第94話 アリストンの山が見えたにゃ
飛龍は一気に垂直上昇した。
一瞬、フワッと重力が無くなった様な感じがした後に水平飛行になった。
「まるで絶叫系のアトラクションみたいだったにゃ。」
「もう、ベルトを外しても大丈夫だぞ。」
ゴードンがアナと共にやって来て言った。
「一時間程でダリスの城に着くから楽にしていてくれ。但し、外には出ないでくれよ落ちない様にしてくれよ。」
そう言うとゴードンはアナを残して飛龍の頭の方へ立ち去った。ゴードンは飛龍の頭部で飛龍に指示を出しているのである。
俺達は座席のベルトを外し、アナに案内されコンテナの中を見て回った。
コンテナは2区画、前方に30席程の座席があり、旅客機と違い座席を囲むように通路となっている。
戦闘の時は窓を開けて矢や魔法で攻撃するためである。
後方は荷物部屋になっていた。
「いかがですか、この飛龍の感想は?」
アナが自慢げに言った。
「凄いです。こんな形で空を移動できるなんて考えたこともなかったです。」
アリアが興奮して言った。
「飛べるなんて大した事ないし。ねぇ、ブリット。」
「そうですね。我々は飛べますからね。」
エリスとブリットは冷静であった。
「でも、これならフェリシア公国の飛空船とも十分に対抗できるわ。」
「アリアさん、ダリス国はフェリシア公国と戦うことを想定している訳ではなく、来るべき黒龍との決戦に備えているのです。黒龍についてはご存知のこともあるでしょうがアーク王と話をしてもらうのが良いでしょう。」
どうやら、俺たちの目的についてはダリス側も分かっているようである。
「それではゆっくりしていてください。」
アナはそう言い残し、飛龍の頭の方へ立ち去った。
コンテナに残された俺たちは特にすることもなく、窓から外の景色を眺めていた。
飛龍の向かう先に巨大な山が見えてきた。
山は高くそびえ立ち、その頂きは雲の上で確認することができないくらいであった。
「来人、あれが金龍のすむアリストンの山だよ。天気が良い日は、ローマシアからでも見えることがあるんだよ。」
ローマシアにいるときは気にもしていなかったが間近にみるアリストンの山は、富士山より遥かに大きく思えた。
「あれに登らなければならないのかにゃ。大変そうだにゃ。」
「皆さん、そろそろ、ダリス国の王都に着きますから、座席に座ってベルトを締めて下さい。」
アナが現れ、声を掛けてきた。
「分かったにゃ。」
俺達が座席に着き、ベルトを締めるとほぼ同じくして、飛龍は、高度をゆっくりと下げていった。
何げに窓の外を見ると、飛龍の左の翼に何かがしがみついている。
大きさは日本猿程の大きさの猿の様にも見えるが黒いコウモリのような翼が背中にある。
「アリア、飛龍の翼に何かいるにゃ。」
「え、何もいないよ。」
アリアが窓から外を覗いた時はコウモリの翼の猿の姿は消えていた。
「気のせいだったのかにゃ。」
俺は首をかしげながら、もう一度、窓の外を確認した。
「た、大変にゃ。」
俺は窓の外を見て思わず叫んだ。飛龍の翼には先ほどのコウモリの翼の猿が何十匹と群がっていたのである。
コウモリの翼の猿はガーゴイルだった。
次の瞬間、飛龍は急降下を始めた。