第77話 決戦にゃ9
カザン王の率いる本隊は敵本隊と乱戦となっていた。
ドーラが無差別に放った光弾による攻撃でモーリス軍は暴走し、闇雲に突っ込んできたのである。
例え数の上ではモーリス軍が多くても指揮官がいなければ数の有利は無いに等しかった。
しかし、モーリス軍は、一つの目的のためだけに動いていた。
ただ一つとの命令『ミーナ姫を奪え!』に従って。
「ミーナ姫を守れ!」
ミシワール兵はつい先日まで敵として戦っていたローマシアの姫を守るため懸命に戦っていた。
「すまぬ、カザン王。」
「良いってことよ。」
「お父様、御無事でよかった。お母様は?」
「心配するな無事だ。お前にも苦労をかけてすまんな。」
ローマシアのマリウス王とデュークはカザン王の本隊に合流していた。
「姫には悪いが前線に来てもらって正解だったよ。護衛に兵をさいていたらとても前線は維持できなかった。」
「私は前線で戦わせていただけて感謝してます。」
「とにかく、ここは私達に任せて少し下がりなさい。」
「はい、お父様。」
ミーナはミシワール軍の後方へと移動した。
しかし、この判断が間違いであった。
ミーナがマリウス王達と距離を開けた瞬間、突如、地面が盛り上がりミーナとマリウス王達との間に壁が出来たのである。
壁はミーナと護衛の兵を取り囲む様にそびえ立っていた。
「何だ、この壁は?」
「ミーナ、無事なのか?」
「大丈夫よ。」
壁の向こう側から聞こえるミーナの声にマリウス王は、安堵していた。
「喜ぶのはまだ早いですよ。マリウス。」
頭上からの声にマリウス王が見上げると壁の上にシェードが立っていた。
「シェード、貴様一体何をしようとしているのだ!」
「何を姫の身体の中から龍珠を手に入れるんですよ。」
護衛の兵と共に壁の内側にいた兵が突然、護衛の兵を斬り倒しミーナを捕まえた。
「何をするのです。離しなさい!」
「貴様、何をしている。ミーナに手を出すな!ミーナを殺したら龍珠は手に入らんぞ!」
「大丈夫です。殺したりはしませんよ。」
闇ギルドのギルがミーナを捕まえて壁の上に登ってきた。
「よくやった、ギル。良いぞ、オーラン。」
ギルがミーナをシェードに引き渡すと壁が更に盛り上がり巨体なゴーレムに姿を変えた。
ミシワール兵が弓を向けるがミーナに当たることを恐れて射ることができない。
更にゴーレムを囲んでいた兵がミシワール兵に剣を向けた。
「貴様ら、何をしている。」
ゴーレムの周囲の兵は、シェードの配下の旧ローマシア近衛兵がミシワール兵に化けていたのだ。
「ドーラ達が暴れてくれたのでことを進めるのが楽だったよ。」
「シェード、ミーナを離せ!」
「用がすんだら離してやるわ。」
シェードは、懐からの刀身の黒い短剣を取り出すといきなりミーナの胸に突き立てた。
「ミーナ!」