第68話 モーリスの軍勢にゃ
ミシワールのミーナの元にデュークからマリウス王とエレナ王妃を救出したとの一報が伝書バトにより届けられたの翌日の午後であった。文には魔人が狙っているものが龍珠であり、龍珠がミーナの身体の中にあることが記されていた。
「お父様とお母様は無事だったのね。よかった。」
ミーナは喜びの涙を流した。
魔人の狙いは自分の中にあるという龍珠であることを知ったものの、自分の中に龍珠があるという自覚は全く感じられなかった。
「マリウスとエレナが無事でよかった。これで、心置きなく奴らを叩ける。しかし、ミーナの身体にあの伝説の龍珠が封印されているとは…。我が家の言い伝えでも竜珠のことは触れてある。だが、それを金龍が誰に託したかまでは分からなかった。」
カザン王の祖先もマリウス王の祖先と同じく、金龍と共に黒龍と戦っていた。
「奴らは龍珠の在り処を知っているのかにゃ?」
「分からんがミーナ姫と龍珠を奴らに渡せないことには変わりはない。」
「それじゃあ、予定を変更してミーナを城に残した方が良いんじゃにゃいか。」
「それは嫌です、私も戦いますわ。」
「そうだな、決戦の時、城の守りに残せる兵は少ない。目の前で守る方が、確実だろう。」
「分かったにゃ、全力で守るにゃ。」
ミシワールへ続く街道は魔人の引き連れた魔物で溢れていた。
魔人達は既にその正体を隠すことを止めていた。
ロジャー砦ではメジナが執務室の窓から見える街道を埋め尽くす魔物の光景に顔を青くしていた。
「絶対に門を開けるなよ。リーンに援軍を要請するのだ。」
「魔物はリーン方面からやって来てます。伝令を派遣することは不可能です。」
「くそ、カジキは手配書の相手を探しに出て行ったきり、戻ってこないし、私はどうしたらいいんだ。」
執務室のドアが開けられ、数人の兵が入ってきた。
「何だ、お前達、許可なく私の部屋に入ってくるなど無礼であろう。」
「やかましい、さっさと砦の門を開けて、我らが主を招き入れるのだ。」
「何を言っているのだ。お前は?」
兵はその姿を魔人に変えた。
「ひぃ、魔人!」
メジナが悲鳴を挙げる。
その時、砦のあちこちで悲鳴が挙がり始めた。兵に化けていた魔人や魔物が次々とその正体を現し、人の兵士を制圧していった。
砦の門が開けられ、馬程の大きさのトカゲにまたがった、ドーラ、ジュノとマリウス王に化けていた魔人が魔人と魔物の軍勢を連れて現れた。
砦の門の前の広場に集められた砦にいた人間にドーラが語りかけた。
「私はドーラ。お前たちは私に従って貰う。」
「何だと、誰がお前達などに従うか。すぐに陛下が討伐の兵を送って下さる。」
メジナが柄にもなく虚勢を張った。
「陛下とは俺のことかメジナ。リーンは既に我らモーリス軍の手にある。討伐の兵など来ぬわ。」
マリウス王に化けていた魔人がマリウス王の姿になり、メジナに声を掛けた。
「モーリス島の魔人か…。」
メジナは完全に言葉を失い、他の人間の兵士や街の人々は自分の目の前にいる魔人に従う以外、生きる残る術はないことを悟った。
「メジナお前たち人間は我らモーリス軍の先鋒としてミシワール軍と戦ってもらう。裏切ろうとしたら、背後から押しつぶす。死にたくなかったら、ミシワール軍を破るんだな。」