第86話 森を歩けばにゃ
マナスの森は理沙の知っている普通の森だった。
「ロン、本当にこの森に危険な魔物がいるの?普通の森みたいだけど。」
「いるさ、ここの連中は皆、ワイルドで危険な奴等だ。」
「オーイ。ロン、今日は女連れかい?」
頭上からした声に上を見ると木の枝にファーの襟付きの黒のロングコートに淡いブルーのマフラー斜めにかぶった黒のボルサリーノと粋な格好のリスがいた。
「こいつは理沙、異界人だ。東の村の魔法使いのじいさんの所に連れていくところだ。」
「マーシャルじいさんの所か。」
「可愛い。」
「何。」
「理沙、その言葉は禁句だ。ミックは可愛いと言われるのが嫌いなんだ。」
何で私がリスに気を使わなきゃならないのよ。
ミックはするすると木から降りると今降りてきた木の幹に尻尾を叩きつけた。
ビシッ、メリメリ、ドドーン!
何と一抱えもある太い木がへし折れて倒れた。
「うそ、えっと格好良いって言ったのよ。」
「そうか、格好良いか。そうか、そうだよな。」
「理沙、ワイルドで危険だと言っただろう。この森の住人を見た目で判断しないことだ。この森は見た目が小さいとか可愛いとか思える奴ほど危険なんだ。」
「うん、良く分かった。」
ミックはするすると理沙の肩に登ってきた。
「お前、気に入った。俺もマーシャルじいさんの所に一緒に行ってやる。」
「ところでそのマーシャルさんてどんな人なの。」
「酒好きでだらしないが何でも知っているじいさんだ。酒さえ飲まなければ頼りになる魔法使いなんだがな。」
そんな会話をしながら森を進んで行った。
すると今度は地響きを上げながら身の丈3メートルはある牛の頭を持つ魔物ミノタウロスが現れた。
「ロン、今日こそはお前をやっつけてやる。」
ミノタウロスはポキポキと指を鳴らしながら迫ってきた。
「理沙、離れていろ。」
「ロン、大丈夫なの。」
「心配しなくてもロンなら大丈夫さ。危ないから離れて見物しよう。」
自信満々と立つミノタウロスに対して、ロンは大人と赤ん坊ほどの差があった。
「来な。」
「その上から目線の態度が気に入らないんだよ。」
ミノタウロスは拳を振り上げてロンに叩きつけた。
ロンはミノタウロスの拳を難なく受け止めた。
そのまま腕を掴み小枝でも振り回しているかのように軽々とミノタウロスを地面に叩きつけた。
ズドン!
「な、心配いらないだろ。」
流石にミノタウロスは頑丈らしく単に気絶しただけであった。
「また、今度ゆっくり相手をしてやるよ。もっと鍛えて出直すんだな。あ、聞こえてないか。」
こうして、森を抜けるまで次々とロンへ挑戦者が現れたがことごとく軽くあしらってしまった。
「ロンて強いんだね。テッド。ロンは、いつもこうやって挑戦を受けているの。」
「ああ、ロンを倒せば、この森のチャンピオンだからな。俺も時々、挑戦しているんだ。」
「もうすぐ、森を抜けるぞ。」
森を抜けるとそこは広い草原だった。遥か向こうに村らしく建物が集まって建っている。
「あれがマーシャルじいさんの住む、テオの村だ。」