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凍えない心を希う

「まぁ、あなたがリノンね。わたくしはエウディア=クラレ・スルール=アケルナル。エディ伯母さんって呼んでね。……ディルったら、こんな時に部屋に引きこもってるとか一体何してるのかしら」


 暗赤色の髪に、抜けるような白い肌、深い青の瞳に怒りを滲ませて、手に持った扇をもう片方の手に打ち付けているエディ伯母さんは、正直美人なだけにソコソコの迫力がある。

 私たち術師は何度確認しても慣れないが、扱える属性によって現れる色彩が違う。

 だから兄弟や親子でも、肌の色が違ったり、髪や目の色が違ったりと、カラーバリエーションが豊富だ。

 そのせいで、目鼻立ちは似ているのに一般の民からすれば家族に見えない、てんでばらばらの色彩を持つ謎の集団が出来上がったりする。

 これには未だに慣れない。


「母上、叔父上は今ちょっと人生における一世一代の事案に取り掛かっているため、取り込み中とのことなのでそっとしておいて差し上げてはいかがですか?」


「ええっ。あの子、ようやく重い腰を上げたの?どういう心境の変化かしら?」


「流石に私に先を越されるのは嫌なのでは?」


「あー。そういうところが今ひとつ残念な感じなのよね」


 ポンポンと高速で繰り広げられる、容赦ない言葉の応酬に私は思わず遠い目になった。

 残念だが、非常に残念だが。

 エディアルドについて、私には何ひとつ弁護出来る要素がない。


「それで、どうなの? 貴方たちは上手くやれそう?」


 エディ伯母さんの唐突な言葉に、サフィルが頷く。


「力の相性は良さそうですね。叔父上の見立てどおり、共に居ると力の制御が普段よりも安定するようです。ちょっとした奇跡ぐらいなら起こせそうな気がします」


「あらまぁ、そう。それは凄いわね」


 冗談のようにさらりとサフィルが言った言葉を、やはりさらりと流すエディ伯母さんに私は内心焦る。

 冗談抜きで、大技のひとつやふたつ余裕でこなせそうな自分がいる。

 何なら巨大ハリケーンで大陸ごと吹っ飛ばした後で、それを元どおりに復旧出来そうなほど、力が無限に湧いて来るような感覚がある。

 自分の中の感覚を確かめていると、直前まで悠然とお茶を飲んでいるように見えたサフィルが、カップを置いて私をじっと見つめていることに気づいた。


「リノンは、叔父上から私とのことは何も聞かされていないように見えるが」


「はい。そろそろそういうお話も出るとは思っていましたが、今そういうお話があると初めて知りました」


 しっかりと視線を合わせて頷いた私に、サフィルはため息をつく。


「叔父上は基本は聡明で万事抜かりない方なんだがな。時々、な」


 サフィルの言葉に同意するように、エディ伯母さんもため息をつく。


「どうしてあの子は、もてなすように指示は出すのにお見合いを兼ねた顔合わせだとは言えないのかしらね」


 本当に、仰るとおりですエディ伯母さん。

 尤も過ぎて何も庇えない。

 少しばかりプリプリ怒りながらエディアルドをこき下ろすエディ伯母さんに相槌を打ちながら、思わず遠い目をした私にサフィルは再度話し掛ける。


「それで、リノン。私のことは、前向きに検討してもらえるだろうか? 私は日継の王子だと言っても、王権は父の代で返上しているから、私の代からは象徴的役割と、精霊関係の責務が発生する程度だからそれほど重責を担うことはないと思う。それに、私は浮気はしない。必要ならば、大切にすると我が名にかけて誓う」


 真摯な目で、しっかりと言い切ったサフィルを見つめながら私は考える。

 術師の一生は長い。一度相手を定めたら、術師は相手を変えることがない。

 一緒にいて心地良いと感じられる相手と出会うことは稀で、力が強ければ強いほど相性の良し悪しは顕著に出ると言われている。

 そんな中で、きっと私とサフィルの相性はこの上なく良いのだろうと思う。

 それは私にとっても、願ってもない話のはずだ。

 もしも最初からこうなることが分かった上で私を引き取ったのなら、エディアルドは一族の長として最高の人物なのだろうと思う。


「サフィル様。私の望みは唯一つ。それを叶えていただけるのなら、喜んでこのお話をお受けしたいと思います」


「それは?」


 サフィルに促されて、私は微笑む。

 きっとこの人は、私に一番欲しいものをくれるだろう。


「どうか私の心が凍えることがないように、いつでも貴方が私を温め、私を守ってください。私が貴方を想うように、貴方も私を想ってください」


「ああ。その願い、必ず叶えよう。我が名に誓って」


 心底嬉しそうに笑ったサフィルが、私の手を取る。

 その手は陽だまりのように温かで、この手がある限りきっと私は二度と路地裏で凍えることなどないだろう。

 人はいつでも沢山守れない約束をする。

 この世界で私を産んだ人も、守れない約束をした。

 だけど、術師は名に誓ったことだけは違えることがない。

 それは命を賭ける誓いで、だから術師は滅多なことでは誓いを立てない。


「私、リノン=ミモサ・プルイーナ=スルールは、サフィル様を裏切ることなく共に在ることを誓います。この名に賭けて」


 私はやっと、希い続けた望みを叶えられた気がした。

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