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いざ海へ

 それからケントたちは丘陵を降りると、行きと同じく六時間を掛けてエウロスまで帰ってきた。


「ふー、やっと帰ってこられたか」

「そうね。って言っても、ここに来てすぐに依頼を受けて出ていったから、あまり帰ってきたっていう感じはしないかも」


 この街に帰ってくるまで慌ただしく動き回ったものの、依頼を受けたのは昨日のことであり、その間この街にいたのもせいぜい一時間程度である。そのため、彼らの目にエウロスの街並みは、まだまだ新鮮なものに感じられていた。


「さて。日も落ちてきていることだし、急いでギルドに報告に行こう」


 既に辺りは暗くなりつつあり、周りの店も閉店の準備を始めている。ギルドが閉まる時間はまだ来てないにしても、報告は迅速であるに越したことはない。一行はギルドに向けて歩を進めていった。


「ああ、皆さま。お帰りなさいませ」


 そして数分後。ケントたちがギルドの受付まで到着すると、レレミアが昨日と変わらぬ淡々とした口調で皆の対応に当たった。


「その様子ですと、どうやら無事に依頼をこなせたようですね」

「ああ。そして、報告しなければならないこともある」


 リューテはそう言って、携帯していた袋から討伐した魔物の身体の一部が入った包みを取り出し、それをレレミアの前に置く。


「ギルドの見立て通り、あの丘陵には本来生息していないはずの魔物がいた。これがその証拠だ」

「ふむ……」


 レレミアはそれを受け取ると、包みを解いて中身をあらためた。


「確かに、あの場所にこのような形の尻尾が生えている魔物はいませんね。もう少し詳細な特徴を教えてもらえますか?」

「そうだな。外見は緑色の鱗を生やした竜の魔物だ。二枚の翼で空を飛び、更には高度な風の魔術を行使してきた。強さとしては、Bランク相当といったところだ」

「なるほど……」


 そこまで聞くとレレミアは、近くにある棚から一冊の本を取り出し、それからケントたちに向き直った。


「すぐに調べます。少々お待ちを」


 そして魔物の尻尾と共にそれを持ち出して、後ろにいた他の職員たちと共に何やら調べ始める。

 やがてその作業が終わったようで戻ってくると、ケントたちにこう告げた。


「お待たせしました。あなた方が戦ったのは、恐らくこの魔物ではないでしょうか?」


 レレミアは手に持っていた本のとあるページを開いて、それをリューテたちに見せる。


「ああ、その通りだ。名前は……ヘルムドレイクというのか」

「文献によれば、この魔物は二十年以上前に絶滅種に指定されていますね。それが今になってあの丘陵に現れるとは、何とも不可解な話です。これも異変の影響なのでしょうが……」


 本来ならいないはずの魔物が現れるというのは、これまでの異変と同じである。しかしヘルムドレイクがどこから来たのかといった情報はなく、異変の正体にはやはりまだ近付けずにいた。


「とはいえ、これで我々が目星を付けた地域の調査は全て完了しました。この辺りの魔物の数も元に戻りつつあるという報告も受けておりますし、もう何日かすれば商人もこれまで通りの活動が出来るようになるでしょう。もう彼らの苦情を聞かなくても良いと考えると、少しだけ肩の荷が降りた気分です。ええ、本当に」


 しかしそれでも、当面の危機は去った。エウロス付近の魔物の増加は収まり、少しずつ元の穏やかさを取り戻している。後は商人が仕事を再開すれば、この国の流通は守られる。ケントたちの仕事は、ひとまず完遂となった。



「では、こちらが今回の依頼の報酬です。また何かあれば、よろしくお願いします」


 こうしてレレミアは依頼を達成した証として、報酬の入った袋をケントたちに差し出す。そして、彼らがそれを受け取ったのを見て恭しくお辞儀をした。


「よし。これで依頼も達成したことだし、ようやく腰を落ち着けてこの街を観光出来そうだな」

「折角なら、この街ならではの体験をしたいわよね。レレミアさん、何かおすすめの場所ってあるかしら?」

「おすすめですか……」


 エルナにそう訪ねられると、レレミアは頭を上げてしばらく考える。そして、数秒の間を空けた後にこう答えた。


「でしたら、海水浴を提案いたします。海で泳ぐというのは、この街でなければ体験出来ないものですから」

「海水浴かあ。いいわね、面白そう! 皆はどう?」

「面白そうですし、私は賛成です。ただ、水遊びをするなら水着を買う必要がありますね」

「泳ぐついでに釣りもしたいな。釣り道具を貸してくれる店って、どこかにあったりするのか?」

「勿論ありますよ。何せ、ここは海の街ですから」


 エウロスはこの国随一の商業街であり、更には観光地としても人気の街である。そのため水着にしても釣り道具にしても、海に関する品物は王都ですら比較にならない程に取り揃えられていた。


「後は、どこで泳ぐかだな」

「どこって、この街に海水浴場があるんじゃないのか?」

「勿論ある。ただ、街の外にある砂浜よりも安全な分、人も多くてな。のびのびと遊ぶにはいささか不自由というのが難点だ」

「そうなのか。確かに人がいると釣りもしにくいよなあ。どこか人気の無い、穴場みたいな所があればいいんだけど」

「それなら、この街から少し離れた所に、泳ぐのに丁度良い海岸がありますよ。一応、魔物に遭遇したという報告も今までにありません。もっとも、それでも街の外なので安全は保証いたしかねますが」


 安全性を重視するために、人の多さを我慢して街内の海水浴場にするか。それともリスクを考慮したうえで仲間内で気兼ねせずに遊べる外の砂浜にするか。ケント自身は後者が良いと考えていたため、他の仲間にもそれを尋ねてみた。


「なるほどな。どうする? 外の方に行くか? 万が一魔物が出たとしても、俺たちならどうとでもなるだろうし」

「そうねえ。私もどちらかというと、周りを気にしないで遊べる方がいいわ」

「折角遊ぶなら、思いっ切り遊びたいですからねえ! それに、魔物が襲ってきてもいざとなれば、ワタシが追っ払ってやりますよ!」


 女性陣も街の外で泳ぎたいという意見で一致しており、こうして明日の大まかな予定が決まった。


「よし! それじゃあそろそろ宿を取って休むとするか。明日は存分に遊びたいからな」


 ギルドでの全ての用事が終わったところで、ケントたちは宿の確保に向かうべくレレミアに背を向ける。


「ではレレミアさん、今日のところはこれで失礼する。もうしばらくはここに滞在するつもりだから、何か急ぎの依頼が入った時はいつでも私たちに知らせてくれ」

「はい、その時は是非とも頼りにさせてもらいます。それでは皆さま、良い休日を」


 レレミアは軽くお辞儀をして、ギルドを出ていくその背中を見送る。

 段々と日が沈み、朱く染まる道の中。ケントたちは仲間と共に過ごす団らんを心待ちにしながら、宿までの帰路へと着いていた。

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。次回以降もお付き合いいただけますと幸いです。


最後に、評価・ブクマ・感想等いただけますと大変励みになりますので、よろしければお願いいたします。

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