第5話 酒場に行ったにゃ
サイノ村の冒険者ギルドは、村の酒場に併設されていた。
酒場に入ると、10人ほどの冒険者風の男女が酒を酌み交わしていた。ざわつく空気の中、テーブル席に座っていた若い剣士風の男がこちらに気づき、声をかけてきた。
「エリス! 良かった、無事だったのか!」
「シデン! 私がそう簡単にくたばったりしないわよ。」
「それはそうだが、はぐれて戻ってこないから心配してたんだぞ。」
「ちょっとは危ないところもあったけどね。」
「ところで、そっちの獣人は?」
「こっちは来人。にゃんこ騎士らしいわ。危ないところを助けてもらったの。」
「俺はシデン。仲間が助けられたんだ、感謝する。」
「それは気にしなくていいにゃ。ただ、この世界のことがよく分からないから、いろいろ教えてもらえると助かるにゃ。」
「この世界のことが分からないって……あんた、もしかして“異界人”か?」
「異界人?」
「たまに、あんたみたいに別の世界から来たって奴がいるんだ。そういうのを“異界人”って呼んでる。異界人は、こっちじゃ見かけないような変わった服装や装備をしてるんだが……あんたみたいな姿の奴は初めてだな。」
「俺は本当は人間なんだにゃ。気がついたら、にゃんこになってたんだにゃ。とりあえず、元の姿に戻って、元の世界に帰るのが目的にゃ。」
「それは大変だな。でも、この辺の連中はあんたの姿を見ても驚かないから、心配しなくていいさ。」
「そうみたいだにゃ。村の入口でも特に驚かれなかったにゃ。」
確かに、酒場の中を見渡すと、数人の獣人らしき姿が見える。ただし、あちらは“リアル系けもの”で、こちらは“ゆるキャラ系けもの”である。見た目のかわいらしさが、まるで違うのだ。
「こう見えて、来人はかなり腕が立つのよ。」
「そうなのか、来人。それなら手を貸してくれないか? どうやらゴブリンの中に“ゴブリンキング”がいるらしくて、手が足りないんだ。もちろんギルドの依頼だから、報酬は出る。」
ゴブリンキングがどれほどの強さかは分からないが、普通のゴブリンがあの程度なら、それほど心配することもないだろう。この知らない世界で生きていくには、金も必要だ。危なくなったら逃げればいい。
「よし、俺も参加させてもらうにゃ。」
「助かるよ。」
「なにこのかわいいの? もふもふして気持ちいい!」
突然、背後から抱きしめられた。
「な、何だにゃ……」
振り返ると、緑色の髪と瞳を持ち、耳の尖った長身細身のお姉さんが俺に抱きついていた。
「フィーネ、何してるんだ、いきなり。」
「フィーネ。彼は来人。異界人らしい。ゴブリンキングの討伐に参加してくれることになったの。」
「よろしくね、来人。私はフィーネよ。シデンとエリスの仲間。」
「俺は来人にゃ。」
俺は、首に巻きついたフィーネの腕をそっと引き剥がしながら答えた。女性に抱きつかれるのは嫌いじゃないが、やはり恥ずかしい。しかし、まったく気配を感じさせずに背後から近づいてきたということは、相当な腕前なのだろう。
「俺とフィーネ、エリスの三人で“妖精剣”ってパーティーを組んでる。俺は見てのとおり剣士、フィーネは弓使い(アーチャー)で風魔法も使える。エリスは精霊魔法と回復・補助系の魔法が得意だ。」
そういえば、最初にこの世界の人たちと会ったとき、皆ずいぶん背が高いと思っていた。だが、ようやく気づいた。俺自身の身体が、かなり小さくなっているのだ。不親切にも、にゃんこ騎士の設定どおりの小柄な姿になっているらしい。
もともと、にゃんこ騎士はRPGゲーム内で使用できるマスコットキャラだった。もし身長がゲーム設定どおりなら、ゲーム内で使えていた技や魔法も、この世界で使える可能性があるかもしれない。
見た目に反して、にゃんこ騎士は高い戦闘力を誇るキャラクターだったのだから。




