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にゃんこ騎士冒険記にゃ!《異世界でゆるきゃらナンバーワンを狙う》  作者: 風丸
第2章 サイノ村編

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第9話 馬車で旅をするにゃ

 のどかな晴れた昼下がり、街道をガタゴトと音を立てながら辻馬車が走っていた。


 栗毛の一頭の馬に引かれたその馬車の屋根の上には、鎧をまとった一匹の猫が丸くなって眠っている。その猫こそ、にゃんこ騎士こと来人らいとだった。


 妖精剣フェアリーソードのメンバー4人は、サイノ村から街道を北に進んだ先にあるモルドーの町を目指していた。普段なら節約のために徒歩で移動するところだが、ゴブリンキング討伐の報酬が予想以上に高く、今回は少し贅沢をして馬車を利用していた。


「にゃあーっ!」


 俺はあくびをしながら背を伸ばした。馬車の揺れと太陽のぬくもりに誘われて、つい眠ってしまっていたらしい。身体だけでなく、心まで猫に近づいているのかもしれない。そのうち猫じゃらしにじゃれついてしまうかもしれない。


 それにしても、外は気持ちの良い天気だ。


 最初は馬車の中に乗っていたのだが、シートのクッションが悪く、車体にはサスペンションがなく、タイヤは木に鉄板を打ち付けただけの代物。衝撃がダイレクトにお尻に響く。しかも、狭い車内に大勢がすし詰め状態で、体臭・口臭・荷物の匂いが入り混じり、猫の鼻を持つ俺には耐えられなかった。結果、屋根の上に避難していたというわけだ。


 涼しい風が心地よく、俺のヒゲを優しく揺らしていた。


――その風に、嫌な臭いが混じっていることに気づいた。


「シデン、フィーネ、エリス! 魔物にゃ!」


 俺は車内の3人に声をかけた。


 俺の言葉に、御者の顔が引きつる。


 同時に、周囲の草原から馬車と並走するように、犬に似た魔物が姿を現した。数にしておよそ20匹。


 魔物の名は草犬グラスドッグ。姿こそ犬に似ているが、全身が緑色で、足は6本。昆虫のような複眼を持ち、群れで狩りをする凄まじい速度の魔物だ。


 ちなみに、俺は見た目こそ猫だが中身は人間なので、犬が苦手という設定はない。


 通常、街道には特殊な結界が張られており、魔物が近づくことは滅多にない。旅行者が襲われるのは稀だが、絶対にないとは言えない。


 馬車は草犬の追跡から逃れるため、速度を上げた。御者は必死の形相で馬に鞭を打つ。


 馬車の窓からフィーネが矢を放ち、2匹の草犬を次々に射抜いた。


 俺とシデンは飛び道具を持っていないため、今はフィーネを応援するしかない。


 草犬たちは馬車から距離を取り、矢の届かない位置まで下がった。


 このまま逃げ切れるかと思ったそのとき――


 草原を駆ける群れの中に、ひときわ速く走る赤い個体がいた。


 赤い奴……まさか、通常の3倍の速度か!?


 赤い草犬は、凄まじいスピードで馬車の横を駆け抜けていく。


「当たれ、当たれ!」


 フィーネが矢を連射するが、赤い草犬は寸前でひらりとかわす。


「くっ、当たらない!」


『当タラナケレバ ドウ トイウ コトハナイ!』


 赤い草犬はそのまま馬車の前方に回り込み、馬の首めがけて飛びかかった。


ガシッ!


「やらせるかーっ!」


 馬車の屋根から跳び下りた俺は、赤い草犬の頭部に渾身の蹴りを叩き込んだ。


ギャン!


 赤い草犬は悲鳴を上げて草原を転がる。


 俺は猫のように空中でくるりと体勢を立て直し、地面に着地。同時に背中の剣を抜き、赤い草犬に斬りかかった。


 あと一歩で剣が届くという間合いに入ったその瞬間、赤い草犬の側方から2匹の草犬が同時に飛びかかってきた。


ドスッ! ガン!


 2つの音が響き、2匹の草犬が吹き飛ばされた。


「にゃんこ、一人で格好つけるなよ。」


 シデンだった。彼は1匹を剣で突き、もう1匹を盾で殴り飛ばしていた。


「悪いにゃ、シデン!」


 その間に、赤い草犬は起き上がり、俺を睨みながら唸り声を上げていた。さらに、残りの草犬10匹が俺とシデンを囲んでくる。


 一斉に襲いかかられたら、さすがに危ない。ゴブリンとは違い、草犬はランクの高い魔物なのだ。


俊足スピードスター!」


 頭上からエリスの声が響き、俺とシデンの身体が光を帯びる。エリスの補助魔法『俊足』は、すばやさを大幅に上昇させる効果がある。


 ただでさえ反則級のすばやさを持つ俺が、さらに強化された。


 たとえ赤い草犬が通常の3倍の速度でも、今の俺にはナメクジのように遅く見える。


 勝負は一瞬だった。


 俺は赤い草犬との間合いを一気に詰め、斬り伏せた。さらに周囲の草犬たちを、次々と斬り倒していく。


 その脇では、シデンが次々と草犬をなぎ倒していた。


 赤い草犬からは、ゴブリンキングのものとは異なる、赤い結晶体が手に入った。用途は不明だが、いずれ役に立つかもしれない。


 俺はそれを、ゴブリンキングの黒い結晶体を入れている袋に放り込んだ。


 しばらくして、先行して逃げていた馬車がエリスの連絡を受けて戻ってきた。


「こんなことなら、護衛を引き受けておけば報酬ももらえたのにね。」


 フィーネがぼやく。


 俺たちは再び馬車に乗り込み、モルドーの町へ向けて旅を再開した。


――そのとき。


 俺の懐の袋の中で、ゴブリンキングの黒い結晶体と、赤い草犬の赤い結晶体が触れ合い、ゆっくりと溶け合っていく。そして、赤黒い光を放ちながら、一つの結晶体へと姿を変えていった。

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