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調査依頼の受諾

 そして村を出てからおよそ半日に渡る移動の末、ケントたちは雪の降り積もる雪原を抜けてついにボレアスへと到着した。


「ふぃー、ようやく着いた。流石に大変だったな……」

「本当、もう足がクタクタよ」

「ソニアお姉ちゃん、大丈夫?」

「だだだ、大丈夫ですよ~。でも、早く暖かい所に行きたいです……」


 目的地まで辿り着いたはいいものの、防寒具も着ていない者にとって身のすくむような寒さは依然として変わらない。ソニアは自分を抱き締めるようなポーズを取って、ぶるぶると忙しなく震えていた。


「にしても、ここがボレアスか。もっと人が少なくてこじんまりした街ってイメージだったけど、案外そうでもなさそうだな」


 ケントの言う通り、この街の大きさはケントやエルナが元いた西の街であるゼピュロスと比べて一回り小さい程度で、街並みも雪が降っていることを除けばそう変わらない。人に関しても、外から訪ねてくる者があまりいないというだけで建物や住民自体はそれなりに多く、静かではあるが決して過疎というわけではなかった。


「ふむ。時刻はまだ夕方前くらいか。予定よりだいぶ早く到着したな」

「朝早くに出た甲斐があったな。それで、これからどうする?」

「そうだな。本格的な活動は明日からにするとして、ギルドには今日のうちに訪ねて依頼を受けておこう」


 休む時間にはまだまだ早く、ならば今日中にギルドの訪問と依頼の準備くらいは済ませてしまおうと、ケントたちはギルドに向けて歩き出す。

 そして十分ほど歩いた先に、飛翔する鷹の姿が描かれた旗が入り口付近の壁に飾られている木造の建物を発見した。


「着いたぞ。ここだ」

「へえ、これがボレアスのギルドか。結構大きいな。ゼピュロスのギルドくらいはあるんじゃないか?」


 ケントたちは足を止め、目の前にそびえる目的の建物を眺める。木造ということもあり、全体的な景観はゼピュロスのギルドと似通っているが、寒さを防ぐためか他のギルドだと常に開け放たれている扉は固く閉められており、どこか物々しい雰囲気を感じさせていた。


「あ、そういえば新しい街のギルドに来たってことは、ここにいるのよね? 例の……」


 エルナがそこまで言うと、ケントは彼女が何を言いたいのかを察する。


「あー、ララベルさんの妹か。リューテ、どんな人なんだ?」

「わざわざ私に聞かずとも、この中に入ればすぐに会えるさ。さあ、行こう」


 外の気候から屋内を守るかのように閉ざしている扉に手を掛け、ケントたちはギルドに入っていく。

 間もなく夕暮れ時になるためか、中では仕事から帰ったと思しき複数人の冒険者が暖炉の前で身体を休めていた。彼らは受付まで向かうケントたちの姿を見るや否や顔を揃えて物珍しげな視線を向け、隣の仲間とひそひそ話をし始める。


「い、いらっしゃいませ……!」


 廊下を真っ直ぐに抜けた先にあった受付でケントたちを出迎えたのは、おどおどとした態度の、栗色の髪を腰まで下ろした若い女性だった。


「あ、あの、どういったご用でしょうか……?」


 女性はそう言うと、彼らの視線が自分に集まっているのを感じて目を泳がせる。所作の一つ一つは緊張でこわばっており、見るからに人見知りという印象を彼らに与える。そして何より、そこはかとなく他のギルドで見覚えのある顔立ちをしていた。


