1章 06.姉さんの嫉妬
「なぁ、本当にヴァンパイアなのか?」
「さっきから、そうですって言ってるじゃないですか。」
「ヴァンパイアって結構有名なモンスターだよな。」
「そうですけど、それがどうかしましたか?」
「いや、何でもない。そういやさ、お前に名前ってあるのか?」
「ヴァンパイアだけど。」
「種族名じゃなくて、お前の名前だよ。」
「名前は与えられてないの。私、種族でも忌み嫌われてる存在だったから。」
「そうか。」
何か悪い事を聞いてしまったかな。
「私なんかと契約なんてしない方が良かったって思った?」
「ん?そんな事ないけど。どうしたんだ?」
「ううん、何でもない。」
そう言って、少し嬉しそうにしていた。
「名前。名前なぁ。か、カレン。よし、お前の名前はカレンな。」
「カレン。カレンか〜。」
「嫌か?」
「ううん。これでいい。」
「それなら良かったよ。」
俺は、名前をつけ終わった時に気がついた。
もう、ダンジョンには誰1人いないということに。
ソフィーはまだいるか?
俺は、周りを見回した。
居なかった。
やっちまったなぁ。ソフィー、俺に怒って戻ってしまったのか?
まぁいい、帰るか。
「カレン。学園に戻るぞ。」
「うん、でもダンジョンの外はあまり出たくないかな。」
「どうしてだ?」
「日光に焼かれちゃうんだよね。」
「そうか。それなら…。どうしたらいいんだ?」
「何で知らないんですか。」
「話を聞いてなかったから。」
「はぁ、私の契約者は何でこんなにアホなんでしょう。一回だけ、教えてあげる。一回だけだからね。」
「はい。お願いします。」
「魔導書は、私たち契約したモンスターや悪魔の依り代となっているから、魔導書の中に入ることが出来るんだよ。わかった?」
「おう。バッチリだ。それなら、早く行くぞ。」
俺たちはダンジョンの出口まで走り、そこからはカレンは魔導書に入り、俺は学園まで走った。
俺が戻った時には、みんなは教室の席に着き、先生の話を聞いていた。
俺も話を聞きに、教室に入ろうとしたけど、やめた。
座るとこないし、別に無理して教室に入る必要性もない。
だから、教室の外で話を聞くことにした。
話は終わりかけで、俺が聞けたのは、1週間後にダンジョンを探索すること、それと装備を各自持って来ること、それまでには契約した魔物と魔導書を通して、言葉を使わなくても、意思疎通できるぐらいに、仲を良くしておくこと。
それだけだった。
それで、今日は終わりなのか、教室から出てきて、帰っていった。
「帰るか。」
俺も帰ろうと思い、学園の出入り口に足を進めようとしたら、ソフィーが駆け寄ってきた。
「ユウマ。一緒に帰ろう。」
「おう、いいよ。」
俺たちは一緒に帰ることになった。
この時、ロシェルが、俺たちを私も一緒に帰りたいなぁという感じの目で見ていたことを知る由もなかった。
「悪かったな。今日は、ソフィーの事を放ったらかしにして。」
「そんな事謝る事でもない。」
「じゃあ、何で先に帰ったんだ?」
「みんなが先に帰っていたから。」
「それだけ?俺がカレンと話をして、ソフィーをないがしろにしたからじゃないの?」
「違うよ。別にユウマが、他の女と話していても私には関係ない。」
「怒ってらっしゃる?」
「怒ってない。」
絶対怒ってるよな、ソフィー。
ホームが近づいてきた。
「俺、あのホームに住んでるから、また、1週間な。そんじゃあな、ソフィー。」
そう言って、ホームに向かって走って言ったのだが、ソフィーの返事はなかった。
その、理由は、ホームのドアを開けた瞬間にわかった。
「おかえり、ユウマ。」
「おかえり、姉さん。」
俺が、おかえりと言った同じぐらいに姉さんの目つきが変わった。
「何その子。まさか、ユウマの彼女?」
誰がいるんだと思って、後ろを振り向くと、そこにはソフィーの姿が。
「何でソフィーがここにいんだよ。」
「何でって言われても。私は、ユウマの家族に挨拶と思って。」
「悪いけど、ここは俺の家族が住んでる家のじゃないんだ。だから、帰って。」
そう言って追い返そうとしていた、その時、
「ねぇ、ユウマ。その子誰って聞いてるの。」
なんか、姉さんの顔が険しいんだけど。
「えーとその、ソフィーはクラスメイトです。」
「クラスメイト?本当に。」
そう言って、姉さんは視線を俺からソフィーに移した。
「今日、初めてユウマと共同作業をした。」
ソフィーが変な事を口走る。
「きょ、きょ、共同作業!?ユウマ、2人で何をしたの?」と、血相を変えて聞いて来る。
俺は誤解を解くために、
「今日は、2人でモンスターと契約しただけ。だから、姉さんが考えるような事はしていない。」
そう言って、俺はカレンを召喚した。
「何ですか?マスター。」
マスターって呼び方カッコいいな。
そう思っていると、姉さんが掴みかかってきた。
「どうして、ユウマはそうやって次から次へと女の人と仲良くなるのよ。」と。姉さんは泣きながら言ってきた。
「そんな事言われても…。」
言い返す言葉もなかった。
実際、俺この世界に来てから、女の人としかまともに話していない。
「私はソフィー=ルンヴィク。いつか、ユウマと同じ英雄の眷属になって、ユウマを私のものにする。」
また、ソフィーが空気を読まずにそんな事を言い出し、そして、またカレンがソフィーに続き、
「私は、マスターの契約悪魔として、マスターの側で一生居続け、マスターにつきまとう、女性は排除します。」とか言い出した。
とうとう、姉さんは我慢しきれなくなり、怒った。
そして、
「弟くん。ちょっとこっちに来なさい。」
おっと、俺関係ないのに、怒られる。
しかも、俺の呼び方が弟くんに戻った。
「弟くん。」
「はい。」
「弟くんは、あの女の人達のことどう思ってるの?」
「ソフィーは、今日仲良くなった友達で、カレンは契約悪魔で、パートナー。」
「あの女の子は?」
「あの女の子?」
「昨日、ユウマを私と一緒に保健室まで連れて行っていた人。」
ロシェルの事か。
「ロシェルも友達だけど。」
「本当に?本当に友達なんだね。」
「あぁ。」
「弟くん。今日はこれくらいにしてあげるかわりに、明日は私とデートしなさい。」
「はいはい。わかったよ、姉さん。」
俺は姉さんとデートすることになってしまった。
姉さんは嬉しそうに、リビングに向かった。
「それじゃあ、ソフィー。また1週間後な。」
「うん、わかった。それじゃあね。」
そう言って、ソフィーは帰っていった。
「カレンもまたな。」
「はい、マスター。」
カレンは光の粒子となり、魔導書に戻った。