第7話 ゴブリンキングをやっつけるにゃ
翌朝早く、ゴブリンキング討伐クエストに参加するメンバーは村の入口に集まっていた。討伐隊のリーダーはバロンだ。
「馬の匂いに釣られてゴブリンが洞窟から出てきたところを叩いて数を減らす。ゴブリンキングは遠距離から弓と魔法で弱らせてから止めを刺す。」
作戦は単純明快だった。
俺たちはゴブリンの洞窟を目指して村を出発した。洞窟まではゴブリンに気づかれないよう、慎重に歩を進める。囮の馬を引く役は、ヒートウインドのエドニスが担い、隊列の最後尾にいた。
洞窟まであと少しというところで、ブナの林に差し掛かった。その時、隊列の先頭を歩いていたカマロに、木の上からゴブリンが襲いかかってきた。
飛び降りの勢いを利用したゴブリンの棍棒を、カマロは咄嗟にかわしたが、そのまま地面に倒れ込む。倒れたカマロに覆いかぶさるゴブリンを、フィーネの放った矢が貫いた。短い悲鳴とともに、ゴブリンは霧となって消えた。
「ゴブリンの襲撃だ!」
バロンの叫びが響く。
気づけば、周囲は百を超えるゴブリンに囲まれていた。さらに後方には、数体のホブゴブリンと、巨体のゴブリンキングの姿も見える。
風下からの奇襲により、鼻の利く俺も、獣人のカマロも気づけなかった。ゴブリンを知能が低いと侮っていた油断が招いた結果だった。奇襲は完全に成功し、討伐隊は一時的に混乱に陥った。
ゴブリンは一体一体なら弱いが、集団で襲われれば熟練の冒険者でも命を落とすことがある。しかも今回は、数の多さに加え、ゴブリンキングまでいる。
俺たちの「数を減らしてからボスを倒す」という計画は、開始早々に崩れ去った。
それでも冒険者たちの個々の能力は高く、すぐに陣形を立て直し、ゴブリンを圧倒し始めた。
ゴブリンキングはまだ後方で動かず、周囲には4体のホブゴブリンが控えている。
「キングが動く前に、1体でも多くゴブリンを減らすぞ!」
バロンが叫びながら、銀色の柄の長い大斧を振り回し、2体のゴブリンを真っ二つにしていた。
周囲を確認すると、討伐隊のメンバーは全員無事。それぞれのパーティが連携し、次々とゴブリンを倒していく。霧となって消えたゴブリンの残りは、約50体ほど。
数で圧倒して一気に討伐隊を仕留めるつもりだったゴブリンキングは、予想外の苦戦に怒りを露わにした。そして、配下のゴブリンを弾き飛ばしながら、討伐隊に突撃してきた。
「俺に任せろ!」
怪力自慢のドワーフ戦士エドニスが、ゴブリンキングの攻撃を正面から受け止めた。彼は討伐隊でも随一の怪力の持ち主である。
バキン!
ゴブリンキングが振り下ろした大槌が、エドニスの大斧を一撃で砕いた。衝撃でエドニスは吹き飛ばされ、地面を転がる。大槌を受け止めたのが斧だったおかげで命は助かったが、重傷でこれ以上の戦闘は不可能だった。
ゴブリンキングの突撃と同時に、4体のホブゴブリンがバロン、ニックス、サリーン、カマロ、ジャン、ヴェイロンの6人に襲いかかる。すでにそれぞれが複数のゴブリンを相手にしている状況で、誰もエドニスの救援に回れなかった。
ゴブリンキングは、動けないエドニスに止めを刺そうと、大槌を振りかぶる。
ゴアーーーッ!
その瞬間、ゴブリンキングが片手で顔を覆い、悲鳴を上げた。左目から血が吹き出している。
ゴブリンキングとエドニスの間には、剣を構えたにゃんこ騎士――俺の姿があった。
エドニスが殺られると思った瞬間、俺の身体は勝手に動き、ゴブリンキングの顔面に斬りかかっていた。
「シデン、フィーネ! エドニスを助けるにゃ!」
ゴブリンキングは怒りに我を忘れ、大槌を振り回しながら俺に襲いかかってきた。
『俺ってこんな熱血キャラじゃなかったよな!?』
俺は前転して攻撃をかわし、ゴブリンキングの左足の腱を斬った。
ギャー!
悲鳴を上げて、ゴブリンキングは仰向けに倒れる。
俺は大きくジャンプし、回転で勢いをつけてゴブリンキングの胸に剣を突き立てた。
グギャーーッ!
断末魔を上げながら、ゴブリンキングは黒い霧となった。しかし、いつものように霧散せず、一ヶ所に集まって拳ほどの黒い結晶体となり、地面に落ちた。
「ゴブリンキングの結晶体……?」
俺はとりあえずそれを拾い、懐にしまった。
まだ残りのゴブリンはいる。しかし、周囲を見渡すと、バロンが最後の1体のホブゴブリンを切り倒したところだった。
ゴブリンは10匹ほど残っていたが、ゴブリンキングの死により敗走状態に陥っていた。俺たちに追撃する体力は残っていなかったが、統率者を失ったゴブリンは小規模な群れとなり、力量の低い冒険者でも十分に対処できるレベルだという。




