第49話 ミドラス山脈へ行くにゃ
俺は電光石火で走り、先行していた皆の乗った馬車に追いついた。
「来人、大丈夫?肩から血が出てるわ。」
「大丈夫、かすり傷にゃ。舐めてたら治るにゃ。」
傷は軽く、実際に舐めることはなく、ポーションを振りかけるとあっさりと治ってしまった。
「それで追手はどうしたんだ?」
「デューク、心配しなくていいにゃ。皆、しびれて倒れているにゃ。しばらくは動けないにゃね。」
「あの人数をこの短時間で…。新しい力の効果なのか。」
「まあ、自分で言うのもにゃんだけど、雷神の力は凄いにゃ。」
「追手は直ぐにはこないだろうけど、このまま街道を進んでオクト村に行くより、村とミシワールとローマシアの戦場を大きく迂回して進むべきだと思うんだが。」
「俺はデュークに任せるにゃ。」
「俺も依存はない。」
「私もよ。」
シデンとフィーネが俺に同意し、俺たちは、デュークの提案どおり街道を外れて進むこととなった。
俺たちが選んだのはオクト村の手前で街道を北に外れて、戦場を迂回するため、そのまま北のミドラス山脈を越えるルートだ。
ミドラス山脈は標高が高く険しい上、多くの魔物が住むことから魔の山脈と呼ばれ、人が通ることはほとんど無かった。
通常であればミーナ姫を連れて行く様な場所ではないがローマシア軍に追われミシワールとは戦争状態であるために他に道は無かった。
俺たちはミドラス山脈の麓、山道の入口に地図にも載っていない木こり住む家が十軒程の小さな集落に立ち寄った。
村の代表はデックスと言う木こりで気の良いおっさんだった。
俺達は集落には宿屋がなかったことから集落で一番大きな家であるデックスの家にやっかいになっていた。
「あんた等、街道も通らずミドラス山脈を越えてミシワールへ行こうなんて訳ありだね。」
「訳ありにゃ。」
「ちょっと、来人。」
「そうか、訳ありか。あんた、正直だな。気に入った。お嬢さん、心配しなさんな、訳は聞かないよ。知ってもしかたがないからな。」
「それは何でにゃ?」
「今までに何人もの奴がミドラス山脈越えをしていったが帰ってきた者は1人としていない。もちろん、無事抜けた者もいるだろうが、途中で魔物に襲われた者がほとんどだ。まあ、山に入る前にしっかり装備を整えて行くんだね。少々、高いが品物は揃っているからよ。」
訳ありで山に入る者に装備を売るのもデックスにとって生活の為である。
「デックス、助かるよ。」
「気にするな、こちとら商売よ。」
俺達はデックスから防寒服等を買い込み山の装備を整えた。
「あの山で一番怖いのは一つ目鬼だから喰われないように気をつけるんだな。」
「一つ目鬼位、やっつけてやるにゃ。」
「おう、威勢がいいね。まあ、がんばるんだな。」
デックスの家で一晩休んだ俺達は翌日の朝早く、ミドラス山脈へ登っていった。