第52話 トロイの白い木馬にゃ
俺はモデラー魂に火を付けていた。
「にゃんこ、頼まれていた材料を持ってきたぞ。」
ハイザールが山の様な木材を抱えてやって来た。
「ありがとうにゃ。」
「良いってことよ。一つ目鬼がいなくなればまた旅人が安心して通れるからな。」
俺は剣で木材を器用に削り、5メートル程の木馬を造り上げた。
「木馬って、どう見ても馬にはみえないんですけど?」
「いいんだにゃ、船体部分に2名、左右のカタパルトデッキに2名の総定員数4名にゃ。」
「カタパルトデッキ?」
「細かいことは気にしなくていいにゃ。気を取り直して作戦名木馬開始にゃ!」
山小屋から東に進んだ尾根に一つ目鬼の砦はあった。砦と言うより城と言っていい程の巨大なもので完全に尾根を塞いでいた。
東に行くのであれば砦を通るしか道は残されていない。
一つ目鬼の砦の見張りは朝の見回りで砦の西に木製の白く塗った置物を見つけていた。
来人曰く木馬だ。
背丈が4メートルはある見張りの一つ目鬼は、木馬を軽々と担ぐと砦の中に入っていった。
「無事、砦の中に持っていったようね。」
「そうだな。俺は、運ぶだけでよかったのか?」
「来人が大丈夫って言ってるんだからいいんじゃないの。」
「そうか。」
「まあ、もしもの時は、フォローお願いね。」
木馬を一つ目鬼の砦の近くまで運んだのはハイザールだった。
砦からは見えない岩陰からフィーネとその様子を伺っていたのだ。
ミーナはもしものことを考えて山小屋で待つこととなり、アリアはその護衛である。
残りのメンバーはと言えば、トロイの木馬のごとく、来人が造った木馬に潜んでいるのである。
木馬の中には来人、シデン、デューク、ブリット、そして何故かエリスが隠れていた。
「来人、うまく砦の中に運びこまれたみたいね。」
エリスが俺の耳元でささやいた。
「作戦どおりにゃ。後は一つ目鬼が全員木馬の周辺に集まるのを待つだけにゃ。」
木馬は砦の中に入ってすぐのホールに運び込まれた。
見張りの一つ目鬼が木馬を砦に運んだところで見張りと同じくらいの一つ目鬼が現れた。
「オ前、何ダソレハ?」
「コレ、俺ガ見ツケタ、俺ノモノ。」
俺は木馬の覗き穴から外を伺っていた。一つ目をキョロキョロさせ手斧を持つ一つ目鬼の姿は、まさにザ○だ。
「ケチケチスルナ!」
いつの間にか一つ目鬼は、喧嘩を始めていた。
そして、都合の良いことに騒ぎを聞き付けて他の一つ目鬼達が集まってきた。
「1、2、3、4…5。良し全員集まってきたにゃ。エリス、今にゃ、ミ○スフキー粒子散布にゃ!」
「了解!」
エリスは木馬の頭の部分を開けて飛び立つとホール中にとうがらしとこしょうを粉末にしたものを大量に振り撒いた。
ホールはエリスの撒いたとうがらしとこしょうが煙の様に充満した。
一つ目鬼は、涙をボロボロ流し、くしゃみと咳で苦しんでいる。
催涙弾を打ち込んだ様な有り様であった。
「皆、いくにゃ!来人、行きまーす。」
俺を前頭にシデン、デューク、ブリットが木馬から飛び出した。もちろん、皆ゴーグルとマスクを装備している。
例え巨体の一つ目鬼が5人いようともまともに動けない状況では、俺達の敵ではなかった。
一つ目鬼達は手にした手斧を振り回し攻撃してきた。
しかし、目の見えない状態での攻撃などかわすのは容易く、俺は、木馬を運び込んだ奴と次に現れた奴を一気に斬り倒した。
その間にシデン、デューク、ブリットがそれぞれ一体ずつたおしていた。
戦いにおいて、強い敵に対する作戦は決してひきょうではないが圧倒的な勝利であった。
一つ目鬼を倒した時に残された魔素の結晶体は、全て、ブリットが飲み込んでしまった。一つ目鬼の力も取り込んでいるらしい。
振り撒いたとうがらしとこしょうが風で流されどうにかゴーグルとマスクがいらなくなった所にエリスに連れられてフィーネとハイザールがホールまでやって来た。
「本当にあいつらを倒しちまうとはね。」
「頭脳の勝利にゃ!」
「御主人様の素晴らしい作戦のおかげです。しかし、少し物足りなかったですね。」
「それは俺も同感だ。なぁ、シデン。」
「そうだな、期待外れだったな。」
「この男どもは、何を言ってるんだか。」
キャー!
「あの声は、エリス?」
ホールの奥の部屋からエリスが飛び出してきた。
「どうしたエリス、勝手に先に行ったら危ないぞ。」
デュークの小言を無視してエリスは叫んだ。
「で、出た!でかい奴!」
エリスの言葉と同時にドスンドスンと足音を響かせ、先程の奴の倍はある巨体の一つ目鬼が巨大な斧を持って奥の部屋から現れた。
「騒ガシイト思ッテ出テキテミレバ何ダ、オ前達ハ?」
「物足りないなんて言うからやばそうなのが出てきたじゃない!ハイザール、5人じゃあなかったの!」
「すまない、俺もこんなのがいるなんて知らなかったんだ。」