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冬の童話 参加作品

二種類のきびだんご

作者: 菊華 伴


 あるところに住んでいたお爺さんとお婆さん。

 川で拾った桃から生まれた桃太郎をのんびり育てておりました。

 都で暴れる鬼の話を聴いた桃太郎は鬼が島へ鬼退治へ向かおうとお婆さんへ

「きびだんごをこしらえてください」

 といいました。


 けれども、お婆さんは「きびだんご」を知らなかったのです。


 * * *

(さてどうしましょうかねぇ)

 困ったお婆さんは、とりあえず物知りな庄屋さまのところに行きました。

「庄屋さま、庄屋さま、きびだんごって知ってますかね?」

「きびだんごったぁ、きびっちゅう黄色い粒の物をねってつくる団子だよ。

 神様の力が宿るっちゅう話もあるでよ」

 庄屋さまは市場に行くと売っているかもしれない、と教えてくれた上に少しお金もくれました。都で売られる野菜は、この村で取れた野菜。やはり早く鬼のことが解決して欲しいとおもっているのです。

 お婆さんはお礼を言って、市場へ行きました。そして、黄色い粒の「きび」を探しました。ところが、見つけたのは小さい小さい粒の「黍」と、黄色くて丸い、指でつまめる粒の「とうきび」(玉蜀黍)の2つが売られていたのです。

「はて、どっちの『きび』でつくればいいのかねぇ?」

 おばあさんは困ってしまいました。しかし、桃太郎をあまり待たせるのも悪いと思い、おばあさんは思い切って2つとも買いました。

 そして米の粉と、鶏の肉を買うと村に戻り、さっそく「きびだんご」を作ることにしたのです。


「この小さいきびからやってみようかね」

 とお婆さんはまず「きび」を石臼で引いて粉にして、米粉と水でねりました。そして団子にして蒸して「きびだんご」をつくりました。おまけにきなこをまぶしてべたつきも押さえてみました。

「つぎはこっちの、粒が大きいきびじゃ」

 と、お婆さんは「とうきび」を湯がいてから削り落とし、鶏肉を包丁で粘り気がでるまで叩き、2つを卵を割りいれて混ぜました。味噌と摩り下ろしたしょうがも少し入れました。それをねって団子にすると、これまた蒸して「きびだんご」をつくりました。

 お婆さんはお爺さんと庄屋さまに試食してもらいました。するとお爺さんも庄屋様も笑顔になりました。とってもおいしかったようです。

「小さいきびの団子は、1つ食べると勇気と力がわく。大きいきびのだんごは、1つ食べると疲れがぐっ、と取れて心が落ち着く。どっちも桃太郎にもたせるとよいじゃろう」

「どっちもおいしいのう。これはきっと桃太郎も喜ぶぞ!」

 庄屋様とお爺さんにそういわれ自信を持ったおばあさんはさっそく桃太郎に2種類のきびだんごを持たせました。


 * * *


「桃太郎、気をつけていくんじゃよ」

「どうか無事に帰っておいで」

 「日本一」の旗と「きびだんご」を桃太郎に渡したお爺さんとお婆さん。桃太郎は感謝の気持ちで一杯です。深々と頭を下げて

「いってきます」

 と、出かけていきました。


 そのうちに犬、猿、雉が鬼に住処を奪われた怒りと悲しみを桃太郎に訴えてきました。桃太郎はお供になるならば、と「きびだんご」をあげました。それは小さいきびを使ったほうでした。大きい粒の団子は鬼退治の直前に食べる事にしたのです。

 犬、猿、雉は「おいしい、おいしい」と団子を平らげ、快くお供になりました。が、犬は桃太郎がもつ猛1つの「きびだんご」に気付きました。

「桃太郎さん、そっちの団子は何ですか?」

「これは、鬼退治の直前に食べよう。きっと力が湧くぞ」

「それは楽しみだ!」

 猿がそういうと、雉は少し複雑そうな顔をしました。なんとなく鳥の肉を使っている気がしたからです。しかし、雉は桃太郎にそんな顔を見せず、とりあえず頷きました。

 こうして桃太郎たちは鬼が島へ目掛けて行くのですが……、船に乗ったころには、大きいきびをつかった団子の事を忘れ、鬼を早く退治しなくては、と闘志に燃えていたのでした。


