中編
前編投稿した時、タイトルとサブタイトル逆でアップしてしまい慌てました。
氷と雪で閉ざされた山のその奥に、魔女は居を構えました。
そんな極寒の地であっても、魔女の魔法で庵の中は住み心地の良い環境が揃えられております。
たまに薬や魔術に必要なものを手にいれる為出て行く以外は、魔女はその自分の庵に籠もったままでおりました。
王子から求婚され、その父である王より国を出て行くように懇願され、誰も立ち入ることもかなわないこの場所に移ってからどれくらいの月日が経ったのか。
魔女はぼんやりと手にしている薬草茶に映しだされる己の顔を見つめました。
王子のいる、小さな国にはあれきり戻ってはいません。
すでにあれから二十年の月日が経とうとしています。
きっと今頃は、王子も綺麗なお姫様を迎え、可愛らしいたくさんの子供に囲まれて過ごしていることでしょう。
もしかしたら、もう王様になっているかもしれません。
魔女は、水晶へと目を移しました。
里心がつくといけないと、今まで決して見ようとは思わなかった、かつての故郷。
だけど、もういいのではないか。
王子が幸せそうに過ごしているその姿を見て、この胸にひっかかる想いにけりをつけてしまおう。
今まではどんなにそう思っても決して実行しようとはしなかったその行為。
しかし、どうしても今それをしなければという強い想いに何故か魔女の心は突き動かされました。
胸騒ぎがする。
一目、王子の姿をきちんと確認して安心したい。
そう思い、魔女は水晶を手にし、それに魔力をこめました。
映しだされたのは、懐かしのかつての故郷。
王子のいる小さな国です。
王城へ場所を変えれば、そこには美しい女性の姿とかつての王子を思い出させるような少年の姿がありました。
ああ、やはり王子は妻を迎え、幸せになっていたんだ。
魔女は安堵と、少しばかりの寂しさに、息をつきました。
水晶は場所を変え、お城の中や、城下の町を映しだしていきました。
しかし、何かおかしいのです。
皆の表情が、どこか暗く緊迫しています。
それに、王子の姿がどこにもありません。
もちろん当時のままの姿ではないでしょうが、それらしき人物が見当たらないのです。
それに、男の人の姿も妙に少ないというか……。
魔女は水晶で映しだす範囲を広げました。
すると、小さな国の国境に、小さな軍隊の姿が見えました。
その前方に見えるのは、大国から押し寄せる巨大な軍隊の姿。
戦争。
魔女の脳裏にその言葉が過りました。
魔女のかつていた小さな国は、とても大国に敵うような戦力は持ってはおりません。
水晶を小さな軍隊の先方が映しだされるようにすると、そこにいたのは……。
「王子……」
年は重ねていましたが、それは魔女の良く知る王子に間違いはありませんでした。
状況はよくわかりませんでしたが、このままでは王子は大国の軍隊に殺されてしまう、それだけはわかりました。
魔女は勢いよく立ち上がると、転移の魔法を唱えました。
あっという間に、魔女の姿は小国の軍隊の前に現れました。
大国の軍もすぐ目と鼻の先まで押し寄せてきていました。
突然現れた魔女に姿に、小国の兵からも大国の兵からもざわめきの声があがりました。
間に合った。
魔女はそう安堵する間もなく、大国に向かってその力を発揮しました。
魔女が一振り手を振ると、大国の軍隊の間に巨大な竜巻がわきおこりました。
魔女がもう一振り手を振ると、大国の軍隊の上にたくさんの雹が降ってきました。
魔女だからと言って、すべての魔女にこんなことができるわけではありませんでした。
実は魔女は、巨大な魔術を操ることの出来る稀代の魔女だったのです。
大国の軍隊は大変な混乱ぶりとなり、劣勢と状況を見極めた隊の将軍の采配によりあっという間に引き上げられていきました。
これで一安心です。
後に残されたのは、やるべきことを成し遂げた魔女と、その背後の小国の軍隊。
そして……。
「魔女……」
懐かしの、王子、その人でした。
魔女はゆっくりと後ろを振り返りました。
そこには、年を重ねた、ただ瞳の輝きはそのままの王子の姿がありました。
どこか、信じられないものを見たような顔をしていました。
「……久しぶりね、王子」
魔女は、泣きそうな声でそう言いました。
すると王子は、かつてよく魔女に見せていた、太陽が輝くような笑みを浮かべたのでした。
予定通り次回で終了です。




