第70話 決戦にゃ2
翌、早朝、ミシワール軍とモーリス軍との戦いの火蓋は切って落とされた。
モーリス軍はローマシア兵を前面に数にものをいわせて前線を押し進めてきたのだ。
モーリス軍は大盾を持った歩兵部隊を先頭に前進してくる。
「打ち方用意、放て!」
対するミシワール軍弓部隊が矢を放つ。
矢はモーリス軍の前面に配置されたローマシア兵に雨の様に降り注ぐ。
しかし、矢はその大半が大盾によってふせがれる。
「盾で防がれているぞ。矢に変えろ、火矢だ、火矢を放て!」
続いて、ミシワール軍に火矢を射掛ける。
モーリス軍の歩兵が掲げる大盾に次々と火矢が刺さり、燃え上がる。兵が燃え上がる大盾を手放した所に矢が降り注ぐ。
ローマシア兵は後退しようとするが後方から魔人と魔物が槍で突きたて後退することを許さない。
モーリス軍は元ローマシア兵が次々と倒れるのをものともせず、ミシワール軍に向かって進んでくる。
「くそ、被害にあっているのは人ばかりだ。」
「カザン王、このままでは直に前線が押し上げられ、包囲されてしまいます。」
「よし、弓部隊が一斉に放った後に突撃する。目指すは敵の本陣。魔人の首を取るぞ。」
「分かりました。」
「弓部隊、一斉に矢を放て。」
矢がモーリス軍に降り注ぎ、一瞬、前進が止まる。
「全軍、突撃。」
カザン王の号令が響き渡り、ミシワール軍はモーリス軍に向け突撃を開始した。
もとより、戦う意思のない、ローマシア兵は一気に崩れ、ミシワール軍はモーリス軍の魔人、魔物部隊と衝突した。
その中でローマシア兵が魔人、魔物に反旗をひるがえした。
「どうせ死ぬならモーリス軍と戦うぞ。俺達は、ローマシア人だ。」
次々と魔人、魔物に倒されながら、ローマシア兵はミシワール兵と共に剣を振るった。
しかし、ミシワール兵は新参兵が多く練度に欠けており、徐々にモーリスの魔人達に圧倒され始めた。
その時である。
「カザン王、援軍です。」
モーリス軍の側面に南から騎馬部隊約1000人が突っ込んだのだ。
モーリス軍は思わぬ側面からの攻撃に混乱した上にミシワール軍と騎馬部隊との挟撃に遭い壊滅状態であった。
「カザン王、遅れたが援軍に来たぞ。」
それはリーンから南に逃れたマリウス王であった。
マリウス王とデュークは真っ直ぐミシワールに向かうのではなく南に下りたのだ。
村や町を巡り兵を募って戦場に駆けつけたのであった。
「マリウス王。」
「お父様。」
「ミーナ無事か。心配を掛けた。だが今は戦いに集中するぞ。」
マリウス王が連れた兵は1000人程であったがそのほとんどが冒険者ギルドに所属する冒険者たちであった。
一人一人の能力は通常の兵を遥かに凌ぐ実力者ばかりであった。
「おのれマリウスめ、数では圧倒的に多いのだぞ。何をしている。落ち着いて体制を立て直すのだ。」
魔人のギリアが叫ぶ。
ギリアはマリウス王に化けていた魔人である。
獣の様にしなやかな筋肉に身を固めたパワーとスピードで敵を圧倒するジュノとは異なり、ギリアは手にする剣で敵を倒す剣士であった。