1章 07.絶望
「姉さん、昨日はデートするとか言っていたのに、何で風邪をひいてるんですか?」
「けほっ、昨日デートに行けることが嬉しかったから、つい調子に乗ってしまって。」
姉さんは辛そうにしながら、そう言ってくる。
「姉さんは、休んでなよ。昼になったら、お粥ぐらいなら作れるから、持ってくるから。」
「ありがとうね、弟くん。」
俺はそう言い残し、姉さんの部屋から出て行った。
弟くんが部屋から出て行ってから、あたしはこう口に出していた。
あーあ、やってしまったなぁ。
弟くんとデートしたかったなぁ。
また誘ったら、わかったって行ってくれるかなぁ。
あたしは、眠りについた。
今日は、何をしようか。
1週間も何をしたらいいんだ。
1日は姉さんのために使って、もう1日はアイリスのために使う。
あと、今日も合わせて5日どうしたら。
ダンジョンにでも、行ってみるか。
今日は、昼からはダンジョンに行くとして、昼まではどうしようか。
もう一眠りするか?
いや、そんなことに時間は割きたくない。
アーサーさんに、戦い方でも教えてもらうか?
そう思っていたら、ドアをノックされる音が聞こえてきた。
誰だろう?
俺は、ドアを開けた。
「どちら様ですか?ってロシェルか。どうしたんだ?」
「おはよう、ユウマくん何してるのかなと思って、来ちゃった。」
ロシェルは頰を微かに赤く染めながら、言ってきた。
「で、何の用だ。何もないなら、帰れ。」
「あの、ユウマくん。買い物に付き合ってくれないかな。」
どうしようか、別に行ってもいいんだよ。
どうせ、昼までは暇だしな。
「どうかな?」
まぁ、言ってもいいか。
「わかった。いいよ。でも、昼までだからな。姉さんが風邪をひいてしまってな。昼にお粥でも作ってあげようと思ってるから。」
「大丈夫なの?お姉さん。」
「大丈夫、大丈夫。熱計ったけど、微熱だったから。」
「そうなんだ。でも、熱があったりすると、怖い夢とか見たりするから、一緒にいてあげたほうがいいよ。」
「じゃあ、買い物に付き合わなくてもいいのか?」
「それは、だめ。」
「だめなのかよ。まぁ、いい。ちょっと準備してくるから待ってな。」
そう言って、私の返事を待たずに行ってしまった。
私は、今のうちに、鏡でチェックしとかなきゃ。
髪が乱れてないとかをさ。
そうしてると、ユウマくんが準備を終え、ドアを開けた。
「待ったか?」
「ううん、待ってないよ。」
「そうか、それならいいよ。」
「うん、それじゃあ行こっか。」
「ああ。」
俺はこうして、ロシェルの買い物に付き合うことになった。
「なぁ、何を買いに行くんだ?」
「服だよ、服。そろそろ、買おっかなって思って。」
「ふーん。それなら、さっさと服買いに行こうぜ。」
そう、この時の俺は女の子の買い物は長いことを知らなかった。
ロシェルは服を買っては、また違う服屋へ行って、服を買う。
それの繰り返しで、もう昼前になっていた。
「長いよ。」
「ごめんね。試着とかいっぱいしちゃって。」
「そうだよ。なんかお礼しろよ。付き合ってあげたんだから。」
「そうだねー。じゃあ、これで。」
と言い、ロシェルは俺の頰に口づけをした。
「何すんだよ。」
「お礼。」
「何だよ、それ。もう、帰るからな。」
そう言って、またわたしの返事を待たずに行ってしまった。
楽しかった。
また、私に付き合ってくれるかなぁ。
俺は、ホームに着き、お粥を作り始めた。
作り方はよくわからんが、作ろう。
作り終わったあと、俺は味見をした。
「よし。結構うまくできた。」
俺は姉さんの部屋に持って行った。
「姉さん、お粥作ってきたよ。」
返事がない。
「姉さん入るよ。」
俺は姉さんの部屋のドアを開けた。
俺の目に入ってきたのは、荒らそった形跡がある姉さんの部屋だった。