 鬼が島へついた桃太郎たちは、門番の鬼と対峙しました。が、その鬼達は桃太郎たちに襲い掛かるどころか、鼻をふんふんと鳴らして、ごくりとつばを飲み込みました。

「おい、お前。その腰に下げたものはなんだ? いいにおいがするぞ」

「これは、お婆さんが作ってくれたきびだんごだ」

 桃太郎はここで大きいつぶの「きびだんご」を思い出したのです。

「桃太郎さん、忘れてたでしょ?!」

 犬が突っ込みますが、それどころではありません。鬼達はその団子に興味を持ったのでしょう。桃太郎に見せてみろ、と言い出したのです。猿は「こいつらに上げる事はありませんよ」といい、雉は「いや、意外と気に入るかも知れませんよ?」といいました。桃太郎は少し考え、鬼達に1つずつ上げました。

「おお!? なんだこれは! なんと美味いんだ!!」

「しかも何故だろう、胸が温かいぞ? なぜだか懐かしい味がするぞ?」

 鬼達は口々にそういうと、残りの団子をもって奥へと走っていきました。桃太郎たちも慌てて追いかけると、鬼の頭がその団子を食べて泣いていました。

「どうしてないているんだ?」

 桃太郎が問いかけると、鬼の頭が言いました。

「なんと美味いものだろう。そして、これを食べたら胸の奥が苦しくなったのだ。食べたとたんに、汗水流して食べ物を育て、この団子を作るお婆さんの姿が頭に浮かんだのだ」

 鬼の頭はもう二度と悪さはしないからもっとこの団子を食べさせてくれ、と桃太郎に願いました。桃太郎は考え、鬼の頭に言いました。

「それは本当だな? ならば、ここに証文を書いてもらおう」

 鬼の頭は頷き、証文を書きました。桃太郎は、鬼の頭と『おばあさんに頼んできびだんごを作ってもらう』と約束をしました。


 そこから、桃太郎たちは忙しくなりました。まず鬼が島から戻ると都の主様に鬼の証文を渡しました。次にお婆さんに2種類の「きびだんご」を作ってもらいました。

 小さいつぶの「きびだんご」は犬、猿、雉へのごほうびであり、おやつです。3匹は大喜びで食べて桃太郎を今後も手伝う事にしました。

 大きいつぶの「きびだんご」は鬼達に届けられました。鬼達はそれを食べて、皆、心が丸くなりました。自分達の行いを反省した鬼は、迷惑をかけた都の人々に盗んだ宝を返し、壊した家々を修理し、道を整備しました。

 桃太郎と犬、猿、雉もそれを手伝い、みんなで2種類の「きびだんご」を食べて頑張りました。都の住人達は鬼達を許し、桃太郎の育った村を初めとする村の人々は、鬼に農作業や鶏の育て方を教えました。


 やがて、鬼が島と都での貿易が始まり、鬼達は暮らしに溶け込みました。鬼達は、桃太郎と「きびだんご」を作ったお婆さんに感謝しました。都の人々も桃太郎と3匹のお供、お婆さんに感謝しました。


 * * *


 それから数年経ちました。

 お婆さんはきょうも「きびだんご」を作ります。

「小さい『きび』の団子はね。甘い、あまーい『きびだんご』。食べると元気が出てくるよ。

 大きい『きび』の団子はね。しょっぱくてあまーい『きびだんご』。食べると心が丸くなる」

 そんな歌を歌いながら団子を作るお爺さんお婆さん。桃太郎と3匹のお供はそれを手伝いながらのんびりと暮らしておりました。

 鬼達も鬼達で、鬼が島で「きびだんご」をつくります。

「小さい『きび』の団子はね。甘い、あまーい『きびだんご』。食べると元気が出てくるよ。

 大きい『きび』の団子はね。しょっぱくてあまーい『きびだんご』。食べると心が丸くなる」


 こうして、鬼達は二度と悪さをせず……人間と仲良く過ごしていきました。そして、桃太郎もおじいさんとお婆さん、3匹のお供と仲良く過ごしていきました。


 ――このお話は、これでおしまい。 とっぺんぱらりの、ぷぅ。


(終)



ここまで読んでくださりありがとうございます。

私の故郷ではトウモロコシを「とうきび」と呼んでいたので混ぜました。

時代考察無しですが、楽しんで頂ければ御の字です。

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