄せ、もう一度包丁を押し込む。


 痛いだろ?苦しいだろ?怖いだろ?


 俺だって同じだ、俺の気持ち、分かってくれるよな?


「―――おい!なにをしてる!手を離せ!!」


 俺は突然後ろから捕まれ引きずり倒された。


 押さえつけられ、男の怒号が上から聞こえる。


「女性が怪我をしている!救急車呼べ!」


 気づけば赤いランプが規則的に辺りを照らしていた。


 水溜まりの向こうに彼女の落とした携帯電話がぼんやり見える。


 あぁ、あの男が呼んだのか…。


 俺はパトカーに押し込まれ、彼女は救急車で運ばれていった。


 その後は曖昧だ。


 雷は鳴ったか?空は光ったか?

 全てを巻き戻す轟音と閃光は?


 わかるのは、彼女が助からなかったと聞いた時には俺の手には冷たく重い手錠があった事。


 確かな事実に俺は目を閉じた。































 撥水の効いたフードが大粒の雨を弾く音がする。


 煩わしいどしゃ降りも懐かしくすらある。


 俺の心は軽い。











 彼女はあと何回死んだら俺が彼氏だとわかってくれるかな。

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