この部屋に姉さんはいなかった。
「どこに行ったんだ?」
俺の目に、白い紙が目に入った。
俺はその紙を見た。
そこには、こう書かれていた。
「あなたの姉を助けたかったら、ダンジョンに1人で来なさい。」と。
行くしかない。
姉さんを助けられるのは、俺しかいないんだ。
俺は、防具を装備し、武器も装備し、レッグホルスターに姉さんからもらったポーションを入れ、ダンジョンに向かった。
ダンジョンに着き、中に入ると、そこには姉さんと見たこともない女性が立っていた。
「こんにちは、ユウマくん。私は、火のドラゴンの力を受け継ぐ者、フレイ=ローレン。」
「何で俺の名前を知っているのか知らないが姉さんを返せ。」
「返して欲しかったら、私に…」
「弟くん逃げて。」と、フレイの声を遮り、姉さんはそう言った。
「あたしがこんなザマなのに、弟くんが倒せるわけないでしょ。逃げなさい。早く。」
次は、フレイが話を遮った。
「もう、遅いわ。」
そう、遅かった。もう、フレイは俺との間合いを詰めていた。
「死んで、英雄の孫。」そう言い、剣を振り下ろした。
もう、ダメだ、武器を構える時間はない。
もう死ぬんだと覚悟した瞬間、俺の魔導書は光った。
カレンだ。俺の目の前に出てきて、俺を少し後ろにずらした。
俺を守るために、召喚をしてもないのに。
そして、カレンは、死ぬ覚悟で出てきたのか、こう言ったのだ、「マスター。私はずっとあなたのそばにいます。」と。
そう言った瞬間、フレイの剣が、カレンの体を左肩から、右の横腹まで一直線で、肉が断ち切られる音を出しながら、切られた。
違う、肉が断ち切られる音と同時に、ザクッと何かが切られた音が聞こえた。
俺は、何が切られたのかを確かめるため、目に全神経を集中させた。
その時、何か違和感があったのだ。
いつもより、視界が狭いということが。
気づいたのだ、切られたのは、俺の左目だったことが。
脳が、左目が切られたことを意識した瞬間、痛みが走った。
俺は、カレンとともに倒れた。
俺は、何か打開策がないかと考えようとした。
だが、脳がそれを拒否した。
否、俺は諦めたんだ。
もう、どうすることも出来ないって。
だから、俺は残った右目でフレイを精一杯睨んでやった。
フレイは、俺の顔を見ながら、顔を火照らせながら「あなたは殺さないであげるわ。あなたの無様な姿に免じてね。生きていたら、またどこかで会いましょう。英雄のお孫さん。」と言って、姉さんを連れてどこかへ消えた。
左目が痛い。違う左目じゃない。わからない、感覚が麻痺してきた。
「エミリーさん。お願いします。私の左目をマスターの左目に移植してください。」
魔導書は、その言葉に反応し、姿をあらわにした。
「そんなことをすれば、主人様がどうなるかわかってるのですか?」
「大丈夫です。私とマスターは相性がとてもいいので、拒否反応なんて出ないですから。」
そう言って、カレンは左目を抉り取り、エミリーに渡した。
「わかりました。安心して逝ってください。私が主人様を絶対守ってあげますから。」
「はい。マスターを任せます。」
そう言って、カレンは光の粒子となり、エミリーの中に入っていった。
エミリーが俺の側に近づき、しゃがみ、手を俺の顔に当ててこう言った。「ごめんなさい。主人様。少しお眠りください。ヴィドレイン。」と。
今までかろうじて意識はあったが、エミリーが魔法を唱えた瞬間、意識が落ちた。
電源が落ちたように。
「ごめんなさい、主人様。でも、これしか方法はないんです。」そう言って、意識の無い俺の切られた左目を抉り取り、カレンの左目を埋め込み、視神経と左目を繋ぎ、傷口を塞ぐ。
「私は、あなたの魔導書失格ですね。」
「これから、またよろしくお願いしますね。マスター。」