第87話 マーシャルじいさんにゃ
テオの村は、家が30件程度集まって出来た小さな村だった。
村に入ると村人達は気軽にロンに声を掛けてきた。
「おや、ロン。久しぶりだね。今日は、テッドと友達も一緒かい。あんたは、この村は、初めてだね。」
「理沙です。初めまして。」
「マーシャルじいさんは、何処だい。」
「マーシャルじいさんなら、いつもの場所さ。」
「酒場かい。」
「朝から飲んでるよ。」
「そうかい、ありがとうよ。」
村の中央に小さな酒場があった。
入口を開け、中に入るとカウンター席にいかにも魔法使いというローブを着たおじいさんが酔いつぶれて寝ていた。
「よう、ロン。昼間から珍しいな。今日は女連れかい。」
店のマスターがロンに声を掛けてきた。
ロンはこの村では人気者のようだ。
「マスター、今日は飲みに来たんじゃない。マーシャルじいさんに用があってね。」
「残念だが、じいさんなら酔いつぶれて寝ちまったよ。こうなったら中々起きないからね。」
「しかたがないな、ついでだから、家まで運んでいってやるよ。」
ロンは、カウンターで酔いつぶれて寝ているマーシャルじいさんを軽々と持ち上げた。
「悪いね、ロン。頼んだよ。」
「いいてことよ。マスター。」
マーシャルじいさんは、ロンに持ち上げられても全く起きる様子がなかった。
「理沙、じいさんの家に行くぞ。」
酒場の隣の小さな家がマーシャルじいさんの家だった。
「じいさんは飲みに行くのに便利だからってここに住んでいるらしい。」
テッドが教えてくれた。
ロンは何度も運んできたことがある様だった。
慣れた様子で家に入っていきマーシャルじいさんを奥の部屋のベットに寝かせた。
「どうせ、酔っている間は役にたたないからな。ゆっくりと待たせてもらうか。」
ロンは戸棚からカップを取り出し馴れた手つきでコーヒーを人数分準備をした。
特にすることもなく、理沙はマーシャルじいさんを観察することにした。
マーシャルじいさんは長い白髪と胸まである髭を生やしていたが年寄りらしくないパンと張った若々しい肌をしていた。
以外と若いのかもしれない。
それからおよそ3時間、いびきをかいて寝ていたマーシャルじいさんがゆっくりと目を開けた。
「なんだロンか。水をくれんか?」
「起きたか、マーシャルじいさん。」
マーシャルじいさんはロンから水を受けとると一気に飲み干した。
「ふー、ところでその女の子は誰かな?」
「初めまして、理沙と言います。」
「ほう、あんた異界人だな。」
「分かるんですか?」
「分かるとも、こっちの世界にそんな奇妙な格好をしている者は居らんよ。」
「奇妙ですか。結構、可愛いと思ってたんだけど。」
「それでわしに何の用じゃ?」
「実は元いた世界に帰る方法を教えてもらいたくて。」
「異界にか。それはわしも知らん。」
「そんな……」
「知らんがヒントならやろう。異界に帰るなら異界から自分を呼んだ者を捜すことじゃ。」
「私を呼んだ者?」
「異界とこの世界は直接はつながっていない。だから、召喚されなければこっちに来ることはない。召喚した者なら送り返すことも出来るはずじゃ。」