再開
翌朝、ケントとエルナは起床してすぐに王都へと出発した。道中は特に何事もなく、馬車に揺られること数時間。日が頂点に達した頃に、二人は懐かしき王都に到着した。
「この景色も久しぶりね」
「ああ。ようやく帰ってきたな、王都に」
ケントたちは馬車から降りると、御者に別れを告げてから仲間のいる屋敷まで歩き出す。
大勢の人が行き交う大通り、噴水広場で遊ぶ子供たちの声や市場から聞こえてくる威勢の良い声。二人の目の前に広がる光景は、かつて自分たちが初めて王都を訪れた時と何ら変わり無い姿を見せていた。
そして歩くこと数分。二人は目的地へと辿り着いた。アデルマギア家の別邸、今は彼らの活動拠点となっている屋敷を、二人は見上げる。
「皆、いるかしら?」
「どうだろうな。ちょうど昼頃だし、ギルドの依頼で出払ってるとかじゃなきゃ皆いるだろうけど」
二人は屋敷の扉を開けて中に入る。するとすぐに、一人の少女の姿が目に留まった。
「……あっ! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」
そこにいたのは、マヤだった。マヤはケントたちの姿を見つけるなり、嬉しそうに駆け寄る。
「マヤ!」
「えへへ。お帰りなさい、二人とも!」
「ただいま。二週間ぶりだけど、元気そうで良かったよ」
「おや。お二人とも、帰ってきたのですね」
するとニュクスもまた、懐かしい声を聞き付けて居間の方から姿を現す。ニュクスはいつものように穏やかな笑みを浮かべながら、玄関まで歩いてからケントたちに話しかけた。
「無事に修行を終えられたようで安心しました。この二週間、お二人がいなくて少し寂しかったですよ?」
「ええ。私も、また会えて嬉しいわ。ニュクス、マヤ!」
四人は二週間ぶりの再会を喜び合う。それから軽く談笑したあと、ケントがニュクスにこう尋ねた。
「ところで、リューテとソニアはいるか?」
「ああ、あの二人でしたら、ギルドへ依頼の報告に向かっているところです。そろそろ帰ってくると思うのですが……」
「うわああああああい!」
その時だった。突如として歓喜の声が響き渡ったかと思うと、ケントとエルナの背中に何者かが勢い良く飛び付いた。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
二人が驚いた様子で振り向くと、そこにはソニアが尻尾をパタつかせながら抱き付いている姿があった。
「二人とも、おっ帰りなさーい! 会いたかったですよー!」
「ああ。お前も、相変わらず元気そうで何よりだ」
「ケント君、エルナちゃん。帰って来てたか」
すると、ソニアの後方からそのような声と共に、リューテがゆっくりと歩いてくる。
「久しぶりだな。修行の方はどうだった?」
「ああ、バッチリだ。俺もエルナもこの二週間、みっちりと鍛えてきたからな。きっと皆の力になれるはずだ」
「そうか。それを聞いて安心したよ」
自信満々といった表情を浮かべる二人を見て、リューテは満足げに微笑む。そして、その表情のままこう続けた。
「それにしても君たち、いいところに帰って来てくれたな。実は先程、ギルドから調査依頼を頼まれたんだ。君たちがいない状態で受けるわけにもいかないからひとまず話だけ聞いてきたのだが、これなら明日にでも仕事を再開出来るな」
「おっと、早速か。それで、どんな依頼なんだ?」
「ほう、気力は十分といった感じだな。だがその前に、まずは家に上がろうじゃないか。詳しくはその後だ」
再会を喜ぶのもそこそこに、ケントたちは明日からの予定を腰を落ち着けて話し合うため全員で居間へと向かっていく。
「では、依頼の内容について話していこう」
そして、テーブルを囲むようにして座ると、リューテが話を切り出した。
「私とソニアちゃんは今日まで修行の一環として魔物討伐の依頼を受けていたわけだが、つい先程ララベルさんから調査依頼の話をされたんだ。私たち全員で、東の街に向かってくれないかと」
「東の街っていうと、たしかエウロスだよな? 何かあったのか?」
「何でもここ最近、エウロス付近に出没する魔物の数が目に見えて増えているらしくてな。その対応にあたってほしいそうだ」
エウロス周辺は魔物の強さも数も穏やかであり、比較的安全な街として知られている。そんな街の近くで魔物が急に増えたというのであれば、何らかの原因があると見るのが自然である。
「そうなのか。それも、異変に関係あることなのか?」
「ギルドはそう考えているが、今のところ確証はまだ無いな。だが、エウロスはこの国唯一の港町で、漁業や貿易の中心となっているんだ。そんな場所を魔物に封鎖されてしまえば、国内の流通も自ずと制限されてしまうことになる。異変に関係あるにせよ無いにせよ、早く解決したい問題であることだけは確かだな」
エウロスは商業が最も盛んな場所で、この街でしか手に入らない品物も多くある。そのため商人の出入りも活発なのだが、このまま魔物が増え続ければ彼らが襲われる危険性も高くなり、そうなれば物流に悪影響が出るのは必至である。それだけは何としてでも避けなければならないというのが、ギルドの見解だった。
「そいつは、確かに一大事だな」
「ちなみに、東の魔物はどれくらい強いのですか?」
「街周辺だけで言えば大した強さではないな。基本的には、EランクかDランクの魔物だけだ。だが、その程度の魔物であっても戦う力を持たない者にとっては十分に脅威だ。迅速な解決のために、私たちも協力しようじゃないか」
リューテの言葉に、その場にいる全員が頷く。
「決まりだな。では、出発は明日の朝だ。今日のところはゆっくりと休むとしよう。皆、修行の疲れも溜まっているだろうからな」
「そうだな。ここ二週間ずっと動きっぱなしだったし、明日に備えて思いっきり休んでおかないと」
こうして話し合いはお開きとなり、ケントたちは明日からの仕事に向けて必要な準備を始める。依頼を受ける旨をギルドに報告し、それから必要な物資を買いに行く。
そして全ての用事を済ませたその日の夜。彼らは食卓を囲むと、離れていた時間を埋めるかのように修行の日々について語り合う。そんな穏やかに流れる憩いの時間も束の間、気付けば就寝の時間となっていた。
ケントたちは各々の寝床に就くと、また明日から始まる全員で苦楽を共にする毎日に思いを馳せて、ゆっくりと夢の中へと入っていった。
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