「その、もしかしてだけど、あんたがララベルさんの妹さん?」

「あ、はい、初めまして! 五人姉妹の末妹の、ロロアと申します!」


 ロロアと名乗ったその女性は、ケントたちにいそいそとお辞儀をする。やはり彼女は、ギルド名物である五人姉妹の受付嬢の一人のようだった。


「久しぶりだな、ロロアさん。相も変わらず寒い街だが、元気そうで何よりだ」

「あ、あなたはたしか……」

「覚えていてくれたか。私が最後にここに来たのは一年半前のことだから、忘れられているかと思っていたが」

「い、いえ。初めて会った時、私と変わらないくらいの歳なのに頑張ってて偉いなって、凄く印象的だったので……」


 いきなり初めて見る顔の冒険者が何人もやって来たことに驚いていたが、その中に見知った顔がいることが分かって、ロロアは少しだけ緊張が解れたようだった。


「それで仕事の話だが、私たちは王都にいるあなたの姉からボレアスで調査依頼を受けてほしいと頼まれてここまで来たんだ」

「え、ララベル姉からですか?」

「ああ。彼女からは、ボレアスは調査があまり進んでいないと聞いているのでな。微力ながら私たちが協力させてもらおう」

「あ、ありがとうございますっ!」


 ロロアは喜んだ様子で、深々と頭を下げた。


「では、その前に皆さんの冒険者ランクを確認させていただきますね?」


 調査依頼に参加するための資格があるかを証明するため、ケントたちは自身の冒険者証をロロアに提示する。


「……はい、確認いたしました。そしたら、ちょっと待っててください。今、皆さんに合った依頼を探して来ますので」


 するとロロアは奥の机まで移動し、そこに置かれてある紙の束を一枚一枚めくっていく。そしてその中から一枚の紙を取り出すと、地図と共にそれを持ってケントたちの元へと戻っていった。


「お待たせしました。ではまず、こちらの地図を見てください」


 ロロアは地図を広げると、ある一点を指差す。


「この街を出て北西に行ったところに水晶の洞窟と呼ばれている洞窟があるのですが、皆さんにはこちらに向かって遭遇した魔物の調査をしていただきたいんです」


 ロロアはそう言いながら、次にもう一枚の方の紙を彼らに差し出した。


「既にご存じかと思いますが、魔物に起きている異変というのは変異種の増加や本来の生息圏とは異なる場所に魔物が現れるというものです。それでこちらの紙に記されているのが、現在水晶の洞窟で生息が確認されている魔物の一覧なのですが、万が一この中にない魔物を発見した場合、その魔物を討伐してギルドに報告してください」

「討伐か。もし、遭遇したのが我々の手に余るような強力な魔物だった場合は?」

「もちろん、そのような状況に陥った時は無理に戦わず逃げることを優先していただいて構いません。ただ、可能な限り魔物の外見情報などを持ち帰ってもらいたいんです。その情報の信憑性と緊急性次第では、上位ランクの冒険者を派遣してもらえるので」


 今回の異変の手掛かりはイレギュラーな魔物の存在であり、場合によっては並みの冒険者では手に負えない事態にもなり得る。そしてその際には、王都にあるギルド本部に連絡して優秀な冒険者を派遣してもらう手はずだった。


「分かった。皆も異論はないか?」


 後ろで話を聞いていたケントたちも特に依頼の内容に疑問や不満はないようで、一様にこくりと頷く。


「うぅ、助かります。もう本当に調査依頼を受けてくれる人が来なくて、ほとんど何の進展もなくて困ってたんです。今手伝ってくれてる冒険者の方々からも、そろそろ人員を増やせって突っつかれてて……」


 今いる冒険者だけでは、ボレアスの調査依頼は対して進まない。しかし人手を増やそうにも調査はあくまで依頼という形であるため強制も出来ず、ロロアとしては本部に応援を要請するより他なかった。


「それでは、どうかこちらの依頼をよろしくお願いします。あ、でも今日はもう遅いですから、ゆっくりお休みくださいね?」

「ああ、そうさせてもらおう。では、これで失礼する」


 こうしてケントたちは依頼を引き受けると、ロロアに背を向けてギルドを後にした。

 その後は雑貨屋で依頼に必要な道具を購入してから、そのまま近くの宿へと入っていく。そして夕食を済ませてから軽い歓談を交わした後、彼らは明日に向けての鋭気を養うため、消灯の時間よりも早めに就寝した。

ここまでご覧いただき、誠にありがとうございました。


次回以降もお付き合いいただけますと幸いです。


最後に、評価・ブクマ・感想等いただけますと大変励みになりますので、よろしければお願いいたします。

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